転生人語 #005 ― 分岐点 (人生を変えた夏の自由研究)―
昔から、今が人生の分岐点だなんて分かる人はいない。これも間違いなく、分岐点の起点の話だ。不思議と本人だけが覚えていたりする。その時の光景を。
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中学一年の夏休み、自由研究の課題をどうするか悩んでいた。たまたま家にあった「学研の科学」を読んでいて——いや、正確には母が毎月購読してくれていて、僕は興味がないのに仕方なく読んでいたのだ。うちは貧乏で、マンガやゲームは買ってもらえなかったが、なぜか学研だけは届いた。読むものが他になく、毎月ペラペラとページをめくっていた。
その時、目に止まったのが『なぜ、月は地球に落ちないのか?』という話だった。地球の重力と月の進むスピードが釣り合っているために落ちない——そんな説明があったように記憶している。細かいところは忘れたが、その“釣り合っている”という感覚だけは妙に腑に落ちた。
月がたまたま地球の近くを飛行してきて、重力に捕まってしまい、仕方なく地球の周りをぐるぐる回る羽目になった不運な月。壮大すぎて、僕には忘れられない話になった。
そこで僕は、この話を模造紙にマンガで描き、自由研究として提出した。地球に捕まった不幸な月のマンガは、自分では傑作だと思った。先生に「どうしてこのテーマにしたの?」と聞かれた時、学研の本を参考にしたとは言わず、「月を見て不思議に思って、図書館で調べた」と嘘をついた。
先生は感心して、こう言った。
「君は高校に行ったら“物理”という科目を勉強するといい。そうすれば、もっと正確に『なぜ月は落ちないのか』を計算できるようになる」
その後、僕は高校で物理を選び、重力や加速度を学び、自然に理系の大学へ進み、技術系の仕事についた。
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そもそも、人生の分岐点なんてものは通り過ぎてから気づくものだ。
日々の小さな刺激の中で、どれが分岐点になるかなんて分かるはずがない。もし分かったら、なんとつまらない人生だろう。
歳をとってからゆっくりと人生を回想した時に、
「あれが自分の分岐点だった」と思い出すので充分なのだ。
前世でも同じだった。分岐点は、いつも静かに通り過ぎていく。
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