転生人語 #045 ― 恋愛は最高の? ―
人は誰かの一言で気持ちが晴れたり、落ち込んだりする。そうやって恋の予感にいつの間にか気づく。若い“私”も何かが始まろうとしているようだ。
***
腹ペコは最高のスパイス。寝不足は最強の睡眠剤。じゃあ恋愛は?と考えたのは、あの日の夜だった。
仕事でミスをして落ち込んでいた帰り道、彼から「今日、少し話せる?」とメッセージが来た。
その一言で、沈んでいた心が少しだけ浮き浮きした。会いたい気持ちと、弱っている自分を見られたくない気持ちが胸の中でぶつかり合ったけれど。
駅前で彼を見つけた瞬間、
「大丈夫?なんかちょっと暗い顔してる」と、言われた。そういう私に気づいてくれて嬉しかった。
「仕事でミスしちゃって」
「そっか。たいへんだったな」
その言葉に、涙が出そうになるのを必死でこらえた。
信号で立ち止まった時、彼の肩が少し触れた。離れればいいのに、なぜかそのまま動けなかった。触れているのはほんの一部なのに、心臓の音だけがやけに大きい。
信号が青になると彼は私の手をつないで、歩き出す。
「手、冷たいね」
「今日はずっと緊張してたからかも」
彼の手は温かかった。
その温度に、安心と不安が同時に押し寄せる。
“このまま好きになっていいのかな”
“期待しすぎたら、傷つくかもしれない”
そんな考えが頭をよぎるのに、手を離したくなかった。
ご飯を一緒に食べて、おしゃべりして、笑って、家に着く頃には、ミスのことも、上司の顔も、もうどうでもよくなっていた。代わりに、彼の声と手の温度だけが、ずっと残っていた。
だから私は思う。
恋愛は最高の“現実逃避剤”だ。
効き目は強烈で、副作用が怖いけど、それでもまた会いたくなるのだから、もうやめられない。
***
そもそも、恋とは好きな人の言葉ひとつで心が晴れる妙なる薬である。元気のない“私”が、彼の手の温かさや言葉で軽くなるのも、薬が効いたからだろう。その会話の余韻は、きっと彼女の胸に長く残り、”私”を止めることは出来なくなるに違いない。
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