転生人語 #040 ―知らなかった痛み―
昔から「頼りがないのは良い便り」とはよく言うが、そうでもないこともある。
今日の僕は、ちょっと辛かったようだ。
***
先週、僕は仕事で珍しく大阪に日帰り出張に行った。行く前に、ふと大学の友人が大阪に住んでいることを思い出した。
僕ら大学時代の仲良しは、東京で毎年のように近況報告と称して飲み会をしていた。だが、就職して大阪勤務となった彼とは、しばらく会っていなかった。正確に言うと、就職して最初の数年は新幹線で参加してくれていたが、結婚してからはぱったり来なくなった。
僕たちは「家族もできたし、忙しいよな」と諦めつつも、毎年声だけはかけ続けていた。彼からは毎回「参加できずにごめん」と返事が来ていた。
そんな彼に、大阪出張の連絡を入れ、帰りの新幹線までの時間で会えないかと聞くと、喜んでオッケーの返事が来た。梅田の居酒屋も予約してくれた。
当日、僕たちは二十年ぶりの再会を果たした。昔話に花が咲き、二時間なんてあっという間だった。合コンのこと、当時の彼女のこと、海にサーフィンに行ったり、山にスノボに行ったことも懐かしく語り合った。
そして、彼が会えていない仲間たちの近況も伝えた。
「あいつは結婚して子どもが何人いてさ」「あいつは中国に五年駐在してたぞ」そんな話をすると、「昔は想像できなかったよな」と笑い合った。
僕も自分の奥さんや子どもたちの話をした。そして、彼の近況を聞いてみた。
「俺、離婚したんだ」
彼はぼそっと言った。暗い声で、言いづらそうに。
えっ。
彼は僕ら仲間の中で一番モテていた。就職してすぐ結婚し、二次会で美人の奥さんと盛り上がったことを思い出した。
「いつ?」と聞くと、
「結婚して五年くらいかな」
「俺たち誰も知らないよね」
「ああ、ちょっと言いにくくてな」
あれ。
彼が飲み会に来られなかった理由は、てっきり家庭や子育てが忙しいからだと思い込んでいた。でも、まったく逆だった。
「なんで」
「はー……」と彼は黙り込んだ。
少しして、
「アイツが浮気したんだ」
「マジで……知らなかったよ」
きっと僕らには言いたくなかったのだろう。
「で、それからは?」
「あ、俺? 今、独身」
遠く離れた大阪で幸せに暮らしていると思い込んでいた自分が、急に恥ずかしくなった。
「そうか……そんなこと気にしないで、また東京出てきて、みんなで飲もうよ」
「うん、そうしたいけどな。なんかな。会いづらくて。今回は二人だったから、こんな話できたけどな」
この二時間、彼の気持ちに気づかず、昔話や家族の話を能天気に続けていた自分が恥ずかしくなった。
きっと彼は、この二時間ずっと辛かったに違いない。
「ごめん、知らなかったよ」
「謝ることはないよ。俺も早く新しいパートナー見つけようって思ったから」
帰りの新幹線で、気づけば涙がこぼれていた。
彼のことを理解しないまま、馬鹿話を続けていた自分が情けなかった。
僕に、彼のためにできることはないか。
そんなことを考えこんでしまった。
***
いまはスマホで簡単に連絡が取れる時代だ。
だからこそ、連絡がないというのは、案外“何かある”のかもしれない。
そもそもSNSは、趣味や生活が充実している人の話であふれている。
人は見せたいものだけを見せ、見せたくないものは隠す。
SNSだけを見ていると、世界は簡単に偏ってしまう。
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