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転生人語  作者: 岩田 ヒロ


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40/59

転生人語 #040 ―知らなかった痛み―

 昔から「頼りがないのは良い便り」とはよく言うが、そうでもないこともある。

 今日の僕は、ちょっと辛かったようだ。


 ***


 先週、僕は仕事で珍しく大阪に日帰り出張に行った。行く前に、ふと大学の友人が大阪に住んでいることを思い出した。


 僕ら大学時代の仲良しは、東京で毎年のように近況報告と称して飲み会をしていた。だが、就職して大阪勤務となった彼とは、しばらく会っていなかった。正確に言うと、就職して最初の数年は新幹線で参加してくれていたが、結婚してからはぱったり来なくなった。


 僕たちは「家族もできたし、忙しいよな」と諦めつつも、毎年声だけはかけ続けていた。彼からは毎回「参加できずにごめん」と返事が来ていた。


 そんな彼に、大阪出張の連絡を入れ、帰りの新幹線までの時間で会えないかと聞くと、喜んでオッケーの返事が来た。梅田の居酒屋も予約してくれた。


 当日、僕たちは二十年ぶりの再会を果たした。昔話に花が咲き、二時間なんてあっという間だった。合コンのこと、当時の彼女のこと、海にサーフィンに行ったり、山にスノボに行ったことも懐かしく語り合った。


 そして、彼が会えていない仲間たちの近況も伝えた。

「あいつは結婚して子どもが何人いてさ」「あいつは中国に五年駐在してたぞ」そんな話をすると、「昔は想像できなかったよな」と笑い合った。


 僕も自分の奥さんや子どもたちの話をした。そして、彼の近況を聞いてみた。


「俺、離婚したんだ」

 彼はぼそっと言った。暗い声で、言いづらそうに。


 えっ。

 彼は僕ら仲間の中で一番モテていた。就職してすぐ結婚し、二次会で美人の奥さんと盛り上がったことを思い出した。


「いつ?」と聞くと、

「結婚して五年くらいかな」

「俺たち誰も知らないよね」

「ああ、ちょっと言いにくくてな」


 あれ。

 彼が飲み会に来られなかった理由は、てっきり家庭や子育てが忙しいからだと思い込んでいた。でも、まったく逆だった。


「なんで」

「はー……」と彼は黙り込んだ。


 少しして、

「アイツが浮気したんだ」

「マジで……知らなかったよ」


 きっと僕らには言いたくなかったのだろう。


「で、それからは?」

「あ、俺? 今、独身」


 遠く離れた大阪で幸せに暮らしていると思い込んでいた自分が、急に恥ずかしくなった。


「そうか……そんなこと気にしないで、また東京出てきて、みんなで飲もうよ」

「うん、そうしたいけどな。なんかな。会いづらくて。今回は二人だったから、こんな話できたけどな」


 この二時間、彼の気持ちに気づかず、昔話や家族の話を能天気に続けていた自分が恥ずかしくなった。

 きっと彼は、この二時間ずっと辛かったに違いない。


「ごめん、知らなかったよ」

「謝ることはないよ。俺も早く新しいパートナー見つけようって思ったから」


 帰りの新幹線で、気づけば涙がこぼれていた。

 彼のことを理解しないまま、馬鹿話を続けていた自分が情けなかった。


 僕に、彼のためにできることはないか。


 そんなことを考えこんでしまった。


 ***


 いまはスマホで簡単に連絡が取れる時代だ。

 だからこそ、連絡がないというのは、案外“何かある”のかもしれない。


 そもそもSNSは、趣味や生活が充実している人の話であふれている。

 人は見せたいものだけを見せ、見せたくないものは隠す。


 SNSだけを見ていると、世界は簡単に偏ってしまう。


読んで頂き、ありがとうございます。

気に入って頂けたら、ブックマークや評価をもらえると嬉しいです。

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