転生人語 #028 ―演技か本性か、夏のキャンプで―
結婚して一緒に生活を始めると、「こんなはずじゃなかった」という話をたまに聞く。事前の調査は重要だ。若い男女が集まると、探り合いが始まるものだ。
***
「キャンプは女の子たちの実力が分かるんだぜ」
「何、それ」
「嫁さんに適してるかどうかが分かる」
そう友人に誘われて、男の子三人と女の子三人で一泊二日のキャンプに行くことになった。
大学の夏休み、二台の車で富士五湖のひとつの湖畔へ向かった。来た女の子はSちゃん、Tちゃん、Uちゃん。男の子は僕と、先ほどのP君、Q君。三人の女の子とは僕だけが初対面だった。
まずはキャンプ場に着く前の買い出しだ。車の中で今日の昼と夜、そして明日の朝のメニューは決めていた。手際よく野菜、肉、お菓子、ビールをカゴに入れていくのはSちゃんとP君だった。二人は普段からスーパーで買い物をしているのだろう。僕は自宅暮らしで、コンビニくらいしか行かない。
会計が終わるとP君が「レシートは俺が集めて、帰りに精算するから」と仕切る。その横でSちゃんは、無料でもらえる氷やドライアイスを集めてクーラーボックスに詰めていた。TちゃんとUちゃんは、手伝っている“ふり”をして横に立っているだけに見えた。多分、二人も僕と同じで、こういうことを普段やらない生活なのだろう。
キャンプ場に着くと、二つのテントとタープを立てる。当然、男の子三人の仕事だ。P君は慣れている。僕とQ君は見様見真似でペグを打ち、シートを張った。テーブルや椅子も組み立て、なんとか形になった。火起こしも男の子の仕事だ。女の子たちは、きっとこういう場面を見ているのだろうと思い、僕は張り切った。
お昼のカレーライス作りが始まると、やはりSちゃんが手際よく野菜を洗い、切っていた。そこで僕は気づいた。Sちゃんの爪は短く、薄い色のマニキュア。対してTちゃんとUちゃんは派手なネイル。あれでは野菜を切る前にネイルを切ってしまいそうだ。
「Tちゃん、お肉切れる?」
「無理、気持ち悪くて触れない」
「あたしも包丁怖くて持てない」
仕方なくSちゃんが肉も切っていた。きっとTちゃんとUちゃんはお嬢様育ちで、家では料理をしないのだろう。
お昼の後は近くの温泉へ行き、汗を流してさっぱりした。富士五湖まで来ると涼しくて気持ちがいい。
夜になり、焼肉をしながらビールを飲んでいると、Tちゃんが「トイレ行きたい。暗いから誰かついて来て。怖いから」と言う。
「いいよ」と僕は立ち上がった。LEDランプを持って二人で歩く。洗い立ての髪からシャンプーの匂いがした。甘え上手な子なのかもしれないと思った。
焚き火を囲んで六人で話していると、Sちゃんが「Uちゃん、ちょっと飲み過ぎだよ」と言う。
「平気だよ。このままテントで寝るだけ。終電気にしなくていいし」
そう言ってUちゃんはご機嫌で自分の話を続けた。焚き火の灯りと酔った彼女が妙に色っぽかったことを覚えている。
こんな感じの楽しいキャンプの思い出がある。あれからもう十年。
Sちゃんはしっかりした奥さんになっているだろう。
Tちゃんは料理ができるようになったのだろうか。それとも甘え上手のまま、そういうことをしない生活を手に入れたのだろうか。
Uちゃんはお酒で失敗せず、幸せになっているだろうか。
彼女たちが今どうしているか僕は知らない。ただ、それなりに幸せになっていればいいと思う。
***
「キャンプは女の子たちの実力が分かるんだぜ」は一理あるが、すべてではない。あれが演技ということもある。
そもそも恋愛そのものが、思い込みや勘違いで始まったりするのだから。お互いの駆け引きや、少しの“騙し合い”があっても不思議ではない。
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