転生人語 #024 ― 影のない人を見かけたら ―
わしは幽霊を見たことはないし、信じてもいない。でも昔から「見える」と言う人たちがいて、彼らは決まって同じような悩みを抱えている。
***
彼女には特殊な能力がある。成仏できずにこの世を彷徨う霊が、見えてしまうのだ。影があるかどうかで、それが霊かどうか判断できるらしい。
彼女が霊に話しかけると、霊は驚く。
「なぜ、あなたには私が見えるの?」
もちろん、周りに人がいない時だけ話しかける。そうでないと、ただの独り言に見えてしまう。それは彼女が小さい頃に身につけた、生きるための知恵だった。
「分からない。生まれた時から見えるの」
そう説明すると、霊は必ずこう言う。
「私を助けてほしい」
成仏できない理由は、必ず“杭”を残しているからだという。
生きていた頃に心に深く刺さった杭が抜けず、死んでもなおこの世に縛りつけられてしまう。それは、ある意味で生き地獄だ。
だから、彼女のように霊を認識できる人間に出会うと、霊たちは必ず助けを求める。
「お願いだから、私が残した杭を抜いて」
一番多いのは、愛する人を残して事故で亡くなった霊たちだ。
ただし、その杭には二種類ある。
ひとつは、愛する人が自分を忘れ、新しい誰かを愛し始めたことが許せない霊。もうひとつは、自分を忘れられず、新しい恋に進めない相手を気に病む霊。
前者は、なんとか別れさせれば成仏できると信じている。彼女がその人に直接干渉したり、誘惑して別れさせようとしたりしても、うまくいった試しはない。
後者も同じだ。
「あなたはもう忘れて、新しい人生を歩んでいい」と説得しても、これもまたうまくいかない。
やがて彼女は悩むようになった。――本当に、この能力を使ってまで霊を救う必要があるのだろうか。
そして彼女は、影のない人を見かけても、見て見ぬふりをするようになった。
***
そもそも、人間は昔から、霊やお化けの話が好きだ。
よくもまぁそんな話を思いつくな、と笑いながら楽しむ。
科学で説明できないことはまだたくさんあるが、それでも昔よりは減ったと思う。
「幽霊が見えますか?」と聞かれて、
「はい」なんて答えたら大変なことになる。だから、見える人たちはみんな「見えない」と答えるのかもしれない。
もし、影のない人を見かけたら――見て見ぬふりをしたほうがいい。
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