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転生人語  作者: 岩田 ヒロ


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転生人語 #023 ― ギターがくれた小さな勇気 ―

 歌の上手い人、楽器が弾ける人がうらやましかった。音楽センスなんて小さい頃に決まると言われていたので、わしは鼻から諦めていた。でも、そうでもない人もいるらしい。


 ***


 あいみょんの日本武道館・弾き語りワンマンライブを観て、とんでもない衝撃を受けた。たった一人で、ギター一本で、一万人以上の前に立って歌っている。声も震えず、ミスもせず。あたしには絶対無理だと思った。


 後で調べたら、彼女は二十三歳。あたしより若い。


 ところが、数日後、今までカラオケで歌うだけだったあたしが、ギターを買う決心をしていた。二十七年間、ギターなんて触ったこともないのに、あのライブを観て何かが取り憑いたとしか思えない。


 まずはユーチューブを漁った。初心者向けの動画がたくさんあって、ピックの持ち方、コードの押さえ方、ストロークの練習……見ているうちに、なんとか出来そうな気がしてきた。


 次の休日、楽器屋へ行った。

「初心者向きのギターありますか?これから始めるんです」

 そう言うと、店員さんが真新しいヤマハのギターを手渡してくれた。見た瞬間、あ、この子はあたしを待ってたんだ、と勝手に思った。


 ピックは柔らかめがいいと言われ、かわいい色を二つ選んだ。カポも必要らしいので買った。


「ところで、ギター鳴らして平気な環境?隣から苦情とか来ません?」

 そう言われてドキッとした。


 その場でジャラーンと鳴らしてみる。思ったより大きい。一人暮らしの家は防音にこだわって選んだけれど、少し心配になった。

 すると店員さんが、

「この消音パッドと、このミュートを使えばだいぶ静かになりますよ」と言うので、それも買った。


 ギターを背負って電車に乗ると、行き交う人がちらっと見る。

 “実は何も弾けないんですけどね”と内心笑っていた。


 家に帰って早速練習。ユーチューブを見ながらコードを押さえる。指が痛い。ピックで弾くと音が大きい。やばっと思って消音グッズをつける。これならお隣さんに迷惑かからないかな、とおっかなびっくり弾いてみた。


 こうして、あたしのギター生活が始まった。


 平日は仕事から帰って、八時から十時まで練習。弦を押さえるために爪は短く切った。でもすぐ指先が痛くなる。土日は朝から練習するけれど、やっぱり二時間が限界。


 そして、初心者の壁と言われるFコード。人差し指で全部の弦を押さえるバレーコードがどうしても鳴らない。ジャランじゃなく、ボヨヨーン。


 指は痛いし、バレーコードは押さえられない。一週間で早くも諦めムード。


 それでもあいみょんのMVを見た。なんでギター弾きながら歌えるの。才能ないな、と落ち込んだ。一週間ギターを触らず、彼氏と遊んだ。


「休み休みやればいいんだよ。そのうち指先が硬くなるから」

「え、弾けるの?」

「高校の時ちょっとね。バンドブームだったし」


 え、彼でも出来るのかと悔しくなり、帰ってまた練習を再開した。


 一ヶ月もすると、確かに指先が硬くなってきた。「君はロックを聴かない」を何度も練習した。コードチェンジが難しかったけれど、ユーチューブの先生を真似した。あたしの発見だけど、椅子に座るより立ってストラップつけて弾く方が調子がいい。なんとなく、あいみょんになった気がした。


 三ヶ月もすると、なんとか形になってきた。タブ譜が見られるユーフレットのサブスクも始めた。「君はロックを聴かない」と「マリーゴールド」を猿のように繰り返した。


 六ヶ月もすると、軽く歌いながら弾けるようになった。あとはコード進行を覚えて、ユーフレットを見ずに弾けたら完璧。少しはあいみょんに近づいた気がした。


 こんなに夢中になるとは思わなかった。

 彼にも「ギターに浮気された」と言われた。


 そんなことないよ。


 今、実は練習している曲がある。今度、初めてあたしの部屋に招待して、聞かせてあげる。


「君がいない夜を越えられやしない」


 楽しみにしてて。


 ***


 そもそも「好きこそ物の上手なれ」と言うように、

 好きだから上手になるらしい。


 わしも今から始めてみるかな。

 まずは、聞かせたくなる相手を探すところから。


読んで頂き、ありがとうございます。

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