転生人語 #014 ― 思い出話(誰にも言えない二人だけの記憶)―
今の人はうらやましい。いろいろなお付き合いをした後に結婚する。昔はそうもいかなかった。そして、結婚後にもこんな楽しい思いをしている人がいるなんて、うらやましい。
***
「昔、伊豆に旅行行ったの覚えてる?」
「うん、人気のない場所の貸し別荘に泊まった時のことでしょ」
そう、昔二人で夏の旅行に行ったのだ。この思い出は二人しか知らない貴重なことで、僕らが死んだらそんなことがあったなんて誰も知らないままになる。
「あとさ、二人で栂池にスノボ行ったのは?」
「えー、行ったっけ? 栂池? 岩岳じゃない?」
「そうだ、岩岳だ。そうそう、ペンションのおじさんが僕たちの席で話し込んで、なかなか離れなくて困ったよね」
「うんうん覚えてる。確か東京に行った息子さんのことが心配だって話してたよね」
そのシーンを思い出そうとするけれど、彼女の顔に白いモヤがかかってはっきり思い出せない。ただ、彼女の話し声は今も昔も変わらないので、それが遠い記憶を呼び起こしてくれる。
そう、僕たちは今、三十年も前の話をしている。
「こんな昔話は嫌?」
「ううん、お酒のツマミになるわ」
こんな思い出話は僕たちだけのツマミだ。甘酸っぱくて、くすぐったい味のするツマミだ。
「あの時、すっごいボロい車乗ってたよね?」
「それはアイツの車だよ。しょっちゅうオーバーヒートしてたでしょ」
「そうだっけ。ごめん、記憶があいまいかも。酔ってるからかな」
彼女は僕の前の彼氏を思い出している。僕もこれ以上話すと、彼女のことか、別の彼女のことか自信がなくなりそうだ。
三時間も話し込み、僕たちはそれぞれの家族が待つ家に帰っていった。また一年後くらいに会おうと約束して。
今日のことも思い出になるのだろう。二人だけの秘密の思い出として。
***
そもそも、思い出が多い人生は幸せだと言えるのではないだろうか。
それらを語れる仲間が多いに越したことはない。
しかし、男と女の間にもそういった思い出はたくさんあるのだが、それはその二人以外に共有することはできない。
いや、してはいけない。
それは昔からのルールだ。
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