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僕たちにはエラがない  作者: あめのすけぞう
それでも君が隣にいれば
18/21

17、君と回った夏祭り

日が暮れて、境内に並んだ提灯に灯が入る。

アスファルトに溜まった昼間の熱を撫でる風が吹くたび、提灯が闇の中でオレンジに揺れる。


待ちわびていたと言わんばかりに、ガヤガヤと声を重ねながら人々が集まって来る。


「お兄さん、寄っててよ」

「お姉さん、うまいよ」


立ち並ぶ夜店からは、呼び子の声。

そんな夜店を縫うように行き交う人々の足元で、揺れる音がした。 


ぴちゃん。


金魚掬いの屋台。

一匹の金魚が跳ねて、またビニールプールに戻る。


ぴちゃん。


「ああ、かわいい」


小さな女の子が、ビニールプールの縁に手を置いて覗き込む。


「おい、危ないぞ」

「……これ、ほしい」

「金魚?」

「きんぎよ」


女の子が満面の笑みを浮かべる。

父親が頭の後ろを掻いた。


そんな風景の中で、君と目が合った。


紅色の地に鮮やかな水色の朝顔が何輪もきれいに咲いた浴衣。

それが似合う君。

ごった返した中で迷っていた僕を、君はすくってくれた。


しゃがみ込んだ君。

その姿に目を奪われる。

僕を見ながら嬉しそうに笑うから、ふっと息が抜けた。


そこから君は、立ち並ぶ夜店を見て回った。


「あれ、おいしそう」


指を指しながら君が言う。


「うーん、たこ焼きとお好み焼き、どちらにするか、それが問題ね」


顎に手を当てながら、キメ顔をする。


「選べない。だけど、全部食べるのは無理よね」


帯の上からお腹をさする。


ゆっくりと回りながら、君はソースがたっぷりと塗られたお好み焼きと、甘くてかわいいりんご飴を選んだ。


「たこ焼きも、捨てがたかったんだけどね」


君が食べる顔を見る。

口の端にソースをつけながら笑うから、つい、目が離せなくなる。


気づけば、屋台の灯りも少しずつ落ち着いていた。

人がだんだんと高台の方へ流れていく。

その流れに乗って、君も高台の方へと歩いた。


祭りも終盤になると、集まった人々はみんな、空を見上げた。

高台にある境内から、見る夜空。

昼は晴れ渡っていたのに、少し雲がある。


ドォーン。


体の芯に響く音と共に、夜空に大輪の花が咲く。

次々に。

色鮮やかに。


ドォーン。


尾を引くように開くのは、菊。


ドォーン。


尾を引かないのは、牡丹。


ドォーン。


枝垂れて咲くのは、冠。


彼女がひとつひとつ、僕に言う。

僕は黙って聞いていた。

形も様々なそれらが、暗い闇の中に開いては、消えて行く。

その度に。


「きれい」


ほほえむ君の横顔を、僕はただ見ていた。


「本当は今日ね、思い切って好きな人を誘ったんだ」


君が少しうつむく。


「手紙で一方的に入り口で待ってますって書いたんだけどさ、やっぱり来てはくれなかった」


僕が黙って聞いていると、君が顔をあげる。


「わかってたんだけどね」


小さくつぶやくと、君の頬に雫が伝って落ちる。


僕は何も言えない。

慰めることも。

撫でてあげることさえ出来ず。

ただ黙って聞いていることしか出来なかった。


ポツリ、ポツリ。


雫が落ちる。


ドォーン。


最後の花火が上がる。

僕たちは、そのまましばらく空を見ていた。


帰り道、君はもう一度僕を見て笑う。

水の入ったビニール越しに。


「金魚ちゃんは、お名前何が良いかな?」


君がくれる名前なら、なんだって良いさ。


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