子どもは元気で外で遊ぶもの
ゼンゾーは刑事の仕事に出かけた。
スティーブもギタリストのオーディションとやらに行った。
オレは屋敷の広い庭でミアと遊んだ。
「オレを捕まえてみろ、ミア」
手も地面につけて、オレが走る。
それを追いかけて駆けるミアの笑顔があかるかった。
「ああっ……! 惜しい!」
オレのしっぽを掴みかけて空振りし、ミアが悔しがる。
「もう一回! 次は捕まえてみせるから!」
オレが直立したら、この光景はおかしい、たぶん。
身体のおおきな大人と少女の追いかけっこになってしまう。
オレが動物のように四本足で走るから、絵になる。少女とライオンの戯れみたいな絵になるのだ。
ミアが楽しそうだとオレも楽しい。
子どもは元気に外で遊んでいるのがいい。
スティーブが買ってきてくれたピンク色の『体操服』というやつもよく似合っている。
ミアが疲れたので、休憩してやった。
オレが地面に腹をつけて寝そべると、脇腹にもたれてミアも地面に尻をつけた。
たんぽぽの綿毛がふわふわと舞っていく。
「ハァハァ……。ゴゴって、すごいよね」
息を整えながら、ミアが言う。
「速いし、強いし、ハンサムだし……」
「ハンサムとは何だ」
「イケメンってこと」
「オレの見た目は人間ではないぞ」
「ライオンにもイケメンがいるってこと」
ミアはそう言うと、オレの短い体毛に顔を埋めてきた。もちろんパンツは穿いているが、上半身は裸だからだ。
子どもにしては高い鼻をひくつかせ、クンクンとオレの匂いを嗅ぐ。子犬のように。
「いい匂い……する」
「どんな匂いだ」
「お日さまみたいな、あったかい匂い」
「前にもそれ、言ってたな」
「身体はこんなにおおきいのに、優しい匂いがするの」
オレは自分の鼻をミアの髪に近づけ、クンクンと匂いかえしてやった。
「オマエの匂いは……少し悲しそうだ」
そう言うと、ミアが動きを止めた。
「ここにいてもいい?」
ミアが聞く。
「もちろんだ」
即答してやった。
「ここはゼンゾーの屋敷だが、オレが許す。いつまででも、ここにいろ」
ミアは何も答えず、オレの体毛を少量の涙で濡らすと、話を変えた。
「ゴゴの産まれ育った島って、どんなところ?」
ミアが『行きたい』と言っていたのを思い出し、オレは答えた。
「前にも話しただろう。何もないところだ。人間が住むことはできん」
「人間のいないところへ行きたい」
涙声でミアが言う。
「醜いものを見すぎたから」
オレは何も答えてやれなかった。
ミアがどんなものを見てきたのか、オレは知らないし、わからない。
「こんなふうに……走り回って、追いかけっこして……そんな毎日を過ごしたいな」
独り言のようにミアが呟く。
「大好きなゴゴと、毎日、沈む夕陽とか、並んで眺めながら……」
「おい、ゴゴ。ちょっといいか?」
そう言いながら、いつものグレーのスーツに身を包み、額に一本ツノをもつイケメンが、屋敷のほうから歩いてきた。ゼンゾーもスティーブもいないので『ステルス』は解いているようだ。
今のコイツは誰にでも見ることができる。額のツノはふつうの人間には見えないが──
「……なんだ、どうしたアーミティアス」
ミアとのひとときを邪魔されて、オレの声は少し不機嫌になった。
「表に怪しげな男たちがいるんだ」
珍しく他人を気遣うような真剣な表情でアーミが言う。
「その子を狙っているやつらなのではないかと思ってね」
オレは警戒した。
「なぜ、そんなことをオレに教える? 他人を罠にかけるのはオマエらしいが、他人のために何かをするオマエはおかしいぞ」
「いや……」
ようやくアーミがいつもの化け物らしい笑いを顔に浮かべた。
「私がそいつらを殺してもいいのかどうかを聞きに来たのだよ」
それだけ言ってアーミが背を向けて表のほうへ歩き出したので、オレは追いかけた。ゼンゾーの屋敷の真ん前で人間の血を派手に流されてはかなわん。
「ミアはここにいろ」
そう言い置いて、オレは走った。アーミもさすがはユニコーンだ、オレよりも足が速い。
不安そうな顔をして、ミアが見送っていた。




