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ゴゴ  作者: しいな ここみ


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4/9

ミートパイ

「グガアッ────────────ッ!!!!」


 空気が激しく振動し、公園の木々から一斉に鳥たちが飛び立つ。周囲の住宅街のガラス窓がカタカタと鳴った。

 男たちは耳を押さえ、その場に崩れ落ちた。恐怖で顔は土気色になり、1人は股間を濡らしている。


「ひ、ひぃぃぃっ! 助けてくれぇぇっ!」

「化け物だ! 逃げろぉっ!」


 男たちは武器を放り出し、脱兎のごとく公園の外へと逃げ出していった。追いかけるまでもなかった。あの惨めな逃げ腰なら、二度とこの公園には近づくまい。


「……ふん。口ほどにもない。スティーブの屋敷にいるへっぽこ主のほうが、よっぽどいい根性をしているぞ」


 オレが鼻を鳴らすと、背後から小さく拍手の音が聞こえた。


「すごい……! ゴゴ、かっこいい!」


 振り返ると、ミアが目を輝かせてオレを見上げていた。さっきまでの怯えた表情はどこにもない。


「誇るほどの相手ではない。それより、これからどうする? お前の家には帰れまい」


 ミアは少し考えてから、俯いて寂しそうに首を振った。

「帰るお家、もうないの」

「そうか。なら、来い」

「どこへ?」

「オレの飼い主……いや、居候させてもらっているスティーブの、いやスティーブが居候させてもらっている、ある男の屋敷だ。庭も広いし、サツマイモも大量にある。スティーブなら、お前のことくらい匿ってくれるだろう。金持ちのライバルとやらで、何か知っているかもしれん。だからだ」

 オレはそう言うと、背中をミアに向け、ドスンと屈んだ。

「乗れ。足の怪我がまだ完全に治っていないのだろう」


「う……うん! ありがとう、ゴゴ!」


 ミアは嬉しそうにオレの背中に飛び乗ってきた。細く小さな腕が、オレの首元のたてがみにぎゅっと巻きつく。暖かい体温が背中に伝わってきた。


「落ちるなよ」

「うん!」


 オレはミアを背中に乗せたまま、住宅街の影を縫うようにして走り出した。

 夕暮れの風が、オレたちの頬を撫でていく。

 まったく、人間の町というのは退屈な場所だと思っていたが――どうやら、しばらくは退屈せずに済みそうだ。




 屋敷に帰ると、まず門を破壊する勢いで体当たりし、開く。


 前庭を走り抜け、洋館の玄関からは入らずに、裏庭へ回り込む。


 おおきな窓の向こうではスティーブが、かわいいエプロンをつけて料理をしていた。窓ガラスを壊さぬよう、爪でチョンチョンと叩く。


「あっ、ゴゴっち」

 スティーブが振り向いた。サングラスをかけていても嬉しそうな顔がわかる。

「お帰り。ちょうどミートパイが焼けたところだよ。……あれっ? その女の子は?」


 窓を開けてもらい、ミアをまず中へ下ろしながら、言った。

「オレのカノジョだ」


 くすっとスティーブが笑う。

「かわいらしいカノジョだね」


「こんにちは」

 ミアが恥ずかしそうに挨拶をする。

「ミア・ゴールドスミスといいます」


「ああ……」

 スティーブがすぐに話を呑み込んだ。

「この子が……」




 スティーブの作る料理はうまい。

 ほんとうなら面倒くさい料理などせずとも、オレはただの牛の肉塊で満足なのだが、スティーブが作ってくれるとなれば待つことができる。楽しみだからだ。


「おいしい!」

 一口かじってもぐもぐし、ミアが笑った。

「こんなおいしいミートパイ、初めて食べた!」


 それはそうだろう。スティーブの作る料理には心がこもっている。

 オレはミアが食べ終えるまで我慢した。待った。一緒に食べたらテーブルの上のミートパイ、すべて一瞬で食い尽くしてしまうだろう。だからだ。


 おやつ程度の量のミートパイを口にしながら、スティーブがミアに自己紹介をする。

「ボクはスティーブ・スーパーライトだよ。ヨロシク」


「スーパーライトさん?」

 ミアがそれに気づいた。

「それってパパの──」


「うん。ライバル会社の社長の息子」

 ニコニコしながらスティーブがうなずく。

「正しくは放蕩息子。ギタリストをやってます。第二のマーティー・フリードマンになりたくて日本にいるんだよ」


「ギタリストよりも料理人になったほうがいいのではないか」

 オレは止まらないヨダレを抑えながら、言った。

「オマエの料理は素晴らしいぞ」


「日本にこんなおおきなお屋敷を持ってるなんて……すごい」

 ミアが両手で持ったミートパイをくわえながら、広いキッチンと外の庭を眺めまわす。


「ゴールドスミスさんだって日本にビルを持ってるじゃん」

 スティーブがサングラスの奥の目をウィンクさせる。

「それにここはボクのお屋敷じゃないヨ。だってこんな古い洋館、どう考えても日本のひとの物でショ? ボクは居候です」


「じゃあ……、誰の?」


「ゼンゾーのだ」

 オレが教えた。

「刑事だ。あごのしゃくれた、ヨレヨレのスーツのだ」


「まぁ、ほとんどの区画はボクが買い取ってますけどね」

 スティーブが笑う。


「刑事さん……」

 ミアがなんだか怖がるように、呟いた。

「警察は……嫌い」

 そして、嫌いなものを吹き飛ばすように笑い、言った。

「ごちそうさまでした。おいしかった」


 待っていた。

 オレはスティーブの食いかけも含め、3キロはありそうな量のミートパイを、一瞬で食い尽くした。




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― 新着の感想 ―
 3キロのミートパイ!  スティーブ、確かに料理上手みたいですね。  お屋敷の台所なので、大きな窯があるようです。自然な描き方だと思います。  ゴゴ、カッコイイな……こういうの、好きだなぁ。
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