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ゴゴ  作者: しいな ここみ


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3/9

大きな借り

「狙っている……? どういうことだ」


 オレは低く唸った。自分の喉の奥から、野生の猛獣のような重苦しい振動が漏れ出るのを感じる。


 ミアはオレの脇腹に顔を埋めたまま、小さく身震いをした。


「お父様は……ゴールドスミスの社長は、私の存在を隠してるの。私は『愛人の子供』だから。一族の恥だって……。でも、お父様が病気で倒れてから、親戚の人たちが急に私を探し始めたの」


「なぜ探す? いらない子と言っていたではないか」


「遺産……お金と、会社を継ぐ権利。私がいなくなれば、全部親戚の人たちのものになるから。だから、私を消そうとしてる人がいるって、私を匿ってくれていたお手伝いさんが言ってた……」


 ぽつり、ぽつりと語るミアの声は震えていた。


 人間の世界にも、こういう「群れの醜い食い合い」があるのか。オレたちの棲んでいた島でも、縄張りを巡る血生臭い殺し合いは日常茶飯事だった。だが、人間のそれはどこかジメジメとしていて、不快な匂いがする。


「そのお手伝いさんはどうした?」


「一週間前に……急にいなくなったの。お家にも、黒い服を着たこわい人たちが周りをウロウロし始めて……だから、私、怖くなって逃げ出したの。逃げて、逃げて、公園でブランコに乗って……」


 ――死ねるかなって、思って。


 最初に会った時の、あの言葉の理由がようやく繋がった。

 追い詰められ、幼い心で逃げ場を失った末の叫びだったのだ。


「フライドチキン、美味しかったぞ」

 オレは、爪を引っ込めた大きな前足を、そっとミアの頭の上に置いた。ずっしりとした重みに一瞬びっくりしたようだったが、ミアは逃げなかった。

「お前はオレに肉(チキン)をくれた。そしてオレを少しだけ優しい気持ちにさせた、だからだ。……オレはお前に大きな借りができたわけだ。命のやり取りをするには、十分すぎる理由だ」


「ゴゴ……?」


「お前を食おうとする奴らが来たら、オレが代わりに噛み殺してやる。オレの牙は、牛の骨すら一噛みで砕くぞ」


 冗談のつもりは毛頭なかったが、ミアは一瞬だけ呆気にとられたあと、「くすっ」と小さな声を上げて笑った。


「ゴゴはほんとにライオンみたいだね。でも、ダメだよ。人を殺したら、ゴゴが捕まっちゃう」


「オレを捕えられる人間などおらん。スティーブが困るかもしれんがな」


 その時だった。

 公園の入口付近から、ジャリ、と砂利を踏みしめる靴音が聞こえた。

 ひとつではない。三人分だ。

 風に乗って漂ってきたのは、安っぽいタバコの匂いと、男たちの下品な殺気。


「ほう……こんなところに隠れていたか、お嬢ちゃん」

「捜したぜ、ミアちゃん。お前のおかげで残業確定だ」


 黒いスーツを着た3人の男が、繁みを割るようにして公園に入ってきた。手には金属製の棒や、折りたたみ式のナイフのようなものを握っている。

 男たちはミアを見つけるとニヤリと笑ったが、その隣に座っている「オレ」の姿が目に入ると、ピタリと足を止めた。


「……あ? なんだあいつ。着ぐるみか?」

「いや……待て、デカすぎねえか? おい、頭、ライオンだぞ……?」

「冗談だろ、TVのドッキリ番組か何かか!?」


 男たちが困惑し、腰が引けているのがわかる。人間の武器など、オレの厚い皮膚と筋肉の前では爪楊枝も同然だ。


「ゴゴ、あの人たち……!」


 ミアが怯えてオレの服をぎゅっと掴む。


「安心しろ」


 オレはゆっくりとベンチから立ち上がった。2メートルを超えるオレの巨体が立ち上がると、男たちの顔から一気に余裕が消え去った。


「ヒッ……!?」

「おい、冗談だろ!? 化け物……!」


 オレは大きく口を開け、腹の底から咆哮を上げた。




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― 新着の感想 ―
 なんすか、これ。色んなものを書くんですね。  けっこう好み。続きを。
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