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お買い上げの卵の中身とは  作者: 富山荘


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3/4

3


「それなりに買ったな。これだけあればしばらくは大丈夫か」


「普段は閑古鳥が鳴いてますからね。いつもくるのは緊急性のあるお客様ばかり。もっと常連の顧客を増やそうとしませんか?」


「常連さんも少ないけどいるだろ?ほら、ヤマの婆さんとか」


 咄嗟に思いついたのは婆さん1人だったが、他にもよく見るお客さんはいる。それに


「お前に給料を払った上で赤字じゃない。俺はな、そこそこの売り上げで、そこそこの忙しさで、そこそこの暮らしができればいい」


「枯れてますよ、それ。色々と」


「うっさい」


 火の魔石も充分に仕入れた俺はさっさと店に帰ることにする。卵を買ってから既に数時間は過ぎている。ハンカチに包んではきたが、卵など孵したことがないのであれで温度が足りているかは全くわからない。気にしていなかったがそもそも生まれるのだろうか。結構な金を払ったものだから生まれるものだと勝手に思っていたが、その可能性を考えてなかった。


 如何にもな胡散臭そうな商人だったのだ。着色した鶏の卵、それも食用以外には使えません。なんてこと普通にあるな。


 ま、良いか。もう卵について悪いことを考えたとてどうにもできない。1ヶ月温めてなんの変化もなさそうなら廃棄。それでいこう。余計な期待などせず、最初から諦めていれば余計な悲しみを負うことはなくなる。


 でも、今だけは。


「はあああああああああ」


 落ち込むことを許してくれ。





 ふう。一旦は落ち着いた。あ、カノンさん冷めた目でこっちを見ないでください。25歳の男が道の真ん中で突然崩れ落ちたからって、そんなゴミを見るような目でみないで。


「落ち着いたならさっさと帰りましょう。みられていて普通に恥ずかしいです」


「はい」


 そんなこんなで無事?買いたいものは買って帰ってくることができた。なので勢いのまま扉の鍵を開けようとしたとき、カノンに止めれたので普通に驚いた。


「中から気配を感じます」


「え、なに、幽霊?そういうの俺無理なんだけど。というかカノンってそういうのわかる系なのね」


「ネズミ1匹、いや虫1匹いなかった店に生命反応を感じます。ただ……物凄く微弱ですね」


「じゃあ、ネズミでも入り込んだんじゃないか」


 食品を取り扱う店と切っても切り離せない問題。ネズ公と黒くて速い奴。1つでも侵入経路があれば、侵略を許してしまう。店の敵。その2種じゃなくとも今は春先、動物はどこにでもいる。だから、そんな神経質になる必要はない。そう伝えたのだが、


「ネズミは1匹足りとも許しません。私が先に入るので鍵を開けたら下がっていてください」


「大袈裟だなぁ」


 実に大袈裟なことだが、こうなったカノンを僕の手では止められない。ここは好きにやらせると良い、今までの経験則からそう言っている。俺は扉の鍵を開けて、言われた通りに1歩下がった。


「入ります」


 扉がしてはいけない音を鳴らしながら入ったカノンは腰から短剣を取り出した。何もそこまでしなくとも、と思ったのも束の間、彼女の短剣が光り輝いた。ここで俺は後悔する。目を開けていたことに。


『フラッシュ』


 カノンが魔法名を口にしてから瞬きをする間もなく、眩い閃光が俺の目を直撃する。視界は真っ白。彼女が使ったのは生活魔法の『フラッシュ』。魔法で光源を作る簡単な魔法で、魔力があればほとんどの人が使うことのできる一般的な魔法だ。


 生活魔法らしく、本来はほんのりと明るいくらいのものなのだが、なぜ目が潰れかねない程の光を放つにまで至ったのか。………………それは俺も知らない。



 今、何が起こっているかは耳で判断するしかない訳だが、幸いなことに誰かが争っているような音は聞こえない。聞こえてくるのは1人分の足音だけ。きっとただの勘違いだったに違いない。


「どうだ?何もなかったんじゃないか」


「はい。息を潜めている()()()がいないか確認したんですがいませんでした」


「だろ。警戒しすぎだっていつも「ですが、生命反応の正体はわかりました」


「え?」


「机の上、卵にヒビが入っています。もう生まれてくるのではないかと」


「なんだって」


 昨日の今日だ。温めてもいないし、卵を割る嘴打ちというのは時間がかかると本に書いていた。まさかもまさかだ。けれど、これは色々な意味で良いことだ。特にこの卵はしっかりと生きていたということが。


 颯爽と店の中に入っていくと、確かに机の上でハンカチに包まれていた卵にヒビが入っている。それになんてことだ、中からピヨピヨと聞こえてきているではないか。声しか聞こえてきていないというのにもう庇護欲が掻き立てられるのは何事か。


「頑張れ」


 ふと、思ったまま声に出してしまう。普段の俺からすれば到底出ない言葉なのはわかる。だから、柄にもないことを言った俺をそんな目でみないでカノンさん。1度、咳払いをした彼女は卵に再び目を向けた。


「動物は最初に認識した存在を親だと認識するそうです。是非、もうちょっと近づいてみては?」


「あ、ああ、わかったよ」


 言われた通り、食い入るように顔を寄せるとちょうど卵が割れて何かが出ようとしている。少しずつ、少しずつ中から這いずって出てきたその姿はオレンジを基調とした赤へのグラデーション。まるで夕焼けのような肌をした小鳥だった。

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