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学年一可愛いS級の美少女の令嬢三姉妹が、何故かやたらと俺の部屋に入り浸ってくる件について   作者: 沢田美


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学年一可愛い令嬢三姉妹は、写真立ての次に合鍵みたいな距離感を狙ってくる

 写真立てが机に置かれてから、俺の部屋は少しだけ変わった。


 大きく模様替えしたわけじゃない。

 家具が増えたわけでもない。

 ただ、机の左奥に二連の写真立てが置かれて、棚の一角に小さなアルバムが増えただけだ。


 それだけなのに、部屋へ戻るたびに視界の端で涼花と優里が笑っている。

 少し目を逸らせば、本棚の端には龍華との写真が収まったアルバムがある。


 落ち着かない。

 だが、不思議と邪魔ではなかった。


「……慣れって怖いな」


 そう呟いたのは、昼過ぎのことだった。


 今日はバイトもない。

 三姉妹からの連絡も朝から比較的静かだった。涼花が「今日暑いね!」と送ってきて、優里が「水分を取ってくださいね」と続けて、龍華が「冷房つけろ」とだけ送ってきたくらいだ。


 静か、というには十分うるさい気もするが、直接来ないだけまだ平和である。


 そう思った直後だった。


 ピンポーン。


「……」


 俺は無言で天井を見た。


 最近、こういう油断が一番よくない。


 扉を開けると、そこにいたのは龍華だった。


 今日は黒のタンクトップに薄いシャツを羽織り、デニムを合わせたラフな格好だった。片手にはコンビニ袋。もう片方には、なぜか小さな工具箱みたいなものを持っている。


「……何だそれ」


「必要なもの」


「何に」


「棚」


 言葉が足りなさすぎる。


 龍華は当然みたいに上がり込み、部屋の中を見回すと、まっすぐ本棚の前へ行った。


「やっぱり、アルバム置くならこの辺ちょっと変えた方がいいな」


「勝手に収納改善を始めるな」


「写真立て置いた時点で、周辺整える流れだったろ」


「初耳だ」


「今言った」


「それは初耳って言うんだよ」


 龍華は聞いていない。

 工具箱を開け、中から小さな滑り止めや仕切り板を取り出している。何をする気だ、本当に。


「ここ、漫画が詰まりすぎ」


「俺の本棚なんだからいいだろ」


「よくない。アルバムが曲がる」


「アルバム優先なのかよ」


「当たり前だろ」


 当たり前ではない。


 しかし、龍華の動きは妙に手際がいい。

 本を雑に扱うわけでもなく、巻数順を崩さないように一度床へ並べ、空いたスペースに仕切り板を入れる。その横へアルバムを立てると、確かに前より収まりがいい。


「……うまいな」


「見て覚えた」


「何を見て生きてるんだよ、お前は」


「必要なもの」


 またそれか。


 しばらくすると、玄関のチャイムがまた鳴った。


 嫌な予感がして扉を開けると、今度は優里だった。


「こんにちは」


「こんにちは、じゃない」


 優里は涼しげな白いブラウスに淡いスカート姿で、手には小さな紙袋を持っていた。


「龍華が来ている気がしたので」


「気配で来るな」


「いえ、涼花から連絡がありまして」


「涼花?」


 その瞬間、背後から龍華が「あいつめ」と小さく呟いた。


 優里が微笑む。


「『龍華お姉ちゃん、たぶん神谷くんの部屋に行ってる!』と」


「お前らの監視網どうなってるんだよ」


「姉妹ですから」


 便利すぎるな、その言葉。


 優里も部屋へ入ると、机の写真立てを見て少しだけ表情をやわらげた。


「ちゃんと置いてくれているんですね」


「昨日置いたばかりだろ」


「今日もあるのが嬉しいんです」


 そういう言い方をするな。


 優里は紙袋から、小さな布のポーチを取り出した。

 中には写真用の柔らかいクロスと、アルバム用の透明な保護シートが入っている。


「……用意が良すぎる」


「せっかくですから、きれいに残したくて」


「写真の管理まで始める気か」


「はい」


 静かに認められた。


 龍華は本棚の前で腕を組む。


「優里、そっちの保護シート貸せ」


「はい」


「連携するな」


 二人が当たり前のように俺の部屋の写真管理を始めたところで、三度目のチャイムが鳴った。


「……もう分かる」


 扉を開けると、やっぱり涼花だった。


「やほ!」


「やほ、じゃない」


 涼花は明るい黄色のTシャツにショートパンツ、髪を高く結んだ夏仕様だった。手には大きめの袋を持っている。


「二人とも来てるでしょ!」


「お前が呼んだんだろ」


「呼んではないよ! 情報共有しただけ!」


「それを呼んだって言うんだ」


 涼花は部屋へ入るなり、写真立てを見て嬉しそうに笑った。


「おおー! ちゃんとある!」


「だから昨日置いたばかりだって」


「でも嬉しいじゃん!」


 それは、もう何回も聞いた。


 涼花が持ってきた袋の中身は、なぜか小さな卓上カレンダーだった。

 しかも無地のシンプルなものではなく、写真を差し込めるタイプのカレンダーだ。


「待て」


「何?」


「何でカレンダー?」


「夏休みの予定書けるし、写真も入れられるし、神谷くんの机にちょうどよくない?」


「よくない」


「えー!」


 優里が静かにそのカレンダーを手に取る。


「でも、予定管理には便利かもしれません」


「乗るな」


「夏休みの約束、増えてきましたし」


 龍華まで近づいてきて、カレンダーを見た。


「サイズは悪くないな」


「お前も乗るな」


「予定が可視化されるのはいいだろ」


「俺の机が三姉妹関連で埋まっていくんだよ」


「今さらでしょ?」


 涼花がきょとんとする。


 言い返せないのが一番腹立たしい。


 気づけば、俺の机の上では、三姉妹による第二次配置会議が始まっていた。


 写真立ては左奥。

 カレンダーは右側。

 龍華の筆記具ケースは引き出し手前。

 優里の栞は読みかけの本へ。

 涼花のメモはカレンダーの横に挟む。


「待て待て待て」


 俺はさすがに止めに入った。


「自然に俺の机のレイアウトを決めるな」


「だって、使いやすくなるよ?」


 涼花が言う。


「見た目も悪くありません」


 優里が続ける。


「今より散らからない」


 龍華が締める。


「全部正論っぽいのが嫌だ」


 三人とも、何だかんだ俺の生活をよく見ている。

 どこに何を置けば使うか、どれなら邪魔にならないか、どのくらいなら俺が受け入れるか。

 それを分かった上で、少しずつ侵食してくる。


「お前らさ」


 俺は机の前でため息をついた。


「この調子だと、そのうち本当に自分の私物置き始めるだろ」


 三人が一瞬、黙った。


 その沈黙が不穏すぎる。


「……もう少ししたら、ですかね」


 優里が静かに言った。


「考えてたのかよ」


「だって、あると便利なものもありますし」


 涼花がぱっと手を挙げる。


「わたし、部屋用のクッション置きたい!」


「置くな」


「なんで!? 来た時座りやすいじゃん!」


「来る前提を強めるな」


 龍華は平然と言った。


「私は部屋着置いてもいい」


「一番駄目なやつだろ!」


「冗談半分だ」


「半分残すなっていつも言ってるだろ!」


 優里は少し考えるように指を口元へ添えた。


「私は……茶葉でしょうか」


「それも普通に侵食だ」


「でも、神谷くんも飲むでしょう?」


「飲むけど」


「では、無駄ではありませんね」


 外堀の埋め方が上品なのに強い。


 涼花がにこにこしながら言った。


「なんか、本当に神谷くんの部屋って、みんなの秘密基地みたいになってきたね!」


「秘密基地って年齢かよ」


「でも、分かります」


 優里がやわらかく頷く。


「屋敷でも学校でもない、私たちだけの場所みたいで」


「私たちだけって言うな。俺の部屋だ」


「でも、私たちもかなりいるだろ」


 龍華が言う。


「割合で所有権決めるな」


「じゃあ、滞在時間で」


「もっと駄目だ」


 三人は笑っていた。

 でも、笑いながら本気で少しずつこの部屋へ自分たちのものを置こうとしているのが分かる。


 その事実に、少し前の俺なら全力で抵抗していただろう。

 でも今は、ため息をつくくらいで済ませている。


 それが一番、危ない変化だった。


「神谷くん」


 優里が机の上を整え終えてから、こちらを見る。


「これくらいなら、大丈夫ですか?」


 写真立て。

 カレンダー。

 栞。

 メモ。

 筆記具ケース。


 どれも、俺のものと言えば俺のものだ。

 でも同時に、全部三姉妹の気配がある。


「……まあ、このくらいなら」


 そう答えた瞬間、三人の顔が明るくなった。


「やった!」


「よかったです」


「じゃあ次もいけるな」


「龍華、次はない」


「あるだろ」


「ない」


「あるな」


 涼花がうんうんと頷き、優里まで目を逸らして笑っている。


 どうやら令嬢三姉妹は、写真立ての次に、俺の部屋へ“自分たちの私物があるのが普通”という距離感まで狙っているらしい。

最後まで読んでいただき、ありがとうございます!

このお話が少しでも面白いと感じていただけたら、ぜひ「♡いいね」や「ブックマーク」をしていただけると嬉しいです。

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