学年一可愛い令嬢三姉妹は、写真立てを置くだけで俺の部屋をさらに自分たちの場所にしてくる
ショッピングモールで写真立てを買ったあと、当然のように三姉妹は俺の部屋へ向かった。
当然のように、というのがもうおかしい。
だが、涼花は紙袋を抱えたまま「早く置きたい!」と完全に設置する気でいるし、優里は「机の上を少し整えた方がよさそうですね」とすでに配置の話を始めている。龍華に至っては「棚も見直すか」とか言い出している。
「待て。写真立てを置くだけだろ」
「置くなら周辺も整えた方がいいだろ」
龍華が平然と言う。
「お前、そういう時だけ妙に正論だな」
「いつも正論だ」
「それはない」
そんなやり取りをしながらアパートへ戻ると、階段を上がったところで涼花が急に立ち止まった。
「どうした」
「なんかさ」
涼花は俺の部屋の扉を見ながら、少しだけ笑った。
「最近、ここに来るのすっごく普通になってきたね」
「それはお前らが来すぎだからだ」
「でも、神谷くんももう驚かないじゃん」
「驚きはする。諦めてるだけだ」
「えー」
涼花は不満そうに言うが、表情は楽しそうだった。
俺が鍵を開けると、三人は慣れた足取りで中へ入っていく。
靴を脱ぐ位置も、荷物を置く場所も、座る位置も、もうほとんど決まっている。最初の頃なら、この六畳一間に三姉妹がいるだけで異常事態だったのに、今はその光景の方が見慣れてしまっている。
これが一番まずい気がする。
「じゃーん!」
涼花が紙袋から写真立てを取り出した。
薄い木枠の二連フレーム。
派手ではないが、机や本棚の色には確かに合いそうだった。
「どこに置く?」
「机の端でいいだろ」
俺がそう言うと、三人が一斉に机を見る。
机の端。
そこには文庫本、筆記具、龍華が置いていったケース、優里にもらった栞、涼花のメモ。改めて見ると、すでに三姉妹の痕跡があちこちにある。
「……増えたな」
思わず呟くと、龍華が鼻で笑った。
「今さらだろ」
「でも、ちゃんと使ってくれてるんですね」
優里が嬉しそうに言う。
「捨てるわけないだろ」
「それも、ちゃんと嬉しいです」
そういうことを自然に言うな。
涼花は机の上を見て、ぱっと顔を明るくした。
「あ、わたしのメモまだある!」
「お守りって言ったのはお前だろ」
「うん! でも残ってると嬉しい!」
嬉しい、をここまで素直に表に出せるのは、やっぱり涼花の強さだと思う。
優里は机の上の本を丁寧に揃え、龍華はペンケースや小物の位置を少しずつ動かしていく。
涼花はその横で「こっちの方がかわいい!」と言っては龍華に却下され、「そこだと邪魔」と言われてまた移動させられていた。
「お前ら、完全に俺の机をいじってるよな」
「設置作業です」
優里が静かに言う。
「言い方を整えても同じだろ」
「でも、神谷くんのお部屋に合うようにしたいので」
その“神谷くんのお部屋”という言い方が、妙に大事そうで、少しだけ返事に困る。
最終的に、写真立ては机の左奥、本棚に近い位置へ置かれることになった。
そこなら座った時に視界の端へ入るが、真正面ではない。たしかに、俺にはちょうどいい距離だった。
「で、写真はどうするんだ」
俺が言うと、三人の空気が一瞬で変わった。
まただ。
何かを選ぶ段階になると、こいつらはすぐ真剣になる。
「二連だから、二枚だよね」
涼花が言う。
「三枚あるな」
龍華が腕を組む。
「では、一枚はアルバムへ」
優里が静かに提案する。
「アルバムって、お前が持ってきたやつか?」
「はい。神谷くんのお部屋に置いておいてもいいかと」
「さらに増やすな」
写真立てだけじゃ済まないと思っていたが、本当にアルバムまで置く気らしい。
「でも、三枚全部を机に出すと少し目立ちますし」
「それはそうだな」
「だから、今置く二枚と、しまう一枚を決める必要があります」
優里が落ち着いて言う。
落ち着いているが、言っている内容はかなり危険だ。
涼花がすぐに手を挙げた。
「わたしの置いてほしい!」
「早いな」
「だって一番明るいし!」
「理由が自分本位すぎる」
「でも、机見た時に元気出るよ!」
それは、少し分かる。
優里は自分の写真を手に取り、静かに言った。
「私は、机に置いてもらえたら嬉しいです。でも、アルバムでも構いません」
「大人ぶってるけど、置いてほしいって言ったな」
「はい」
認めるな。
龍華は自分の写真を指で挟んで、ちらっと俺を見る。
「私はどっちでもいい」
「本当か?」
「本当」
珍しいなと思った次の瞬間、龍華は続けた。
「どうせ、お前が一番意識するのは私の写真だろ」
「なんでそうなる」
「近いから」
否定できないのが腹立つ。
「じゃあ、神谷くんが決めて!」
涼花が言った。
「なんでそうなる」
「だって神谷くんの机だし!」
「こういう時だけ所有権を返すな」
「でも、ちゃんと選んでほしいです」
優里が静かに言う。
龍華も視線だけで促してくる。
俺は三枚の写真を見た。
涼花との写真は、明るい。
見るだけでその時の声や温度まで思い出す。
優里との写真は、静かだ。
隣にいるだけなのに、距離の近さより空気の深さが残っている。
龍華との写真は、確かに近い。
物理的にも、雰囲気としても。
「……今日は」
俺は少し考えてから、涼花と優里の写真を選んだ。
「これにする」
「えっ」
涼花が固まる。
「わたしのある!」
「あるな」
「やった!」
すぐに跳ねるような声を出す。
嬉しそうすぎる。
優里は少しだけ目を丸くしてから、やわらかく微笑んだ。
「私も、ですか」
「まあ」
「ありがとうございます」
一方、龍華は自分の写真を見て、少しだけ口元を上げた。
「へえ」
「なんだよ」
「私のはしまうんだ」
「別にそういう意味じゃない」
「分かってる」
龍華は自分の写真を取ると、優里が持ってきたアルバムの一番最初のページへ差し込んだ。
「こっちの最初、もらう」
「勝手に決めるな」
「写真立ては譲ったんだ。これくらいいいだろ」
その理屈は強い。
涼花が「ずるい!」と言いかけたが、優里が小さく笑って止めた。
「では、龍華が一番最初ですね」
「そういう言い方やめろ」
俺が言うと、龍華は楽しそうに笑った。
「記録上はな」
「記録って何だよ」
結局、写真立てには涼花と優里の写真が入り、龍華の写真はアルバムの最初のページへ収まった。
さらに、集合写真もその次のページへ入れられる。
これで俺の部屋には、三姉妹との写真を収めた写真立てとアルバムが正式に設置されたことになる。
冷静に考えると、だいぶまずい。
「いいね!」
涼花が机の上を見て、満足そうに言った。
「なんか、神谷くんの部屋って感じもするし、わたしたちの場所って感じもする!」
「後半が怖い」
「でも、少し分かります」
優里が言う。
「ここに来た時間が、ちゃんと残った感じがします」
龍華はクッションに座りながら、アルバムをぱらっと見た。
「次はもっと増えるな」
「増やす前提にするな」
「増えるだろ」
「否定しきれない自分が嫌だ」
三人が笑う。
その笑い声を聞きながら、俺は机の上の写真立てを見た。
視界の端に入る涼花の笑顔。
優里の静かな表情。
そしてアルバムの中には、龍華との写真。
俺の部屋は、少しずつ変わっている。
物の配置だけじゃない。
空気そのものが、三姉妹のものを含んでいく。
「神谷くん」
涼花が呼ぶ。
「何だ」
「写真、見える?」
「見えるよ」
「邪魔?」
「……邪魔じゃない」
そう答えると、涼花は本当に嬉しそうに笑った。
優里も静かに目を細める。
「よかったです」
龍華は満足そうに頷いた。
「じゃあ決まりだな」
「何が」
「この部屋、また少し私たちの場所になった」
「勝手に所有権を増やすな」
「でも、嫌じゃないだろ」
その問いに、すぐには答えられなかった。
嫌じゃない。
むしろ、机の上に写真が置かれたことで、これまでの時間がちゃんと形になったみたいで、少し落ち着かないくらいだ。
「……まあな」
ようやくそう答えると、三姉妹はそれぞれ違う形で笑った。
どうやら令嬢三姉妹は、写真立て一つ置くだけで、俺の六畳一間をまた少し自分たちの居場所に変えてしまうらしい。
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