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学年一可愛いS級の美少女の令嬢三姉妹が、何故かやたらと俺の部屋に入り浸ってくる件について   作者: 沢田美


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学年一可愛い令嬢三姉妹の末っ子は、証拠が増えてると知った瞬間に自分の分も真っ直ぐ作りにくる

 龍華が帰ったあと、俺はしばらく財布とスマホのどっちも見たくなかった。


 財布の中には、優里が渡してきた海の集合写真。

 そして、龍華のスマホには、さっき撮った二人の写真が入っている。


 片方は静かに残されて、

 片方は半ば強引に作られた。


 やり方は全然違うのに、どっちもちゃんと“残るもの”だ。

 しかも、そのどちらにも俺が関わっている時点で、落ち着かないにもほどがある。


「……あいつら、本当に容赦ないな」


 呟いてから、少しだけ頭を冷やそうと思って、冷蔵庫から麦茶を出した。

 だが、その一口目を飲み終わる前に、スマホが震えた。


 西園寺涼花

『今ひま!?』


 嫌な予感しかしない。


 だが、既読をつけずに放置するには、こいつはしつこい。

 俺が少し迷っているうちに、追撃が来た。


『ねえ!』

『龍華お姉ちゃん、今日行ってたでしょ!』

『なんかあった!?』


「……」


 なんで分かるんだよ。

 本当に、姉妹間の感知能力が高すぎる。


 結局、俺は『ちょっとだけな』とだけ返した。

 すると、ほとんど間を置かずに返事が来る。


『じゃあ行く!!』


 だから早いんだよ。


 ピンポーン。


「……十分も経ってないだろ」


 思わず声に出してから、扉を開ける。


 そこにいたのは、案の定、涼花だった。


 白いTシャツに、短めのデニムパンツ。

 髪は高めの位置でまとめていて、海の日よりはラフだが、それでもいかにも夏休みという感じの格好だった。片手にはコンビニ袋、もう片手にはスマホ。


「こんばんは!」


「お前、本当に来るの早いな」


「だって気になったもん!」


 隠す気がゼロだ。

 だが、涼花はすぐに俺の顔を覗き込むようにして言った。


「龍華お姉ちゃん、何したの?」


「何したって」


「その顔!」


「どんな顔だよ」


「なんかちょっと疲れてて、ちょっと落ち着かなくて、でも追い返すほどではない時の顔!」


「観察眼が育ちすぎだろ」


「えへへ」


 褒めてないんだが。


 結局、涼花も部屋へ入れることになった。

 最近の俺、本当に押しに弱くなっている気がする。


 涼花は上がるなり、コンビニ袋の中身をローテーブルへ広げた。

 アイスと炭酸、それからグミ。完全に涼花セットだ。


「で?」


 ラグへ座るなり、膝を抱えてこっちを見る。


「何があったの?」


「どうしても聞くのか」


「聞くよ!」


 即答。

 そこに迷いがないのがこいつらしい。


「龍華お姉ちゃん、今日ちょっと機嫌よかったし、絶対なんかあった」


「……勘がいいな」


「でしょ!」


 そこで誇るな。


 俺は少しだけ迷ってから、結局、海の写真の話をした。

 優里が印刷した写真を渡してきたこと。

 それを龍華が見つけて、自分の分も残すとか言い出したこと。

 そして、半ば強引に二人で写真を撮られたこと。


 話し終わる頃には、涼花は完全に固まっていた。


「……は?」


 第一声が、それだった。


「写真?」


「うん」


「二人で?」


「まあ」


「え、ちょっと待って」


 涼花は膝を抱えたまま、ぐるぐると何か考え始めた。

 顔に出すぎだろ。


「それって、ずるくない?」


 やっぱりその結論か。


「なんでだよ」


「だって、優里お姉ちゃんは集合写真を“証拠”にして、龍華お姉ちゃんは二人で撮ってるんでしょ!?」


「お前、理解早いな」


「そこはめちゃくちゃ分かるよ!」


 涼花は立ち上がりかけて、また座った。

 完全に落ち着かないやつだ。


「じゃあ、わたしは!?」


「なんで自分の番を当然みたいに聞くんだよ」


「当たり前じゃん!」


 ぐいっとスマホを握りしめる。

 嫌な予感しかしない。


「わたしだけ何も残ってないとか、嫌だし!」


「海の集合写真はあるだろ」


「それは四人のだもん!」


 言い切る。

 本当に遠慮がない。


「わたしのやつ、ほしい!」


 真っ直ぐだった。


 優里みたいに静かに意味を持たせるわけじゃない。

 龍華みたいに当然の顔で既成事実を作るわけでもない。

 涼花は、本当に欲しいものを欲しいと言ってくる。


「……何する気だよ」


「写真!」


 やっぱりか。


「今ここで!」


「軽いな」


「軽くないよ、すっごい大事!」


 そう言って、涼花はスマホを握ったままじっとこっちを見る。

 目が、本気だった。


「神谷くんと、ちゃんと二人のやつ」


 その言い方が、思った以上にまっすぐで、少しだけ言葉に詰まる。


「……お前、本当にそういうの隠さないな」


「隠してる暇あったら取られるもん」


 なるほど。

 それは、かなり涼花らしい理屈だった。


「優里お姉ちゃんみたいに静かに残すの、わたし向いてないし」


「それはまあ」


「龍華お姉ちゃんみたいに“撮るぞ”って押し切るのも違うし」


「十分押し切りそうだけどな」


「でも!」


 涼花はそこで少しだけ頬を赤くした。


「わたしは、ちゃんと『ほしい』って言う方が神谷くんに伝わるでしょ?」


 ……反論できない。


 たしかに、涼花はそういうやつだ。

 嬉しいも、悔しいも、好きも、ちゃんと口にしないと気が済まない。

 その分、こっちも誤魔化せない。


「だめ?」


 最後にそれを使うのか。


 目を少しだけ上目遣いにして、でも計算じゃない顔で聞いてくる。

 これが一番厄介だと、本人はたぶん分かっていない。


「……一枚だけな」


 そう言うと、涼花の顔がぱっと明るくなった。


「ほんと!?」


「ほんと」


「やった!」


 分かりやすすぎる。


 涼花はその場でスマホのカメラを開いて、ラグの上で少し位置を調整し始めた。

 そして当然みたいに、俺のすぐ隣へ来る。


「近い」


「写真だよ?」


「お前ら全員その理屈使うな」


「だってほんとだもん!」


 涼花は笑いながら、でも少しだけ緊張した顔で画面を確認している。

 その横顔を見ていると、さっきまでの勢いだけじゃないのが分かった。


 こいつも、ちゃんと意識してるんだな。


「神谷くん、もっとこっち向いて」


「命令が多いな」


「だってちゃんと撮りたいし」


 言われるまま少しだけ顔を寄せると、涼花が一瞬だけ固まった。


「……どうした」


「いや、その」


「なんだよ」


「思ったより近い」


「お前が寄せたんだろ」


「そうだけど!」


 耳が赤い。

 声も少しだけ上ずっている。

 やっぱり、こいつも余裕ではないらしい。


「撮るぞ」


 俺がそう言うと、涼花は小さく息を吸って、画面へ向き直った。

 でも、シャッターを押す直前で、こっちを見る。


「笑って」


「無茶言うな」


「ちょっとでいいから!」


「お前の方が笑えてないだろ」


「うっ」


 そのやり取りのまま、パシャッと一枚撮られた。


 涼花はすぐに画面を確認して、数秒黙った。

 それから、すごく嬉しそうに笑った。


「……いい」


「そうかよ」


「うん。めっちゃいい」


 その顔を見ていると、こっちもそれ以上茶化せなくなる。


「見せろ」


「えへへ、だめ」


「自分は見るのかよ」


「だってわたしのスマホだし!」


 お前もその理屈か。


「でも」


 涼花は画面を胸に抱えるみたいにして言った。


「これは、わたしの」


 短い言葉だったけど、意味はすぐに分かった。


 優里の“証拠”とも、龍華の“残す”とも違う。

 涼花は、ちゃんと自分のものだと言う。


「……そっか」


 それだけ返すと、涼花は少しだけ照れたように笑った。


「うん」


 そのあと、涼花はコンビニで買ってきたアイスを食べながら、海の時の話をもう一度始めた。

 あの時、波が冷たかったこと。

 写真を撮る時、ちょっとだけ緊張したこと。

 俺が水着姿を見て「似合う」って言ったのが、実はかなり嬉しかったこと。


 そこまで聞いて、俺は思わず眉を上げる。


「今さら言うのか」


「だって照れたし!」


「その場でも十分照れてただろ」


「それとこれとは別!」


 意味が分からない。


 でも、そうやって後からまた言葉にするのが涼花らしいとも思う。

 一度感じたことを、そのままにしておけないんだろう。


「ねえ、神谷くん」


「なんだ」


「写真、あとで送ってほしい?」


「……」


「ほしいよね?」


「なんで自分で聞いて自分で答えようとしてるんだよ」


「だって、神谷くん絶対ちょっと気になるもん」


「自信あるな」


「そこはあるよ!」


 結局、涼花は少しだけ迷ってから言った。


「でも、今はまだわたしだけのにしとく」


「お前もそういうこと言うんだな」


「言うよ?」


 涼花はアイスのスプーンをくるりと回しながら笑う。


「だって、わたしが嬉しかったやつだし」


 その言い方に、少しだけ息が詰まる。


 海の時もそうだった。

 涼花は、とにかく“嬉しい”を大事にする。

 誰かに取られたくないものを、変に飾らずにそう呼ぶ。


「……お前、そういうの強いな」


 俺が言うと、涼花は一瞬だけ目を丸くした。


「強い?」


「うん。真っ直ぐ言えるの」


「えへへ」


 少しだけ照れて、でもすごく嬉しそうに笑う。


「神谷くんにそう言ってもらえるの、好き」


 またそれだ。

 本当にこいつは、たまに無自覚で心臓に悪いことを言う。


 その時、スマホが震えた。


 龍華

『涼花、お前行ってるだろ』


 優里

『もしかして、今そちらですか?』


「……」


「……」


 涼花が俺の画面を見て、頬を膨らませた。


「なんで分かるの!」


「お前ら姉妹だからな」


「便利すぎるよ、その言葉!」


「お前もよく使ってるだろ」


 涼花はしばらく不満そうにしていたが、やがて小さく笑った。


「まあ、でもいいや」


「何が」


「今日のわたしの分、ちゃんとできたし」


 そう言って、スマホを胸の前で大事そうに抱える。


 その仕草が、やけに真剣だった。


 どうやら令嬢三姉妹の末っ子は、誰かが残したものを知ると、自分の“嬉しかった証拠”もちゃんと手に入れに来るらしい。

最後まで読んでいただき、ありがとうございます!

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