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学年一可愛いS級の美少女の令嬢三姉妹が、何故かやたらと俺の部屋に入り浸ってくる件について   作者: 沢田美


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学年一可愛い令嬢三姉妹は、花火大会当日になると当然みたいに俺の分の浴衣まで用意してくる

 花火大会当日、俺は昼過ぎの時点で少し後悔していた。


 あの日、三姉妹に押し切られる形で花火大会行きを認めたのが、そもそもの間違いだったのかもしれない。

 あいつらは「浴衣」「屋台」「花火」という三つの単語を手に入れた瞬間から、完全に本気だった。部屋での会議もそうだし、そのあとも涼花からは「今日ほんと楽しみ!」だの、優里からは「暑いので飲み物は多めに持っていきますね」だの、龍華からは「遅れるな」の一文だけだの、三者三様の連絡が飛んできていた。


 問題は、集合時間の一時間前になっても、俺がまだ普段着のままだったことではない。


 浴衣を持っていないのだ、俺は。


 いや、正確には昔の安いのが実家のどこかにあった気もするが、今の部屋にはない。だから普通に私服で行くつもりだった。つもりだったのだが、どう考えてもあの三人がそこを見落としているとは思えない。


 そして、嫌な予感は大体当たる。


 ピンポーン。


 扉を開けた瞬間、俺は本気で言葉を失った。


「こんばんは!」


 最初に飛び込んできたのは、涼花の明るい声だった。


 だが、いつもみたいにすぐ返事はできなかった。


 涼花は、淡い水色の浴衣を着ていた。

 白い花柄が涼しげに散っていて、帯は少し明るい色。髪は高い位置でまとめられ、いつもよりうなじが綺麗に見える。元気で明るいこいつに、その浴衣は驚くほど似合っていた。


 そのすぐ後ろには優里。

 薄い藤色の浴衣に、控えめな柄。帯も落ち着いた色で、髪は少しだけ編み込んでまとめてある。派手じゃないのに、目を離しづらい。優里らしい上品さが、そのまま形になったようだった。


 そして最後に龍華。

 深い赤紫の浴衣。帯は黒寄りで、全体の印象がすっと締まっている。銀髪との相性が強すぎて、一瞬だけ目のやり場に困った。似合うだろうとは思っていたが、想像以上だった。


「……」


「……」


「……」


 三姉妹が並んで俺を見ている。

 やばい。

 これは普通にやばい。


「神谷くん?」


 涼花が首を傾げる。


「大丈夫? 固まってるよ?」


「……お前ら」


 やっとそれだけ絞り出す。


「すごいな」


 すると、見事なくらい反応が割れた。


 涼花は耳まで赤くなり、

 優里は少しだけ目を伏せてやわらかく笑い、

 龍華は平然としているように見えて、ほんの少しだけ口元が緩んだ。


「ちゃんと見てるな」


 龍華が言う。


「見ない方が無理だろ」


「それ、すごく嬉しい!」


 涼花がぱっと笑う。


「えへへ、やっぱり水色にしてよかった!」


 優里も静かに言った。


「ありがとうございます。神谷くんが選んでくれた色でしたし」


 そうだった。

 前の浴衣会議で、それぞれ俺が選んだやつだ。

 実際に着てこられると、破壊力が違いすぎる。


「で」


 龍華が当然みたいに言った。


「お前、まだその格好か」


「……まあ」


「だろうな」


 そこで優里が、後ろに置いてあった細長い箱を持ち上げた。


「なので、用意しました」


「やっぱりな!」


 思わず声が大きくなる。


 箱の中には、男物の浴衣一式が入っていた。

 濃紺の浴衣、帯、履物まで揃っている。しかも、見るからに質がいい。


「なんでそこまで」


「花火大会ですから」


 優里がやわらかく言う。


「神谷くんが私服なのは、少しもったいないなと思って」


「わたしたちだけ浴衣って、なんかずるいし!」


 涼花も乗ってくる。


「あと、神谷が浴衣なの見たい」


 龍華まで当たり前みたいに言うな。


「お前ら、ほんと……」


「似合うと思いますよ」


 優里にそう言われると、強くは返しづらい。

 結局、俺は観念して浴衣を受け取った。


 着替える間、三姉妹は当然みたいに部屋の中で待っていた。

 狭い部屋の中で、浴衣姿の令嬢三姉妹が並んで座っている図は、情報量が多すぎる。しかも、着替え終わって出ていった瞬間、三人の視線が一斉にこっちへ向いた。


「……どうだよ」


 言いながら、自分でも少し落ち着かない。


 最初に反応したのは涼花だった。


「え、ちょっと待って」


「なんだよ」


「思ったより……すごくいい」


 耳が赤いまま、でもちゃんと見て言う。

 そういうところが反則だ。


 優里は少しだけ目を丸くしたあと、息をつくように笑った。


「似合いますね」


「そうか?」


「はい。ちゃんと、見たかった感じです」


 その表現も危ない。


 龍華は腕を組んだまま、じっとこっちを見てから、短く言った。


「ずるいな」


「何がだよ」


「思ってた以上だ」


 お前までそんな言い方するのか。


 どうやら俺は、花火大会へ行く前からすでに疲れ始めているらしい。


 ※ ※ ※


 会場までは電車で行った。


 駅まで歩く間だけでも、すでに視線が痛い。

 浴衣姿の三姉妹が並んで歩いているだけでも目立つのに、その横に俺がいるものだから、余計にややこしい。


 そして、会場へ近づくにつれて、前に話していた“交代制”とかいう危険な案が現実味を帯びてきた。


「じゃあ、駅から会場まではわたし!」


 涼花が即座に俺の隣を確保する。


「待て、そんなルール本当に採用されてたのか」


「されてるよ!」


「してませんよ」


 優里が静かに言う。


「ただ、流れとしてはそうなっています」


「お前、それは肯定なんだよ」


 龍華は後ろから鼻で笑った。


「最初は涼花でいいだろ。どうせ屋台に気を取られて途中で離れる」


「離れないもん!」


「たぶん綿あめで止まる」


「うっ」


 図星らしい。


 会場へ向かう道は、浴衣姿の人で埋まっていた。

 屋台の匂い、提灯の明かり、遠くから聞こえるざわめき。夏祭りの空気そのものだ。そこを、涼花が俺の少し隣を弾むように歩いていく。


「ねえ、神谷くん」


「なんだ」


「ちゃんと似合うって思ってる?」


「何が」


「浴衣」


「お前の?」


「うん!」


 そんなの、今さら聞くのか。


「思ってるよ」


「ほんと!?」


「ほんと」


「やった!」


 分かりやすく喜ぶな。

 でも、その顔を見ると、本当に連れてきてよかったのかもしれないと思ってしまう。


 会場へ着く前に、予想通り涼花が屋台へ吸われた。

 りんご飴、焼きそば、かき氷。全部気になるらしい。


「神谷くん、これ半分食べる!?」


「いきなり半分前提にするな」


「だって一人じゃ多いし!」


「その理屈で何でも分けようとするな」


 そこで自然と、優里が隣に並ぶ形になった。


「涼花らしいですね」


「そうだな」


「でも、楽しそうでよかったです」


「お前もな」


 そう返すと、優里が少しだけ目を細める。


「私ですか?」


「似合ってるし、嬉しそうだし」


 優里は数秒だけ黙ったあと、やわらかく笑った。


「神谷くん、今日は少し素直ですね」


「浴衣効果じゃないか」


「それなら、たしかに効果抜群ですね」


 そう言いながら、優里はさりげなく俺の袖を軽くつまんだ。

 人混みで離れないため、という口実が立つ程度の力。

 でも、この人の場合、その“程度”が絶妙にうまい。


 花火が始まる時間になって、四人で少し離れた土手の方へ移動した。

 場所取りは龍華が先に確認していたらしく、思ったより見やすい位置が確保できた。


「そういうとこだけは頼りになるな」


 俺が言うと、龍華は肩をすくめる。


「だけ、は余計だ」


「でも助かった」


「知ってる」


 花火が上がると、会話は自然と減った。


 夜空に大きな光が開く。

 音が遅れて胸へ届く。

 浴衣姿の三姉妹が、その光を見上げている。


 涼花は素直に「すご……」と息を漏らし、

 優里は静かに目を細めて、

 龍華は腕を組んだまま、でもどこか力を抜いた顔で見ていた。


 その横顔を順に見てしまうあたり、俺もだいぶ重症だと思う。


「神谷くん」


 小さく呼ばれて顔を向けると、涼花が花火の光の中で笑っていた。


「来てよかった?」


「……ああ」


「へへ」


 その一言だけで十分らしい。


 帰り道は、混雑を避けるために少し遠回りをした。

 そこで、いつの間にか龍華が俺の隣へ来ていた。


「最後、私だな」


「交代制をまだ覚えてたのか」


「一応な」


「律儀なのか雑なのか分からん」


「今日は、まあ……悪くなかった」


 龍華が前を見たまま言う。


「花火か?」


「全部だろ」


 その言い方は、少しだけ優しかった。


 会場を離れて人通りが落ち着く頃には、涼花は食べ歩きではしゃいだ反動か少し眠そうで、優里はそんな妹を気にしながら歩いていた。


 俺の部屋へ戻る頃には、全員少し疲れていた。

 それでも、最後にまた上がり込む流れになったのは、もう誰も否定しなかった。


「今日はもう本当に少しだけね!」


 涼花が言う。


「その台詞に信用がない」


「今日はほんと!」


「花火のあとだしな」


 龍華が珍しく味方する。


 部屋へ入って、冷たい麦茶を四人分出す。

 浴衣姿で俺の六畳一間に座る三姉妹は、なんだか現実感がなかった。


「神谷くん」


 優里が静かに言う。


「今日は、ありがとうございました」


「俺は連れてかれただけだろ」


「でも、来てくれました」


「それはそうだな」


 涼花は麦茶のコップを持ったまま、眠そうに笑う。


「わたし、今日すっごく楽しかった」


「見れば分かる」


「神谷くんのおかげもあるよ」


「屋台のおかげだろ」


「それもある!」


 正直だな。


 龍華はクッションにもたれたまま、こちらを見る。


「次は海だな」


「もう次かよ」


「夏休みは短いんだろ」


 それを龍華が言うのか。


 でも、その通りだった。

 こうしている間にも、夏はどんどん進んでいく。

 だからこそ、三姉妹はきっと遠慮なく予定を取りに来るし、俺はそのたびに振り回されるんだろう。


 そして、少しだけそれを楽しみにしている自分も、もう否定できなかった。

最後まで読んでいただき、ありがとうございます!

このお話が少しでも面白いと感じていただけたら、ぜひ「♡いいね」や「ブックマーク」をしていただけると嬉しいです。

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