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学年一可愛いS級の美少女の令嬢三姉妹が、何故かやたらと俺の部屋に入り浸ってくる件について   作者: 沢田美


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42/52

学年一可愛い令嬢三姉妹は、夏休み初日から当然みたいに俺の部屋を作戦本部にする

 終業式が終わって、本格的に夏休みへ入った最初の土曜。


 俺は朝から、嫌な予感にだけは満ちた一日を迎えていた。


 理由は明白だ。

 期末明けからずっと、三姉妹は夏休みの予定を本気で取りに来ていた。海だの、美術館だの、遠出だの、花火だの。あの三人が一度「夏休み」という単語を獲得してしまった以上、何も起きないわけがない。


 そして、その予感は午前十時前に現実になった。


 ピンポーン。


 扉を開けた瞬間、俺は小さく目を閉じた。


「おはよー!」


 先頭にいたのは涼花。

 後ろに優里。

 さらに少し離れた位置で、腕を組んでいる龍華。


 西園寺三姉妹、勢揃いである。


「……なんでだよ」


「夏休みだから!」


 涼花が満面の笑みで言う。


「理由になってない」


「なるよ!」


「ならない」


 だが、今日はいつもと少し違った。

 三人とも手ぶらではない。


 涼花は大きなクリアファイルを抱え、優里は上品な紙袋を持ち、龍華はタブレット端末を片手にしていた。

 ろくでもない準備が整っている顔だ。


「神谷くんのお部屋、借りますね」


 優里がやわらかく言った。


「まだ貸すって言ってない」


「でも、追い返さないですよね?」


「その聞き方ずるいな」


「ありがとうございます」


「礼を言うな」


 結局、三人は当然みたいに部屋へ上がった。


 ※ ※ ※


 十分後。


 俺の六畳一間は、完全に“夏休み作戦会議室”になっていた。


 ローテーブルの上には、涼花が持ってきた花火大会や海水浴場のパンフレット。優里の紙袋からは、市内と近隣県の美術展やクラシックコンサートの案内状が整然と並べられている。龍華のタブレットには、電車の時刻表や車での移動時間、ついでに周辺の飲食店まで表示されていた。


「なんでここまで本格的なんだよ」


「だって、夏休みは短いし!」


 涼花が元気よく言う。


「短くはないだろ」


「でも、会える日をちゃんと確保しないと、あっという間だよ!」


 その言い方が、いちいち真っ直ぐで困る。


 優里は美しい手つきで案内状を並べながら言った。


「せっかくですから、行き当たりばったりではなく、ある程度整理しておきたいんです」


「整理っていうか、完全に取り合いの下準備だろ」


「否定はしません」


 優里が穏やかに笑う。

 笑顔で認めるな。


 龍華はタブレットを操作しながら淡々と言った。


「無駄な争いを避けるための会議だ」


「お前が一番火種だろ」


「それはそう」


「認めるな」


 涼花が最初にパンフレットを突きつけてきた。


「はい! まず海!」


「早いな」


「だって夏といえば海でしょ!」


「お前の中ではな」


「神谷くん、海行ったら絶対似合うよ!」


「何がだよ」


「なんか、こう……白いTシャツとか!」


「雑だな」


「でも見たい!」


 それを願望込みで言うな。


 すると、優里が静かに別の案内状を差し出した。


「私は、こちらの展示が気になっています」


 柔らかな紙に印刷された、それなりに格式のありそうな美術展の招待状。

 会場は市内の大きな美術館で、会期は夏休み中盤。令嬢らしいチョイスだなと思いながら内容を見ると、たしかに面白そうではある。


「神谷くん、こういうの嫌いじゃないですよね」


「……嫌いじゃない」


「やっぱり」


 優里が少しだけ嬉しそうに目を細める。


「そのあと、近くのカフェでゆっくりお話もできますし」


「自然に二人前提にするな」


「えっ」


 涼花がすぐ反応した。


「優里お姉ちゃん、それずるくない!?」


「ずるくないですよ。展示と感想の共有は、セットであるべきです」


「理屈っぽい!」


「大事なことですから」


 そのやり取りに、龍華が鼻で笑った。


「甘いな」


「何がだよ」


 俺が言うと、龍華は画面をこちらへ向けた。


「花火大会」


「お前も定番だな」


「定番だから強いんだよ」


 画面には、隣町でやる大きめの花火大会の情報が出ていた。

 時間、会場、アクセス、近くの駐車場まで全部表示されている。抜かりがない。


「これなら夕方から動けばいいし、帰りも遅くなりすぎない」


「妙に具体的だな」


「調べたからな」


「なんで」


「お前、花火くらいは嫌いじゃないだろ」


 それは、まあそうだ。


「あと」


 龍華はそこで少しだけ口元を上げた。


「浴衣見たい」


「は?」


 俺が間抜けな声を出すと、涼花がぱっと顔を上げた。


「それ! わたしも思ってた!」


「待て待て待て」


「神谷くんの浴衣!」


「なんで俺なんだよ」


「え、見たくない!?」


「質問の形が雑すぎる」


 すると、優里まで小さく頷いた。


「たしかに、少し見たいです」


「優里まで乗るのかよ」


「似合うと思うので」


 その言い方も危ない。

 さらっと言うな。


「いや、普通そっちだろ」


 俺がそう返すと、今度は三姉妹の動きが一瞬止まった。


「そっち?」


 涼花が聞き返す。


「お前らの浴衣だよ」


 そう言った瞬間、見事なくらい反応が分かれた。


 涼花は一気に耳まで赤くなり、

 優里は目を丸くしてから、そっと視線を逸らし、

 龍華だけは少し遅れて、ふっと笑った。


「へえ」


「何がへえだ」


「ちゃんと見たいんだなって」


「そういう話じゃないだろ」


「でも、嬉しいかも!」


 涼花がすぐに食いつく。


「わたし、浴衣着る!」


「まだ行くって決まってない」


「着る!」


「気が早いな」


 優里は少しだけ頬を染めたまま、やわらかく言った。


「……そうですね。花火なら、浴衣もいいかもしれません」


「優里お姉ちゃんまで!」


「風情がありますし」


 その理屈に令嬢らしさを混ぜるな。


 龍華は腕を組み直して、俺を見る。


「じゃあ花火は候補入りだな」


「なんでそうなる」


「お前が見たいって言った」


「言ってない!」


「似たようなもんだろ」


「似てない」


 でも、三姉妹は完全に花火モードに入っていた。


 涼花は「じゃあ髪どうしようかな!」ともう先の話をしているし、優里は「混雑を考えると少し早めに動いた方が」と現実的な補足を始めている。龍華は龍華で、会場周辺の移動ルートを確認しながら、「帰り道、屋台寄れるな」とか言っていた。


 なんなんだこいつら。

 本当に、一つ許すと十まで広がる。


「神谷くん」


 不意に優里が呼ぶ。


「なんだ」


「夏休み、少し楽しみになってきましたか?」


 その問いは、思っていたよりも真ん中に来た。


 ローテーブルの上には、令嬢らしい招待状と、庶民的なパンフレットと、龍華の実用的な検索結果。

 その全部が、当たり前みたいに俺を中心に広がっている。


 少し前までの俺なら、こんなの面倒だと思っていたはずだ。

 でも、今は違う。


「……まあ、少しは」


 正直に答えると、三人ともそれぞれ違う顔で笑った。


 涼花は分かりやすく嬉しそうに。

 優里はやわらかく、満足したように。

 龍華は少しだけ得意げに。


「じゃあ、ちゃんと予定空けてね!」


 涼花が言う。


「全部は無理だぞ」


「えー」


「でも、いくつかは」


 優里が静かに言う。


「一緒に行けたら嬉しいです」


「……考えとく」


「それ、前向きなやつ?」


 涼花が食い気味に聞く。


「前向きなやつだろ」


 龍華が代わりに答えた。


「お前、最近そういう顔分かりやすいし」


「勝手に代弁するな」


 でも、否定まではしなかった。


 気づけば、俺の六畳一間は、夏休みの予定を取り合う三姉妹の作戦本部になっていた。

 令嬢らしい計画性と、入り浸る気満々の図々しさと、恋愛感情むき出しの牽制が、きれいに同居しているのだから、本当にどうかしている。

最後まで読んでいただき、ありがとうございます!

このお話が少しでも面白いと感じていただけたら、ぜひ「♡いいね」や「ブックマーク」をしていただけると嬉しいです。

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