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学年一可愛いS級の美少女の令嬢三姉妹が、何故かやたらと俺の部屋に入り浸ってくる件について   作者: 沢田美


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39/51

学年一可愛い令嬢三姉妹は、期末最終日が終わると当然みたいに俺の部屋でご褒美会議を始める

 期末試験の残り数日は、思っていた以上に慌ただしく過ぎた。


 二日目の夜は涼花がゼリーと単語カードを持ってきて、三日目は優里が記述の要点を整理した紙を届けに来て、そのあとを追うように龍華が「糖分」とだけ言ってコンビニ袋を置いていった。誰か一人だけで済む日もあれば、気づけば三人揃っている日もある。


 その全部が騒がしくて、落ち着かなくて、でも妙に助かった。


 だから最終日が終わった時、俺は久しぶりに深く息を吐いた。


 昇降口を出ると、校舎の空気まで少し軽い。試験明け特有の、解放感の混じったざわめきが広がっている。友達同士で昼飯の約束をしているやつ、部活の予定を確認しているやつ、そして俺みたいに、とりあえず静かな場所へ帰りたいと思っているやつ。


 もちろん、俺は最後だった。


「神谷くーん!」


 聞こえた瞬間、肩が落ちた。

 今日くらいは静かに帰らせてくれ。


 校門の脇には、やっぱり三姉妹が揃っていた。


 涼花は両手をぶんぶん振っているし、優里はやわらかく微笑んでいるし、龍華は腕を組んだまま、当然みたいな顔をしている。


「……なんでだよ」


「最終日だから!」


 涼花が即答する。


「回収です」


 優里が静かに続ける。


「お前の顔見に来た」


 龍華までさらっと言う。


「全員言ってること微妙に違うんだよ」


 でも、三人とも機嫌はよさそうだった。

 その顔を見るだけで、今日が本当に終わったんだなという実感が少しだけ湧く。


「どうだった?」


 優里が聞く。


「今日の手応え」


「まあ、悪くない」


 そう答えると、涼花がすぐに笑った。


「よし! じゃあ今日はお祝い!」


「やると思った」


「当然だろ」


 龍華が平然と言う。


「期末終わったんだから」


「でも、お祝いなら屋敷でもいいんじゃないか?」


 そう言ってみたものの、優里はすぐに首を振った。


「今日は、神谷くんのお部屋がいいです」


「最近そればっかりだな」


「本心ですから」


 そこまで真っ直ぐ言われると、もう反論もしづらい。


 結局、その日も三姉妹は俺と一緒にアパートへ向かった。


 ※ ※ ※


 部屋へ入るなり、三人はそれぞれ持ってきた袋を広げ始めた。


 涼花は炭酸とスナック菓子とアイス。

 優里は小さなケーキの箱と冷たい紅茶。

 龍華は、なぜか惣菜パンとサラダチキン、それから缶コーヒーだった。


「お前だけ妙に現実的だな」


「糖分だけだとあとで腹減るだろ」


「そこを見てくるのは助かるけど、令嬢感はゼロだな」


「私は実用担当だからな」


「最近その肩書き自分で作っただろ」


 すると、涼花がアイスを冷凍庫へ押し込みながら言った。


「じゃあ、わたしはご褒美担当!」


「なんだその担当制」


「優里お姉ちゃんは?」


「整理担当でしょうか」


 優里が箱を並べながら静かに笑う。


「龍華お姉ちゃんは実用担当で、わたしは盛り上げ担当!」


「自分で盛り上げ担当って言うな」


「でも合ってるよね?」


 否定しづらいのが悔しい。


 気づけばローテーブルの上には、妙に豪華で妙に統一感のない打ち上げセットが完成していた。高そうなケーキとコンビニのスナックが並んでいる光景に、もう違和感が薄れている自分が少し嫌だ。


「じゃあ、まずは!」


 涼花が炭酸を持ち上げる。


「期末おつかれさまー!」


 結局、四人で軽く缶とコップを合わせた。

 炭酸の音が小さく鳴る。


 一口飲んだところで、龍華がこちらを見た。


「で」


「なんだよ」


「今回、誰が一番役に立った?」


 そこ来るのか。


 涼花がぴたりと止まり、優里も静かにこっちを見る。

 また始まった。

 最終日のお祝いだというのに、結局そっちへ行くのか。


「その聞き方、地雷だろ」


「でも気になるし!」


 涼花がすぐに言う。


「わたし、けっこう頑張ったよ!?」


「私も、それなりには」


 優里まで乗るな。


「私は筆記具置いた」


「いや、それ地味に助かったけど」


「ほら」


 龍華が得意げに言うな。


 三方向から視線が来る。

 ここで一人の名前を出したら、たぶん面倒だ。経験上、もう分かる。


「……全員」


 俺がそう言うと、涼花が不満そうに頬を膨らませた。


「それずるくない?」


「ずるくていい」


「でも本当ですか?」


 優里が静かに聞く。


「本当だよ。涼花のメモは机に置いてたし、優里のまとめは普通に効いたし、龍華の筆記具は切らさずに済んだ」


 そこまで言うと、三人ともほんの少しだけ顔つきが変わった。

 嬉しそうなのを隠しきれていない。


「……じゃあ」


 涼花がすぐに身を乗り出す。


「ご褒美ちょうだい!」


「なんでだよ」


「今回頑張ったから!」


「それ、俺が言う側じゃないのか」


「細かいことはいいの!」


 龍華が呆れたように笑う。


「お前、ほんと欲望に素直だな」


「龍華お姉ちゃんは欲しくないの?」


「欲しいに決まってるだろ」


「お前も隠せよ少しは!」


 優里はそんな二人を見ながら、やわらかく言った。


「では、今日は公平にしましょうか」


「その公平、嫌な予感しかしない」


「一人ずつ、一つずつお願いをする」


「ほら来た」


「神谷くんが断れるものなら断ってください」


 笑顔で逃げ道を塞ぐな。


 最初に手を挙げたのは、もちろん涼花だった。


「はい!」


「小学生か」


「わたしはね、夏休み入る前に一回、また試合見に来てほしい!」


 予想よりまともだった。


「それだけか?」


「それだけって何!?」


「いや、もっと変なの来るかと」


「失礼だなー!」


 でも、その目は少しだけ真面目だった。


「神谷くんに見てもらえると、がんばれるし」


 その言い方は反則だろ。

 結局、俺は「予定が合えばな」と返すしかなかった。


「やった!」


 涼花はそれだけで満足そうだった。


 次は優里だった。


「私は」


 少しだけ考えてから、静かに言う。


「今度、神谷くんのおすすめを一冊選んでほしいです」


「本?」


「はい。私が読むものを」


「それなら別に」


「あと、感想も聞いてください」


「……そこまでセットか」


「はい」


 それはつまり、また一人時間を取る気だろう。

 でも、優里はそういうことを露骨に言わずに通すのがうまい。


「分かった」


 そう返すと、優里は本当にうれしそうに微笑んだ。


 そして最後が、龍華だった。


「私は一番簡単だ」


「嫌な予感しかしない」


「次、お前の部屋に泊まる」


「はい却下」


「早いな」


「早くない」


 涼花が吹き出して、優里まで口元を押さえている。


「龍華お姉ちゃん、それはずるいっていうか危ないよ!」


「どこがだ」


「全部だよ!」


「冗談半分だ」


「半分残ってる時点でだめだろ」


 龍華は肩をすくめた。


「じゃあ、もっと現実的にするか」


「頼むからそうしてくれ」


「今度、二人で少し遠くまで行く」


 それはそれで重い。


「遠くってどこだよ」


「まだ決めてない」


「雑だな」


「でも、部屋の外の時間は欲しい」


 そこで少しだけ真面目な顔になる。

 こういう時だけ、ずるい。


「……考えとく」


 それが限界だった。

 でも、龍華はそれで十分らしい。


「よし」


「よし、じゃない」


 打ち上げのはずなのに、気づけばまた三人それぞれに約束を取られている。

 どうして毎回こうなるんだ。


 けれど、三姉妹はどこか満足そうだった。

 涼花はアイスの種類を選び始め、優里はケーキを切り分け、龍華は「じゃあそれ食ったら少し休め」と当然みたいに言ってくる。


 期末が終わった解放感もあってか、部屋の空気は普段より少しだけ軽かった。

 明日の小テストも、宿題も、バイトもない。

 ただ今日が終わった、というだけの時間が、こんなに楽だと思うのは久しぶりだった。


「神谷くん」


 涼花がアイスを持ったまま言う。


「今回、ちゃんと頑張ったね」


「お前に言われると変な感じだな」


「でもほんとだもん!」


 優里も静かに頷く。


「はい。ちゃんと乗り切りました」


「お前らが周りで騒いでたからな」


「それ、責任重大だったんですね」


 優里が笑う。


「大変だったぞ」


「でも、悪くなかっただろ」


 龍華が言う。


「……まあな」


 そう認めると、三人が少しだけ嬉しそうな顔をした。


 結局、試験期間の最後まで、俺の部屋は三姉妹の拠点だった。

 令嬢らしい差し入れも、入り浸る理由も、恋愛めいた牽制も、全部まとめて持ち込まれて。

 でも、それを少しだけ心地よく感じてしまう自分も、もう否定できなかった。

最後まで読んでいただき、ありがとうございます!

このお話が少しでも面白いと感じていただけたら、ぜひ「♡いいね」や「ブックマーク」をしていただけると嬉しいです。

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