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学年一可愛いS級の美少女の令嬢三姉妹が、何故かやたらと俺の部屋に入り浸ってくる件について   作者: 沢田美


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36/51

学年一可愛い令嬢三姉妹は、休戦したはずなのに俺の部屋を令嬢式勉強サロンに変えてくる

 土曜の午後、俺は久しぶりに静かな休日を期待していた。


 来週から期末試験が始まる。

 だから今日は、昼のうちに買い出しを済ませて、あとは部屋で黙って勉強するつもりだった。机の上には英語と数学のノート。参考書も開いてある。冷蔵庫には昨日の残りのカレーと、適当に買った飲み物。これで夕方まで誰も来なければ、かなり理想的な休日だった。


 ――そう、誰も来なければ。


 スマホが震えたのは、英語の長文にようやく集中しかけたタイミングだった。


 西園寺涼花

『今日、勉強しようと思ってる!』

『神谷くんの部屋、行っていい!?』

『スポドリ持ってく!』


 嫌な予感しかしない。

 だが、まだ一人ならどうにでもなる。少し考えてから、『夕方までなら』とだけ返す。


 すると、ほとんど間を置かず、別の通知が来た。


 西園寺優里

『期末前ですので、まとめたノートを持って行こうかと思っているのですが』

『お邪魔してもいいですか?』


「……」


 さらに、その数分後。


 西園寺龍華

『勉強するなら行く』

『延長コード持ってく』


「なんで全員来るんだよ……」


 思わず声が出た。


 どうしてこうなる。

 どう考えても三人の間で話が通っているだろ、これ。

 しかも内容がそれぞれ違うのに、最終地点だけきっちり俺の部屋へ揃っているのが腹立つ。


 けれど、断りきれない。

 期末前という大義名分まである。俺だって勉強はしたいし、三人が騒がずに本当に勉強するなら、まあ、まだ許容範囲……なのかもしれない。


 そう自分へ言い聞かせてから二十分後、アパートの前には黒塗りの車が停まっていた。


 ※ ※ ※


「おじゃましまーす!」


「静かにするんじゃなかったのか」


 最初に入ってきた涼花は、言葉ほど静かではなかった。

 今日は動きやすそうな私服で、髪も後ろで軽く結んでいる。肩から大きめのトートバッグを提げていて、その中にはスポーツドリンクとお菓子、それから色とりどりの付箋まで入っていた。


「これは集中力アップ用!」


「なんで付箋までカラフルなんだ」


「可愛い方がやる気出るじゃん!」


「勉強を装飾で突破しようとするな」


 その後ろから入ってきた優里は、薄いブルーのワンピースに白いカーディガンという、いかにも“令嬢の休日”みたいな格好だった。手には革張りのファイルケース。中から出てきたのは、信じられないくらい綺麗に整理されたノートだ。科目ごとに分かれ、見出しも統一され、要点には控えめな色分けまでされている。


「……なんだこれ」


「期末対策です」


「見れば分かるけど、出来が怖い」


「家庭教師の先生に見てもらいながらまとめたものなので」


「令嬢の勉強環境が強すぎるな」


 最後に入ってきた龍華は、黒のパンツにゆるめのシャツ、そして小さな紙袋を二つ持っていた。

 一つは本当に延長コード。もう一つには、卓上ライトと高そうなシャープペン、それからなぜかアイマスクまで入っていた。


「なんでアイマスク」


「仮眠用」


「最初から長期戦想定かよ」


「期末前の土曜だぞ」


「理屈は分かるけど納得したくない」


 三姉妹が入っただけで、六畳一間の部屋はあっという間に手狭になる。

 しかも、今日の三人は本当に勉強する気らしく、持ち込んでいる物の質が妙に高い。


 涼花はスポドリと付箋と甘い菓子。

 優里は完璧に整理されたノートと、家の使用人が淹れてくれたらしい水出し茶。

 龍華は実用品の塊。


 令嬢要素と入り浸り要素が、期末試験という名目で綺麗に融合していた。


「じゃあ、休戦ね!」


 涼花がラグの上に座りながら宣言する。


「勉強中は争奪戦なし!」


「何の争奪戦だよ」


「神谷くんの隣!」


 元気よく言い切るな。


「涼花、最初からルール破ってますよ」


 優里が苦笑する。


「発言がだいぶ危ないです」


「でも大事じゃん!」


「大事じゃない」


「私は別にどこでもいい」


 龍華が言いながら、当然みたいに俺のベッドへ座った。


「お前、どこでもいいって言いながら一番楽な場所取るな」


「ベッドがあるのに床へ行く理由ないだろ」


「その正論だけは腹立つな」


 結局、涼花はラグの右側、優里はローテーブルの左、龍華はベッド。俺は机とローテーブルの間みたいな位置に落ち着いた。

 これで“争奪戦なし”らしいが、十分おかしい。


 勉強自体は、本当に進んだ。


 涼花は数学。

 予想通り、途中式を二行くらい飛ばす癖が抜けていない。


「なんでここから急に答えへ行くんだよ」


「雰囲気!」


「数学で雰囲気使うな」


「でもいけそうな気がして!」


「その“気”を信用するな」


 涼花は不満そうに唇を尖らせるが、説明するとちゃんと聞く。聞いて、分かった瞬間に一気に表情が明るくなるのが分かりやすい。


「おお! そっか!」


「そうだよ」


「神谷くん、やっぱ教えるの上手い!」


「それ、もう何回も聞いた」


「何回でも言う!」


 そう言いながら、涼花は問題集ごとじりじり距離を詰めてくる。

 さっき“争奪戦なし”って言ったの、誰だっけな。


 一方、優里は英語と現代文を進めていた。

 こっちは自力でほとんど解ける。たまにこちらへノートを差し出して、「この表現の解釈はこれで大丈夫ですか」と聞いてくるくらいだ。


 その聞き方が、いちいち丁寧なのに近い。


「神谷くん」


「なんだ」


「ここ、少し見てもらえますか?」


 ファイルを差し出される。

 見るために少し身を寄せると、優里も自然にこちらへ寄る。肩が触れるか触れないかの距離で、やわらかい香りがふっとした。


「……ここは」


「はい」


「こっちでも通るけど、先生によっては厳しいかもな」


「では、書き換えた方がよさそうですね」


 優里はすぐに赤ペンを取る。

 その仕草ひとつ取っても無駄がなくて、しかもきれいだ。


 龍華はベッドの上で国語と社会をやっていた。

 寝転がるまではいかないが、かなり楽な姿勢で、なのに案外ちゃんと進んでいるのが腹立つ。


「おい」


「なんだ」


「古文、ちゃんと解けてるのか」


「それなりに」


「それなりって」


 ノートを見せてもらうと、普通に合っていた。


「……お前、ほんと地頭いいな」


「知ってる」


「自分で言うな」


「でも漢文の返り点はだるい」


「そこは素直だな」


 そんなふうに、三人三様に勉強が進む。

 その合間に、スポドリを渡されたり、優里のノートを見せてもらったり、龍華に「ライトもっとこっち向けろ」と指示されたりする。


 騒がしい。

 だけど、今日はたしかに勉強も進んでいた。


 気づけば、だいぶ日が傾いていた。


「つかれたー!」


 最初に根を上げたのは涼花だった。

 ラグの上へごろんと倒れ込みそうになったので、俺はすかさず問題集で頭を小突く。


「こら」


「いたっ」


「まだ英語残ってるだろ」


「休憩! 十分だけ!」


「十五分ください」


 優里まで静かに乗ってくる。


「お前はちゃんと勉強してたからいい」


「では、十五分で」


「勝手に決めるな」


「私はもう休んでる」


 龍華がベッドから言う。


「お前はずっと半分休んでただろ」


「失礼だな」


 休憩になると、今度は令嬢っぽさがまた出た。


 優里が持ってきた紙袋の中から、個包装の焼き菓子が出てくる。

 涼花はスポドリじゃなく、いつの間にか別で持ってきていたゼリー飲料を配り始める。

 龍華は「糖分」と言いながら高そうなチョコを放ってきた。


「なんで休憩の補給までこんなに充実してるんだよ」


「だって令嬢だから?」


 涼花が冗談めかして言う。


「自分で言うな」


「でも、たまに思うよね」


 涼花はゼリーを開けながら笑った。


「こういう時、うちって便利だなーって」


「便利って感想でいいのか、それ」


 優里は焼き菓子を皿に並べながら、小さく笑う。


「神谷くんのお部屋だと、こういうのも少しだけ気楽なんです」


「またそれか」


「本当ですから」


 龍華はチョコを一つ口に入れてから、ぽつりと言う。


「屋敷で同じことやると、たぶん使用人が五人くらい増える」


「増えるな」


「増えますね」


「わたし、ここでいいや」


 涼花があっさり言った。


 そういうところだ。

 豪邸に住んでて、何でもあるくせに、こいつらは本気でこの六畳一間を気に入っている。


 休憩が終わる頃には、空はかなり暗くなっていた。


「そろそろ終わるか」


 俺がそう言うと、三人とも少しだけ残念そうな顔をした。

 ほんとに勉強会だったんだな、今日は。


 片付けが始まる。

 優里はノートをきっちり揃え、涼花は付箋をまとめて、龍華は延長コードとライトを袋へ戻す。

 その様子を見ていると、なんだか妙に文化祭のあとみたいだなと思った。


「神谷くん」


 帰り支度をしながら、涼花が言う。


「今日、楽しかった」


「勉強会でその感想出るの、珍しいな」


「だって神谷くんの部屋だし!」


「理由が雑だな」


「でも、ほんとだよ」


 優里も静かに頷く。


「勉強、かなり進みました」


「お前のノート強すぎたけどな」


「よければ、コピーして使ってください」


「そこまでしてくれるのか」


「もちろんです」


 龍華は靴を履きながら、ちらっとこっちを見る。


「お前、今日かなり自然だったな」


「何が」


「三人いても」


 その言葉に、少しだけ黙る。


 たしかに、最初の頃よりは自然だったかもしれない。

 三人が揃って部屋にいて、好き勝手に動いて、好き勝手に喋って。それなのに、前ほど気を張っていなかった気がする。


「……慣れたんだろ」


 そう返すと、龍華は少しだけ口元を上げた。


「だろうな」


 優里が扉のところで振り返る。


「神谷くん」


「なんですか」


「次は、屋敷の勉強部屋と比較してみますか?」


「比較の幅を広げるな」


「でも、少し興味あります」


「私はない!」


 涼花が即答する。


「絶対こっちの方がいい!」


「わたしもそう思う」


 龍華まで続く。


「屋敷だと神谷が固くなるし」


「お前ら、本当に俺の部屋好きだな」


「好きだよ?」


 涼花が何でもないみたいに言う。


「神谷くんごと」


「そこは足すな!」


 三人が笑う。


 結局、休戦だの公平性だのと言いながら、この三姉妹は三人揃っている時もちゃんと楽しそうだった。

 そして俺もまた、その空気にだいぶ慣らされてしまっているらしい。

最後まで読んでいただき、ありがとうございます!

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