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学年一可愛いS級の美少女の令嬢三姉妹が、何故かやたらと俺の部屋に入り浸ってくる件について   作者: 沢田美


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35/52

学年一可愛い令嬢三姉妹は、予約なしで来ていいと言われた夜に本気で鉢合わせると目に見えて牽制し合う

 玄関のチャイムが二つ分、ほとんど間を置かずに鳴ったせいで、俺の部屋の空気は一気に現実へ引き戻された。


 ローテーブルの上には、優里が持ってきたマカロンの箱と紅茶。

 向かいには、さっきまで「一番乗りが欲しかった」と静かに言っていた優里。

 そのすぐ外には、涼花と龍華。


 状況としては最悪に近い。


「……どうする」


 思わず小声で聞くと、優里は少しだけ目を細めた。


「開けないと、もっと大きくなります」


 それはそうだ。

 実際、外からはすでに二人分の気配がしている。


「神谷くーん!」

「おい」


 ほら来た。

 声量の差はあるが、どっちも遠慮がない。


 俺がため息をついて立ち上がると、優里はその後ろ姿を見ながら、マカロンの箱をそっと閉じた。

 その動作が妙に優雅なのが、今は少し腹立たしい。


 玄関を開けると、案の定、涼花と龍華が揃って立っていた。


 涼花は私服だった。白いトップスに薄いカーディガン、軽めのスカート。さっきまで部屋で一人時間の話をしていたとは思えないくらい、今日もちゃんと可愛い。

 龍華は昼間より少しラフな格好に着替えていて、相変わらず“普通に立ってるだけで目立つ”をやってのけていた。


「……お前らな」


 開口一番、それしか出なかった。


「だって、優里お姉ちゃんが行ってるっぽかったから!」


 涼花が即答する。


「いや、それを理由に押しかけるなよ」


「確認!」


「言い方を変えても意味は同じだ」


 龍華はそんな俺たちのやり取りを無視して、俺の肩越しに部屋の中を見た。


「へえ」


 その短い一言に、色々入っているのが分かる。


 優里はローテーブルの横に座ったまま、やわらかく微笑んでいた。


「いらっしゃい」


「“いらっしゃい”じゃないよ!」


 涼花がすぐに噛みつく。


「優里お姉ちゃん、ずるい!」


「予約なしで来ていいと、神谷くんが言ってくれたので」


「それを最速で使うな」


 俺が言うと、優里は少しだけ困ったように笑った。


「最速は狙いました」


 認めるのかよ。


 龍華はそこで靴を脱ぎながら、当然みたいに言った。


「じゃあ、私らも上がるぞ」


「待て」


「なんだ」


「なんでそうなる」


「ここまで来て帰る理由あるか?」


「十分あるだろ」


「ない」


 即答だった。


 結局、押し切られた。

 もう最近こればっかだなと自分でも思う。


 部屋へ入った二人は、まず一瞬で状況を把握したらしい。


 テーブルの上の紅茶。

 開けたマカロンの箱。

 優里のカップ。

 そして、俺と優里だけだった空気の残り方。


 涼花は分かりやすくむっとし、龍華は面白そうに片眉を上げた。


「……いい感じだったわけか」


 龍華が言う。


「違う」


「否定早いな」


「早くないと危ないからだ」


 涼花はラグへ座るなり、じっとマカロンの箱を見た。


「何個食べたの」


「そこ確認する?」


「するよ!」


 真剣な顔で言うな。


「まだ二個です」


 優里が静かに答える。


「神谷くんはチョコを」

「具体的に言わなくていい!」


 涼花の頬が少し膨らむ。

 こいつ、本当に表情が分かりやすい。


「じゃあ、わたしも食べる!」


「食うなとは言わないけど、対抗心でマカロン選ぶな」


「対抗心じゃないもん!」


 言いながら、しっかり一番可愛い色のやつを取ってるじゃないか。


 龍華はそんな涼花の横を抜けて、いつものようにクッションを確保した。


「紅茶あるか」


「あるけど」


「じゃあ私も」


「お前、もう完全に自分の家のテンションだな」


「今さらだろ」


 それを言われると、まあそうかもしれないのが悔しい。


 仕方なくカップを二つ追加で出して、紅茶を淹れる。

 その間も、三人の視線が妙に交差していた。


 涼花は隣へ座る隙を狙っているし、

 優里は先にいた余裕を崩さないし、

 龍華は龍華で、その二人の反応込みで楽しんでいる。


 この三人、三人揃った途端に牽制が分かりやすすぎる。


「で」


 紅茶を配りながら、俺は言った。


「お前ら、今日は何なんだ」


「会いたかったから!」


 涼花が真っ先に言う。


「神谷くんが!」


 そこまで言ってから、少しだけ顔を赤くする。

 言い切るのかよ。


「私は確認です」


 優里は落ち着いた顔で言う。


「神谷くんが、ちゃんと私を入れてくれるか」


「言い方を考えろ」


「間違ってませんよ?」


「そういう問題でもない」


「私は様子見」


 龍華が最後に言った。


「何の」


「お前が、どこまで流されるか」


「最悪だな」


 すると、龍華は少しだけ笑った。


「でも、お前、結局全員入れてるだろ」


「……」


「それが答えじゃね?」


 その言い方はずるかった。

 実際、その通りだからだ。


 三姉妹が来る。

 騒がしい。

 面倒だ。

 でも、追い返せない。追い返したいとも思いきれない。


 それを、今こうして三人の前で突きつけられると逃げ道がない。


「神谷くん」


 優里が、やわらかい声で呼ぶ。


「今日は、少しだけ聞いてもいいですか?」


「嫌な予感しかしない」


「三人でいる時の私たちと、一人ずつでいる時の私たち、違いますか?」


 またそういうのを聞くのか。


 涼花がすぐに食いつく。


「それ、わたしも聞きたい!」


「私は別にどっちでもいいけど、答えは気になるな」


「お前ら、本当にそういうとこだけ息合うな」


 俺は少し考えてから、カップに口をつけた。


「……違うよ」


 三人とも黙る。


「三人いる時は、お前ら三人の空気になる」

「うん」

「でも、一人ずつだと、それぞれ全然違う」


 涼花はそこで少しだけ身体を乗り出した。

 優里は静かに待ち、龍華は目だけで続きを促してくる。


「涼花は……一番まっすぐだな」

「……うん」

「優里は静かな顔して、一番ちゃんと残ること言うし」

「……」

「龍華は、近い。最初から最後まで近い」


 言い終えた瞬間、部屋の空気が妙に濃くなった。


 涼花の顔は赤いし、

 優里はほんの少しだけ目を伏せているし、

 龍華は露骨に満足そうだった。


「何この空気……」


 言ったのは涼花だった。


「なんか、すごく照れるんだけど」


「聞いたのお前らだろ」


「そうだけど!」


 優里はカップを持ち直しながら、小さく笑った。


「でも、ちゃんと違うって言ってもらえるのは、嬉しいです」


「私も!」


 涼花がすぐ続く。


「ていうか、神谷くん、ちゃんと見てるんだね」


「見てないとここまで疲れない」


「それ褒めてる?」


「半分くらい」


「また半分!」


 龍華はクッションへ肘を乗せたまま言う。


「でもまあ、悪くないな」


「何が」


「お前がちゃんと区別してるとこ」


 その言い方が、妙に刺さる。


 三姉妹を一括りには見ていない。

 それを自分で言葉にしたことで、逆に三人をそれぞれ強く意識しているのが、俺自身にもはっきり分かってしまったからだ。


 そこで、涼花が唐突に言った。


「じゃあさ!」


「嫌な予感」


「今度は三人一緒の時の神谷くん争奪戦、禁止にしよう!」


「急にまともなこと言うな」


「だって、三人の時まで取り合ってたら、神谷くんかわいそうだし」


「……お前、今ちょっと偉かったぞ」


「ほんと!?」


「でも、一人の時は別だよ!」


「前言撤回が早いな!」


 優里がくすっと笑う。


「そこは譲らないんですね」


「譲らないよ!」


「私も譲る気ないけどな」


 龍華まで平然と言う。


 結局、そこは変わらないのかよ。


 それでも、不思議とさっきまでみたいな張りつめた牽制の空気は少し和らいでいた。

 三人とも、自分だけが前へ出たいくせに、三人揃っている時のこの空気も嫌いじゃないんだろう。

 たぶん俺も同じだ。


 涼花が残りのマカロンを見て言う。


「これ、次は四個入りじゃないとだめだね」


「人数基準で増やすな」


「じゃあ六個!」


「欲張るな」


 優里はそんなやり取りを見ながら、やわらかく目を細める。


「でも、今度は最初から三人分あるといいかもしれません」


「乗るのか」


「今夜の反省としては、そうですね」


「反省っていうか、学習だな」


 龍華が笑う。


 学習するなよ、そこを。


 けれど、そのやり取りが妙に楽しくて、俺はもう何も言えなかった。


 どうやら令嬢三姉妹は、三人そろった途端に牽制し合うくせに、最後はちゃんと同じ場所に落ち着くタイプらしい。

最後まで読んでいただき、ありがとうございます!

このお話が少しでも面白いと感じていただけたら、ぜひ「♡いいね」や「ブックマーク」をしていただけると嬉しいです。

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