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学年一可愛いS級の美少女の令嬢三姉妹が、何故かやたらと俺の部屋に入り浸ってくる件について   作者: 沢田美


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27/51

学年一可愛い令嬢三姉妹は、一人で入り浸る順番になると急に恋愛強者みたいな顔をする

 翌日、俺は朝から嫌な予感しかしなかった。


 理由ははっきりしている。

 昨日、涼花がアパートの前で「今度はわたしの番だからね!」と高らかに宣言して帰っていったからだ。


 ああいうのは、大抵その場の勢いで終わらない。

 しかも相手は西園寺涼花である。勢いと実行力がほぼ直結している女だ。言ったからには、今日か明日には何かしら動いてくる。


 そして案の定、一時間目と二時間目の間の休み時間には、もう目の前にいた。


「神谷くん」


「なんだ」


「今日、放課後あいてる?」


「嫌な予感しかしない聞き方だな」


「大丈夫! 変なことしない!」


「その前置きで大丈夫だった試しがないんだよ」


 俺がそう返すと、涼花は一瞬むっとしたあと、すぐに胸を張った。


「今日はちゃんと理由あるもん!」


「どんな」


「この前の小テストのお礼第二弾!」


「まだ続いてたのか、それ」


「続いてるよ!」


 涼花はそう言いながら、俺の机へそっと小さな封筒を置いた。

 なんだこれ、と視線で問うと、涼花は少しだけ得意げに笑う。


「部活の大会の招待券」


「招待券?」


「今週の土曜、公開試合あるんだ。よかったら見に来てほしくて」


 予想外だった。

 もっと雑に「部屋行こ!」くらいの勢いで来るかと思っていたのに、今日はちゃんと理由が形になっている。


「……なんで俺」


「見に来てほしいから」


「それ、答えになってるようでなってないぞ」


「なってるもん」


 涼花はまっすぐ俺を見る。


「だって、神谷くんには見てほしいし」


 朝からそういう温度で来るな。

 こっちの心拍数を考えろ。


 しかも最悪なことに、そのやり取りを教室の後ろから優里が見ていた。さらに廊下には龍華までいる。姉二人の視線が、妙に静かにこっちへ向いているのが分かった。


 ……面倒だ。


「放課後、ちょっとだけいい?」


 涼花が念押しする。


「話だけなら」


「やった!」


 ぱっと笑う。

 その笑顔が、教室のざわつきをまた一段強くした気がした。


 ※ ※ ※


 放課後、涼花に連れていかれたのは、体育館裏でも中庭でもなく、グラウンドの端だった。


 部活終わりの空気が濃い。

 笛の音、ボールの音、土の匂い、汗を拭きながら戻っていく生徒たち。学校の中でも、ここは俺の普段いる場所とは少し違う世界だ。


 涼花は部活のジャージ姿のままで、髪を高い位置でまとめていた。いつも教室で見る時より、さらに眩しい。運動して火照った頬と、まっすぐな目が、いかにも“涼花”という感じだった。


「で、話って何だよ」


「うん」


 涼花は一度だけ深呼吸をした。


「土曜、ほんとに来てほしい」


「さっき聞いた」


「それだけじゃなくて」


「まだあるのか」


「終わったあと、うち来ない?」


「は?」


 さっきまでの真面目な空気が一瞬で変な方向へ飛んだ。


「待て待て待て。話の飛び方がおかしいだろ」


「おかしくないよ! うちでご飯食べて、そのあと……その、時間あったら神谷くんの部屋でもいいし」


「後半でさらにおかしくなってるんだよ」


「なんで!?」


「なんでじゃない!」


 涼花は心外そうな顔をしたが、その耳は少し赤い。

 自分でも勢いに任せた自覚はあるらしい。


「……だって」


 涼花は少しだけ声を落とした。


「最近、お姉ちゃんたちばっかりずるいし」


「それ、本人たちの前で言うなよ」


「言わないよ!」


「いや、たぶん昨日の時点で半分言ってたぞ」


「う……」


 図星らしい。


「でも、ほんとだもん」


 そこで涼花は、少しだけ視線を逸らした。


「龍華お姉ちゃんは一人で部屋行ってたし、優里お姉ちゃんは庭でお茶してたし。わたしだけ、そういう“特別”ないなって思って」


 その言い方は、思っていたよりずっと正直だった。


 特別。

 その単語を、涼花が自分で使うのか。


「だから、わたしの番ほしい」


 前を向いた時の目は、やっぱりまっすぐだった。


「神谷くんと、ちゃんと二人の時間ほしい」


 こんなの、断れるやついるのか。

 いや、断るべきなんだろうけど、気持ちの問題として。


「……試合、見に行く」


 結局、先に出たのはその言葉だった。


「ほんと!?」


「そのあとについては、様子見だ」


「でも来てくれるんだ!」


 涼花はぱっと顔を明るくした。

 まるでそれだけで十分みたいに嬉しそうなのが、余計に断りづらい。


「ありがと!」


 勢いのまま腕を掴まれそうになって、俺は半歩引く。

 だが涼花はそこで止まらなかった。


「ねえ、じゃあ約束!」


「子どもか」


「いいじゃん!」


「よくない」


「だって、神谷くんたまに逃げそうだし」


「逃げないよ」


「ほんと?」


「ほんと」


「じゃあ、絶対ね!」


 小指を差し出される。

 前にもやったな、これ。


 仕方なく引っかけると、涼花は満足そうに笑った。

 その笑顔を見ていると、こっちまで変に意識してしまうから困る。


 ※ ※ ※


 そして土曜。


 西園寺涼花の公開試合は、思っていた以上に本格的だった。


 会場は市内の総合体育館。観客席もそれなりに埋まっていて、学校関係者だけじゃなく保護者や一般客までいる。俺はもらった招待券を握りしめながら、場違い感のある席へ座った。


 試合が始まる。

 涼花は、いつもの明るさとは全然違う顔をしていた。


 集中している時の目。

 迷いなく動く足。

 無駄のない身体の使い方。


 教室で見る西園寺涼花は太陽みたいだと思っていたけど、今目の前にいるのは、もっと鋭い光だった。眩しいんじゃなく、強い。誰かに好かれるためじゃなく、自分で勝つための顔をしている。


 試合は、涼花の勝ちだった。


 決まった瞬間、会場に歓声が上がる。

 俺も気づけば立ち上がりかけていた。


 ……すごいな。


 素直にそう思った。


 試合後、関係者通路の外で待っていると、着替えを済ませた涼花がこっちへ走ってきた。


「神谷くん!」


 いつもの顔だ。

 でも、まだ少しだけ試合の熱が残っている。


「見た!?」


「見た」


「どうだった!?」


「すごかった」


「それだけ!?」


「いや、十分褒めてるだろ」


「もっと! もっと細かく!」


 欲張りだな。


「……格好よかったよ」


 そう言うと、涼花はぴたりと止まった。


「……え」


「お前、試合の時は全然違うな」


「え、ちょ、ちょっと待って」


 涼花の耳まで一気に赤くなる。

 なんで言った俺の方まで少し恥ずかしくなってるんだ。


「そ、そういうの急に言うのずるい!」


「細かくって言ったのそっちだろ」


「そうだけど! そうだけどさ!」


 涼花は明らかに動揺していたが、それでも最後には嬉しそうに笑った。


「……うれしい」


 小さな声だった。

 でも、ちゃんと聞こえた。


 そのあと、本当に西園寺家へ寄る流れになった。


 試合を見に来た家族や関係者と少し挨拶して、車で屋敷まで移動する。屋敷へ着くと、今日は母親が出迎えてくれた。いつ見ても落ち着いた美人で、三姉妹の母だというのがよく分かる。


「涼花、勝ったのね。よかったわ」


「うん!」


「神谷くん、来てくれてありがとう」


「いえ……」


 こういう時の西園寺家の“ありがとう”は、妙に格式があるから落ち着かない。


 食事も、当然のように豪華だった。

 それでも今日は客間ではなく、少し砕けた雰囲気のサンルームみたいな場所で軽い食事になった。ガラス越しに庭が見えて、午後の光が柔らかく差し込む。令嬢の家は、軽食ひとつ取ってもいちいち絵になるから困る。


 だが、本番はそのあとだった。


「で」


 食後の紅茶が出たタイミングで、龍華が言った。


「神谷、今日はこのあとどうする」


「どうするって」


「お前の部屋、行くのか?」


 なんで本人に聞く前に長女が仕切ってるんだよ。


 涼花は「ちょ、龍華お姉ちゃん!」と慌てたが、優里は静かにカップを置いて、少しだけ興味深そうに俺を見ている。


 母親はそんな空気を楽しむみたいに微笑んでいた。

 助ける気はないらしい。


「今日は、ほら、その……」


 珍しく、涼花が言葉に詰まる。


「神谷くんが疲れてなければ、って思ってたんだけど」


 試合のあとで、その言い方はずるい。

 俺が来たのも知ってて、勝ったあとで、そんな遠慮がちな顔をするのは反則だろ。


「少しだけなら」


 口から出た瞬間、涼花の顔がぱっと明るくなる。


「ほんと!?」


「ほんと」


「やった!」


 その横で、龍華が小さく笑った。


「わかりやす」


「うるさい!」


 優里はそんな二人を見ながら、やわらかく目を細めていた。


「よかったですね」


 母親まで頷く。


「ふふ。青春ね」


 やめてくれ。

 保護者枠がそういうこと言うのは本当に効く。


 結局、夕方にはまた俺の部屋へ戻っていた。


 ただし今日は、涼花だけだった。


 龍華と優里は、屋敷で見送る側に回った。

 その時の二人の視線が妙に意味深だったのは、たぶん気のせいじゃない。


 部屋へ入ると、涼花はぐるりと見回したあと、大きく息をついた。


「……なんか、ほっとする」


「屋敷から来た直後に言われると複雑だな」


「だってほんとだもん!」


 試合の時とは違って、今の涼花はかなり素に近い顔をしていた。

 疲れているはずなのに、変にハイになっているわけでもない。むしろ少しだけ静かだ。


 それが逆に、俺を落ち着かなくさせた。


「座れよ」


「うん」


 ラグへ座る。

 でも今日は、いつもの三人いる時とは違って、やたら距離感が近く感じる。部屋の中に二人分の気配しかないだけで、こんなに変わるのか。


 麦茶を出してやると、涼花はそれを両手で持ったまま、しばらく黙っていた。


「……なんだよ」


「いや」


「何か言いたいなら言え」


「今日、来てくれてありがと」


 その言葉は、思っていたより静かだった。


「勝つとこ見てもらえて、うれしかった」


「それならよかった」


「あと」


 涼花は少しだけ視線を下げた。


「格好よかったって言ってもらえたの、もっと嬉しかった」


 またそれか。

 勘弁してくれ。


「お前、そういうの気にするタイプなんだな」


「するよ!」


 顔を上げた涼花が、少しだけむっとする。


「わたしだって女の子なんだから!」


 その言い方は、思った以上に真剣だった。


「お姉ちゃんたちはさ、黙ってても綺麗だし、大人っぽいし、ずるいじゃん」


「ずるいって言うなよ」


「だってほんとだもん」


 涼花はクッションを抱き寄せながら続ける。


「龍華お姉ちゃんは強くてかっこいいし、優里お姉ちゃんは優しくて上品だし。わたし、いつも元気とか明るいとか、そういうのばっかり言われる」


 少しだけ、言葉が詰まる。

 それはたぶん、涼花の本音だ。


「だから」


 涼花は俺を見る。


「神谷くんに“格好よかった”って言ってもらえて、ちゃんと女の子として見てもらえた感じした」


 心臓がうるさい。

 そういうことを、そんな目で言うな。


「……見てるよ」


 ぽろっと出た。


「え」


「女の子として、ちゃんと見てる」


 言い切ってから、しまったと思う。

 でももう遅い。


 涼花は完全に固まっていた。

 次の瞬間、顔が一気に赤くなる。


「ちょ、ちょ、ちょっと待って!」


「待たない」


「待ってよ! 今のは反則! ずるい!」


「どっちがだ」


「神谷くんの方!」


 涼花は膝を抱えたまま、耳まで真っ赤になっている。

 それでも、逃げなかった。


「……じゃあ」


 小さく、でもはっきりと聞いてくる。


「わたし、お姉ちゃんたちと比べても、ちゃんとそう見える?」


 比べるなよ。

 そう思うのに、涼花の目は本気だった。


「見えるよ」


 今度は迷わず言った。


「お前はお前で、ちゃんと可愛いし、ちゃんと格好いい」


「……っ」


 涼花が、言葉を失う。

 それから、ぎゅっとクッションを抱きしめた。


「……今日、ここ来てよかった」


「そうかよ」


「うん」


 その返事は、妙に甘かった。


 しばらくして、涼花は俺の肩に少しだけ寄りかかるみたいに座り直した。

 ほんの少しだ。わざとらしいほどじゃない。でも、意識しないで済む距離でもない。


「……近い」


「つかれてるの」


「便利な言い訳だな」


「ほんとだもん」


 涼花は笑った。

 でも、その笑い方はいつもみたいに無邪気なだけじゃなかった。


「神谷くん」


「なんだ」


「今度は、試合の日じゃなくても、一人で来たい」


「またそれか」


「だって今日、すごいよかったし」


「お前ら、全員同じ結論にたどり着くのやめろ」


「だめ?」


 この三姉妹、なんで最後は全員そこへ戻るんだ。


「……内容による」


「じゃあ、いっぱい口実考える!」


「そっちを頑張るな」


「頑張るよ!」


 元気に言うな。


 でも、涼花はそのまま小さく笑って、俺の肩の近くで少しだけ目を細めた。


「神谷くんの部屋、ほんと好き」


「知ってる」


「神谷くんも好き」


「……」


 空気が止まる。


「いや、部屋が!」


「後付けが雑すぎる」


「ほんとに部屋も好きだもん!」


「“も”って言ったな」


「言ってない!」


 涼花は慌てて離れようとしたが、狭いラグの上で足がもつれて、逆に少しだけこっちへ倒れ込んだ。


「お、おい」


「わ、わ、ごめ……!」


 抱きとめるみたいな形になる。

 近い。近すぎる。息がかかる距離だ。


 涼花の目が、すぐ目の前にあった。

 試合の時みたいな強さじゃなくて、今はただ、俺だけを見ている。


「……神谷くん」


 小さな声だった。


 そのまま数秒、動けなかった。


 ピロン。


 最悪のタイミングでスマホが鳴った。


「……」


「……」


 涼花が我に返ったように飛び退く。


 画面を見る。

 龍華から『まだいるか?』

 優里から『涼花、無事ですか?』


 なんで保護者みたいな確認が同時に来るんだよ。


 涼花は真っ赤な顔のまま、スマホの画面を見て、それから俺を見た。


「……お姉ちゃんたち、勘良すぎない?」


「今に始まったことじゃない」


「でも」


 涼花は少しだけ唇を尖らせる。


「今日は、わたしの時間だったのに」


 その拗ね方が、妙にかわいかった。

 困るくらいに。


「また来ればいいだろ」


 口から出たあとで、自分で驚いた。


「……え」


「今度はもっと静かな日に」


 言い切ると、涼花が一瞬だけ固まって、それからすごく嬉しそうに笑った。


「うん!」


 どうやら、俺はもうかなり遅いところまで来てしまっているらしい。

最後まで読んでいただき、ありがとうございます!

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