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学年一可愛いS級の美少女の令嬢三姉妹が、何故かやたらと俺の部屋に入り浸ってくる件について   作者: 沢田美


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22/51

学年一可愛い令嬢三姉妹は、俺の名前を守ったあとで今度は勝手に世話まで焼いてくる

 黒瀬の件があってから、学校の空気はまた少し変わった。


 前までは、俺を見る視線の中に「なんであいつが西園寺三姉妹と?」みたいな好奇心が混ざっていた。けれど今は、それに加えて「下手に巻き込まない方がいいかもな」という妙な遠慮まで入っている気がする。


 もちろん、俺が怖がられているわけじゃない。

 いや、たぶん一部はそうなのかもしれないが、中心にあるのはそこじゃない。


 問題は、西園寺三姉妹の方だった。


 二年の廊下で優里と龍華がきっぱり線を引いたこと。

 駅裏の件のあとも、三人そろって俺の側へ立ったこと。

 そのあたりが噂になって、結果として「神谷を使って三姉妹に近づくのはやめとけ」という空気ができたらしい。


 ありがたいかと聞かれると、少し微妙だ。

 でも、前より面倒な声をかけられなくなったのは事実だった。


「神谷」


 朝のホームルーム前、佐伯が俺の席の横へ来てぼそっと言った。


「なんだよ」


「黒瀬、今日めっちゃ機嫌悪いらしい」


「知らん」


「あと、二年の女子の間で『西園寺姉妹に同時に切られた男』って呼ばれてるっぽい」


「それはちょっと気の毒だな」


「お前が言うんだ」


 別にざまあみろと思わないでもないが、そこまで派手に広まると少しだけ哀れではある。

 まあ、自業自得だ。


 佐伯はそこで少しだけ声を潜めた。


「でも、神谷」


「なんだ」


「お前、ほんと何者なんだよ」


「その質問、最近多いな」


「いやだって、西園寺三姉妹の方が普通にお前側につくじゃん」


「俺もよく分かってない」


 それは本音だった。


 涼花は相変わらず教室へ来るなり「おはよー!」と騒がしいし、優里は会えば自然に話しかけてくるし、龍華は龍華で俺の部屋を半分自分の拠点みたいに扱っている。

 そこへ昨日みたいなことまで重なると、周りから見た俺の立ち位置なんて、そりゃ分からなくなるだろう。


 俺自身だって、まだよく分かっていない。


 ただ、その日の三姉妹は、昨日までとは少し違っていた。


 最初に来たのは涼花だった。


 昼休み、購買から戻って席へ着くと、机の上にスポーツドリンクの小さなペットボトルが置かれていた。誰のだと思う間もなく、涼花がにこっと笑う。


「それ、神谷くんの!」


「……なんで」


「なんでって、昨日ちょっと大変だったし」


「もう大丈夫だって」


「それでも!」


 涼花はそこで少しだけ真面目な顔になった。


「この前から思ってたけど、神谷くんって平気な顔するのうまいから」


「褒めてないよな、それ」


「褒めてない!」


 きっぱり言い切られた。


「だから、こういうのは素直に受け取ってください」


 その言い方が、妙に背伸びしているみたいで少し可笑しい。

 けれど、からかうとたぶん面倒だと思って、俺は黙ってペットボトルを受け取った。


「……どうも」


「うん!」


 それだけで満足したのか、涼花は軽い足取りで自分の席へ戻っていく。

 単純だ。分かりやすい。けれど、その分だけ裏がない。


 次に来たのは優里だった。


 五時間目の前、図書室へ資料を返しに行った帰り、廊下の窓際で呼び止められた。


「神谷くん、少しだけいいですか」


「はい」


 優里は人目のある場所をきちんと選んでいるようで、廊下の真ん中でもなく、かといって完全に死角になるところでもない、ちょうどいい位置に立っていた。

 そういう気配りが、いかにもこの人らしい。


 差し出されたのは、小さな透明ポーチだった。

 中には無地の絆創膏、消毒シート、ミニサイズのウェットティッシュがきれいに収まっている。


「……これは?」


「持ち歩き用です」


「なんで急に救急セット」


「急ではないです」


 優里は少しだけ困ったように笑った。


「神谷くん、自分が平気だと思うと何も持たないでしょう?」


「まあ……」


「だからです。大きな怪我の時じゃなくても、あると便利ですから」


 理屈は分かる。

 分かるんだけど、こういうのを当然みたいに用意してくるのは、やっぱり少しだけ反則だと思う。


「そこまでしなくても」


「したいんです」


 静かなのに、その一言は妙に強い。


「昨日も、その前も、神谷くんが“平気です”で終わらせることが多かったので。せめて、持ち歩くものくらいはちゃんとしたくて」


 そこまで言われると、流石に断りづらい。

 というか、断ったらたぶんこの人は少し悲しそうな顔をする。


 それが分かってしまうと、こっちが弱い。


「……ありがとうございます」


「はい」


 優里はそれで十分だったらしい。

 小さく笑って、ほんの少しだけ安心したような顔をした。


 そして最後が、龍華だった。


 放課後、今日は図書室にも寄らずそのまま帰れると思っていたのに、校門を出てすぐのコンビニ前で待ち伏せされていた。


「お前、最近ほんと自然にいるな」


「悪いか」


「悪くはないけど面倒だな」


「お互い様だろ」


 どこがだ。


 龍華はそう言うなり、コンビニへ入っていく。

 俺を待っていたくせに話はないのかと思ったが、数分後、小さな紙袋を持って戻ってきた。


「ほら」


「なんだこれ」


「キーホルダー」


 開けてみると、金属製の小さなLEDライトだった。

 鍵につけられるタイプで、見た目はかなりシンプルだ。


「夜道用」


 龍華はそれだけ言った。


「お前、バイト帰り遅い日あるだろ。スマホのライトでもいいけど、こういうの一個あると楽」


「……妙に実用的だな」


「私は無駄なもの渡さない主義だ」


「その主義、もう少し他の場面でも発揮してくれ」


「うるさい」


 けれど、悪い気はしなかった。

 スポーツドリンクといい、救急セットといい、ライトといい、三人ともバラバラの方向を向いているのに、やろうとしていることだけは同じだった。


 それが少しだけおかしくて、少しだけ落ち着かなかった。


 そして当然みたいに、その日の夕方には三人とも俺の部屋に揃った。


 もう驚かないのもどうかと思うが、鍵を開けた時点で「今日は来るな」と言う気力はほとんど残っていなかった。むしろ、三方向から別々に渡されたものが鞄の中で妙に存在感を放っていて、そのまま一人で帰る方が落ち着かなかったかもしれない。


 涼花はラグへ座るなり、俺の鞄を見た。


「で?」


「で、ってなんだよ」


「ちゃんと持ってる?」


「何を」


「わたしのスポドリと!」


「私のポーチと」


「私のライト」


 三方向から一斉に言われて、思わず額を押さえる。


「なんで確認会みたいになってるんだよ」


「だって気になるし」


 涼花が即答した。


 優里は苦笑しながらも否定しない。

 龍華に至っては、最初からそれが目的だった顔をしている。


 仕方なく、俺は鞄の中から三つを取り出してテーブルへ並べた。


「はいはい。持ってる」


「よし!」


 涼花が満足そうに頷く。

 その横で優里は、ポーチのファスナーがちゃんと閉まっているかまで確認していた。細かいな、本当に。


 龍華はライトを見て、小さく顎を引いた。


「まあ、それならいい」


「お前が一番保護者っぽいな」


「誰がだ」


「行動が」


「うるさい」


 言い返しは早いが、否定しきれていない。


 そのまま三人がそれぞれ持ってきたものの話になった。


 涼花は「疲れてる時は水分と糖分!」というよく分からない理屈を力説し、優里は「小さい怪我ほど放置しがちなので」と静かに補足し、龍華は「夜道は明るい方がいいに決まってる」とシンプルに切った。


 見事にバラバラだ。

 なのに、どれも妙に俺の生活へ入り込んでいる。


「お前らさ」


 俺はテーブルの上の三つを見ながら言った。


「最近ちょっと世話焼きすぎじゃないか」


「そう?」


 涼花が首を傾げる。


「そうですか?」


 優里はやわらかく聞き返す。


「そうだろ」


 龍華は逆に即答した。


「だってお前、放っとくと適当だから」


「なんでお前が一番理解した顔してるんだよ」


「事実だからな」


 悔しいが否定しきれない。


 バイト帰りは確かに何でも後回しにしがちだし、軽い擦り傷くらいならそのままにすることも多い。夜道だって、いつも同じ道だからと油断していたところはある。


 そこへ三人が勝手に手を突っ込んできて、勝手に足りないものを埋めていく。

 迷惑かと聞かれたら、たぶん少し違う。

 むず痒い、が一番近かった。


 その時、不意に涼花が身を乗り出した。


「ねえ神谷くん」


「なんだ」


「どれが一番うれしかった?」


「は?」


 空気が少し止まった。


 優里がわずかに目を丸くし、龍華が「おい」と低く言う。

 だが、涼花は自分が何を言ったのかまだ分かっていない顔をしていた。


「え、だって気になるじゃん!」


「気になるのは分かるけど、聞くなよそういうの」


「なんで!?」


「なんででもだ!」


 こういうところだ。

 こいつは本当に悪気なく地雷を踏む。


 優里は少しだけ視線を伏せてコップを持ち直した。

 龍華は露骨に面倒そうな顔をしている。だが、その面倒さの下に、微妙に答えを気にしている気配まであるのが余計に面倒だ。


「別に順位つけるもんじゃないだろ」


 俺がそう返すと、涼花は不満そうに口を尖らせた。


「でも一個くらいあるでしょ?」


「ない」


「絶対ある!」


「お前が決めるな」


「じゃあ、違う聞き方する」


「するな」


「一番使いそうなのは?」


「質問の角度変えても同じだろ」


「えー」


 そこで優里が、少しだけ笑った。


「涼花」


「なに?」


「困らせてますよ」


「う……」


「しかも、自分もちゃんと答えを聞きたい顔してる」


「してないもん!」


 してるんだよなあ。

 分かりやすすぎる。


 龍華はそんなやり取りを見ながら、ふっと鼻で笑った。


「まあでも、気持ちは分かる」


「お前まで言うのか」


「だって、渡した側からしたら気になるだろ」


「素直だな、今日」


「たまにはな」


 たまに、で済ませるあたりが龍華らしい。


 結局、俺はしばらく考えてから答えた。


「……一番うれしいっていうか」


 三人の視線が集まる。


「全部、方向が違うのにちゃんと俺の生活見て選んでるのが、ちょっと意外だった」


 そこまで言った時点で、部屋が妙に静かになった。


 しまった、と思う。

 でも、もう遅い。


「つまり?」


 涼花が恐る恐る聞く。


「つまり、うれしかったってことだよ」


 そう言うと、涼花の顔がぱっと明るくなった。

 優里は少しだけ目を細めて笑い、龍華は一瞬だけ視線を逸らした。


「なんだ、それで十分じゃん」


 龍華がぼそっと言う。


「最初からそう言えばいいだろ」


「お前らが変な聞き方するからだろ」


「でも、ちゃんと答えてくれました」


 優里が静かに言う。


「それで十分です」


「わたしも!」


 涼花はその場で膝を抱えたまま、満足そうに笑った。


「なんか今日、勝った気分!」


「何にだよ」


「わかんないけど!」


 だろうな。


 そのあと、三人は当然みたいに冷蔵庫の中身を確認し始め、夕飯どうするだの、今日は簡単なものでいいだの、勝手に話を進めていった。俺の部屋はいつの間にか“集まる場所”から、“日常の続きをやる場所”に変わりつつあるらしい。


 その変化を止める気力は、もうだいぶ薄れていた。

最後まで読んでいただき、ありがとうございます!

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