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学年一可愛いS級の美少女の令嬢三姉妹が、何故かやたらと俺の部屋に入り浸ってくる件について   作者: 沢田美


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18/52

学年一可愛い令嬢三姉妹に近づきたい男は、まず俺を踏み台にしようとする

 西園寺三姉妹と関わるようになってから、俺の学校での立場はじわじわと変わっていた。


 前までは、いてもいなくても教室の景色に大差ない側だった。声をかけられることも少なく、何をしていても基本的に放っておかれる。そういう静かな立ち位置は、俺にとってかなり居心地がよかった。


 けれど最近は違う。


 読書週間の展示に関わったことも、涼花と教室で話すことが増えたことも、優里や龍華と校内で顔を合わせる機会が増えたことも、全部が少しずつ積み重なって、周囲の見方が変わり始めている。


 露骨に敵意を向けられるわけではない。

 ただ、妙に興味を持たれる。


 それが面倒だった。


 実際、ここ数日は一年の男子だけじゃなく、二年や三年からも視線を感じることが増えていた。たぶん、俺個人に興味があるわけじゃない。西園寺三姉妹の近くにいる、よく分からない一年男子。その肩書きが、変な意味で目立っているだけだ。


 そして、その面倒はついに形になった。


 昼休み、購買から戻る途中だった。


 廊下の窓際で、二年の男子が三人たむろしていた。制服の着崩し方からして、真面目な部類ではない。でも、昨日の商店街で見た連中みたいに露骨に荒れているわけでもない。学校の中ではうまく線を引いているタイプだ。


 そのうちの一人が、俺を見て顎をしゃくった。


「神谷、だっけ」


 知らない顔だった。

 ただ、向こうは俺を知っているらしい。


「……そうですけど」


「ちょっといい?」


 いい、の時点で断りたい。

 だが、ここで無視すると余計面倒になるのも分かる。仕方なく足を止めると、三人のうち真ん中にいた男が一歩前へ出た。


 背が高い。顔も整っている方だと思う。

 髪は少し明るめで、いかにも女子に慣れていそうな雰囲気をしていた。たぶん、こいつ自身もそこそこモテる側なんだろう。


「俺、二年の黒瀬。知ってる?」


「知らないです」


「だよな」


 黒瀬は気にした様子もなく笑った。

 その笑い方が、最初からこっちを下に見ている感じで少し気に障る。


「お前さ、西園寺たちと仲いいよな」


 来た。

 やっぱりそっちか。


「別に、普通です」


「いやいや、普通の一年男子があそこまで絡めないだろ」


 後ろの一人が口を挟む。

 もう一人も、面白がるみたいにこちらを見ていた。


 俺は無言で購買のパンを持ち直す。

 嫌な予感しかしない。


「でさ」


 黒瀬が声を少し落とした。


「龍華か優里、どっちでもいいから紹介してくれない?」


 思った以上に直球だった。


 龍華か優里。

 同じ二年の姉二人を、俺経由で。


 涼花じゃないあたり、こいつなりに学年とか距離感を考えているのかもしれない。いや、単に好みの問題か。どっちでもいい。どっちにしても面倒だ。


「嫌です」


 即答した。


 黒瀬が一瞬だけ目を細める。


「早くない?」


「早い方が分かりやすいかと」


「そんな警戒しなくていいって。別に変なことしようってわけじゃないし」


「そういうこと言うやつに限って信用できないんですよ」


 つい本音が出た。

 後ろの二人が「言うなあ」と小さく笑う。


 黒瀬は口元だけで笑っていたが、目は少しも笑っていなかった。


「お前さ、自分の立場分かってる?」


「どういう意味ですか」


「西園寺三姉妹の近くにいられるの、かなりレアなんだよ。そこで独占みたいな顔されても困るって話」


 独占。

 その言い方に、少しだけ眉が動いた。


 別に、そんなつもりはない。

 そもそも向こうが勝手に俺の部屋へ来て、勝手に巻き込んでくるだけだ。俺が何かを囲っているわけでもない。


 けれど、こいつらの目にはそう映っているらしい。


「独占してるつもりないです」


「でも、結果そうなってるじゃん」


「だからって紹介する義理はないです」


「義理じゃなくて、先輩への協力な」


「なおさらないです」


 言い切ると、後ろの一人が露骨に舌打ちした。


「生意気だな、一年」


「やめろって」


 黒瀬が軽く手を上げてそっちを止める。

 だが、その止め方も形だけだった。


「まあ、今すぐとは言わないよ。考えといて。せめて連絡先交換の場くらい作れるだろ?」


「作れません」


「作ろうと思えば作れるだろ」


「思わないんで」


 俺がそう返すと、さすがに黒瀬も笑顔を少し崩した。


 その瞬間、廊下の向こうから聞き慣れた声が飛んできた。


「神谷くん?」


 涼花だった。


 最悪だ。

 今ここで来るのか。


 涼花はこっちの空気を見て、すぐに足を止めた。

 さっきまでの明るい顔が少しだけ警戒に変わる。さすがに、ただ事じゃない空気は分かるらしい。


「なにしてるの?」


 その問いに、黒瀬が一瞬で表情を変えた。

 さっきまでの圧が嘘みたいに消えて、爽やかな先輩みたいな顔になる。


「いや、ちょっと神谷と話してただけ」


 こういう切り替えがうまいタイプ、嫌いなんだよな。


 涼花は黒瀬の顔を見て、それから俺を見た。

 俺が何も言わないと、少しだけ眉を寄せる。


「……そっか」


 涼花はそれ以上追及しなかった。

 ただ、俺の手首を軽く引いて言う。


「先生が呼んでたよ。早く来てって」


 どう考えても嘘だった。

 でも、助け舟としては十分だった。


「じゃあ、行きます」


 俺はそのまま黒瀬たちの横を抜ける。

 すれ違いざま、黒瀬が小さく言った。


「またあとで話そうな」


 聞こえないふりをした。


 少し離れたところまで来てから、涼花がようやく息を吐く。


「……あれ、絶対先生呼んでないよね」


「うん」


「だよね」


 涼花は腕を離して、ちらっと後ろを見た。


「二年の黒瀬たちだよね。ちょっと有名」


「そうなのか」


「見た目いいから女子に人気あるけど、軽いっていうか……なんか、あんまり関わらない方がいい感じの人たち」


「もう関わってきたけどな」


「なに言われたの?」


 聞かれると思った。

 ただ、ここでそのまま言うのもなんとなく引っかかる。


「大したことじゃない」


「それ、大したことある時の言い方だよ」


 最近、こいつらにそこを読まれすぎている気がする。


 結局、ごまかしきれずに、放課後には龍華と優里までその話を知ることになった。


 場所は、いつもの俺の部屋だった。


 もう本当に、何かあるとここへ集まるのが当たり前になっている。

 ラグの上に涼花、ローテーブルの横に優里、ベッドにもたれるように龍華。定位置まで固定されつつあるのが少し怖い。


「で」


 龍華が開口一番、低い声で言った。


「黒瀬が何て?」


 いつもより明らかに機嫌が悪い。


「紹介しろって」


「誰を」


「お前か優里」


 空気が一段下がった気がした。


 優里は表情こそ崩さなかったが、目だけが少し冷えた。

 涼花は露骨に嫌そうな顔をしている。


「やっぱり」


 涼花が膝を抱えながら言う。


「あの人、前もそんな感じで女子に声かけてた」


「断られても引かないタイプですか」


 優里の声音は静かだったが、かなり冷たかった。


「たぶん」


 俺が答えると、龍華が舌打ちした。


「だる」


 短い一言に、感情が全部詰まっている。


「お前、断ったんだよな」


「断った」


「ちゃんと?」


「ちゃんと」


「何回も言われても?」


「今のところ一回だ」


 そこまで聞いて、龍華は少しだけ肩の力を抜いた。

 優里も小さく息をつく。


 涼花は納得いかない顔で、俺の方へ身を乗り出した。


「なんで神谷くんに言うかな!」


「言いやすいと思ったんだろ」


「どこが!?」


「知らん」


「神谷くん、全然そういう橋渡しするタイプじゃないのに」


「そう見えなかったんだろ」


「見る目ないよ!」


 そこまで怒ってくれるのはありがたいが、声量はもう少し考えてほしい。


 優里はコップにお茶を注ぎながら、少しだけ考えるように視線を落とした。


「でも、今後も来るかもしれませんね」


「来るだろうな」


 俺が言うと、龍華がすぐに反応した。


「なら、もう一回はっきり断れ」


「断るつもりだよ」


「曖昧にするな。面倒になる」


「分かってる」


「それでもし、しつこいようなら」


 龍華はそこで一度言葉を切った。


「私が直接言う」


「やめとけ」


「なんでだ」


「お前が言うと余計に火がつく」


 実際そうだ。

 龍華は見た目も態度も強い分、突っぱね方がはっきりしている。それで相手が諦めるならいいが、黒瀬みたいなタイプは逆に意地になる可能性がある。


 優里も静かに頷いた。


「龍華が前に出るのは、最後の方がいいと思います」


「お前までそう言うのか」


「だって、面倒でしょう?」


「……まあな」


 自覚はあるらしい。


 涼花はまだ納得しきれていない顔をしていたが、やがてふっと真面目な顔になる。


「でも、神谷くん」


「なんだ」


「無理に一人で抱えなくていいからね」


 その一言が、少し意外だった。


「別に抱えてるほどじゃ」


「抱えるよ。だって、わたしたちのことで絡まれてるんでしょ?」


 正論だった。


 優里も続ける。


「神谷くんが断ってくれるのはありがたいです。でも、それで神谷くんだけが面倒を受ける形は嫌です」


「そうだな」


 龍華も短く言った。


「それは違う」


 三人とも、見事に同じ方向を向いていた。


 なんというか。

 こういう時の西園寺三姉妹は、やっぱり姉妹なんだなと思う。

 普段のテンポも性格も違うのに、一本芯の通ったところだけ妙に似ている。


「……じゃあ、もしまた何か言われたら、ちゃんと言う」


 俺がそう言うと、涼花が少しだけ安心したように笑った。


「うん、それでいい」


「でも、紹介なんて絶対しないでね」


「するわけないだろ」


「だよね!」


 その確認いるか?


 龍華はクッションを抱え直しながら、ぼそっと呟いた。


「黒瀬か」


「知ってるのか」


「同じ学年だしな。有名」


「いい意味で?」


「まさか」


 即答だった。


 優里は少し困ったように笑う。


「一応、表向きは器用な人ですけど」


「中身は軽い」


 龍華が切る。


「女子に話しかけるのも、自分が断られない前提でやってる感じ」


「うわ、やだねそれ」


 涼花が露骨に顔をしかめた。


 なるほど。

 ただのチャラい先輩じゃなくて、妙に自信のあるタイプか。

 だから俺にも、断られるとはそこまで思わずに声をかけてきたんだろう。


 面倒だな、と改めて思う。


 ただ。

 もしまた同じ調子で来るなら、次はもう少しきっぱり言う必要がある。

 向こうが「話せばいける」と思っているうちに線を引かないと、長引くだけだ。


「神谷くん」


 優里が静かに俺を見る。


「今日、ちゃんと話してくれてありがとうございます」


「……別に」


「それ、最近ほんとに説得力ないよね」


 涼花がすぐに乗ってくる。


「お前は黙ってろ」


「えー」


 そのやり取りに、龍華が少しだけ笑った。


「まあでも、今回は私らの方からも意識しとく」


「どう意識するんだよ」


「黒瀬が近づいてきたら無視する」


「それは元からだろ」


「たしかに」


 優里まで小さく笑う。


 部屋の空気はいつものように戻りつつあった。

 でも、その奥に少しだけ新しい緊張が混ざっているのも分かる。


 たぶん、これで終わりじゃない。


 黒瀬みたいなタイプは、一回断られたくらいで引かない。

 むしろ、俺を通すのが駄目なら、別の角度から来る可能性の方が高い。


 そこまで考えて、俺は小さくため息をついた。


 ……また面倒が増えた。


 それなのに、目の前の三姉妹は、そんな面倒さえ当然みたいに共有する顔をしている。


 完全に、俺一人の問題ではなくなっていた。

最後まで読んでいただき、ありがとうございます!

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