第301話:コーチ業で恩返し、その先に・・・
コーチになった橘周は、忙しくしていた。
主にサウスポーのピッチャー、走塁、守備の
アドバイザーと神島ルカのお守り役。
相手ピッチャー、バッターの動画解析もしている。
自分自身のトレーニングもできる範囲で続けていた。
自宅と球場で毎日1~2時間。
6月からはバッティングが、7月からはキャッチボール
もできるようになり、幅が広がった。
8月になると、ピッチングもできるようになったので、
実際に投げて見せながらの変化球指導も可能になった。
守備では、ケガしないダイビングキャッチの
体さばき等、本業のコーチにできない指導も行った。
橘周の回りには、いつも選手がいた。
特に若手は目を輝かせている光景が目に付いた。
試合前には、今日の一言もよく担当して、気合を入れ、
ミスした選手、結果の出ない選手のケアも行った。
落ち込んだ選手は、食事に連れ出して、
悩みを聞いたりもした。
橘周には、野球選手を諦めた苦い経験もあるし、
一度はケガで離れて、外から身体を使って野球を
研究したこともある。
ダンスや陸上で、最高峰の身体の使い方や走法を
身に着けている。
その上で、回りに気を使わせない独特のオーラがある。
なので、現役時代以上に、ドジャースは橘周を
中心に回っていた。
ドジャースは快進撃を続け、年間105勝を達成し、
ダントツの地区優勝を成し遂げた。
ミッキー・シュナイダー、宮脇修二ともに先発で
14勝を上げ、自己最高成績。
2人揃って、エース級の活躍をした。
松村祐は、打率.368で首位打者を獲得し、
出塁率も1位。盗塁も42で盗塁王。
もはやドジャース1番の顔になった。
今年橘周の一番弟子となった神島ルカは、
打率こそ.268だが、ホームラン27本、打点92。
大きく飛躍した年になった。
ポストシーズンも快進撃が止まらない。
わずか2敗のみで、ワールドシリーズに進出し、
ヤンキースとの戦い。
そのヤンキースでは、桜井淳が、なんとア・リーグ
三冠王を獲得し、名実ともに、
世界最高峰の野球選手となった。
橘周の弟橘周壮太郎は、日本での1シーズンを
ジャイアンツで18勝4敗と最多勝に輝いた。
来シーズンはメジャー復帰を考えている。
橘兄弟のいない、ドジャース vs ヤンキースの
ワールドシリーズ。
主砲桜井淳を橘周が徹底的に研究し、ホームラン
1本に抑えたこともあり、ドジャースが4勝2敗で
2年振りに王座に着いた。
さて、優勝パレードが終わって、橘周の契約が終わった。
ドジャースからは、コーチや球団経営陣の
オファーがあったが、橘周は、丁寧に断りを入れ、
野球と距離を置くこととなった。
とてつもなく寂しい。でも仕方が無い。
現役プロスポーツ選手の立場は、いつか終わる。
暫らくは家族中心の生活ができる。
妻、娘、日本の両親。
それと多くの世話になった人達への御礼。
本当の意味での第二の人生が始まる。




