第300話:ついに、ついにその時が来た!
手術して1週間後、橘周は、記者会見を開いた。
監督が同席した。
この会見は世界に配信されている。
「私、今日で引退します」
予想していた記者が多かったが、会場内はどよめいた。
「22歳でアンダースローに取り組み、私の人生は
一変しました。その後日本のプロ野球を経て、
ドジャースに契約してもらい、メジャーに来ました。
ドジャースで6年、ヤンキースで3年半、怪我で一旦離れ、
再びドジャースに拾ってもらって、2年と少し。
多くの人達にお世話になって、ラッキーなことに、
非常に幸せな野球人生を送ることができました。」
シーズン中でもあり、短めの挨拶を終えた。
監督から
「シュウは、残りのシーズンも我々の仲間でいる。
アシスタントコーチとして、内野守備以外のコーチ
補佐でベンチにも入る予定だ。契約は今年一杯。
昨年叶わなかった、ワールドチャンピオンを
一緒に目指す。これからもよろしく」
記者「と言いつつ、また不死鳥のように蘇るのでは?」
橘周「ドジャース含めメジャーリーグには、優秀な選手
も有望な若手も沢山いるから、
もうおじさんの席は無いですね(笑)」
会見場にいたミッキー・シュナイダーと宮脇修二は
ウルっときていた。
試合前に、球場に出て観客に挨拶。
満員のドジャースタジアムの観客は、今までにないぐらい
の温かいスタンディングオベーションで橘周の称えた。
チームも観客も目の前の試合に集中できるよう、
橘周は自宅に戻った。
アンダースローの産みの親である高井から電話があった。
「お疲れさん!長い間ご苦労さん」
「先輩もずっと世話をしてくれて、ありがとうございます」
「左のアンダースロー橘周の産みの親として、感無量だよ」
「そうっすね。あの時、『もっと腕を下げて見ろ』って
言ってくれなかったら、
ドラフトにかかることも無かったし」
「これでやっと本が書けるな(笑)」
「どうぞどうぞ書いてください。夢の印税生活(笑)」
「来年からは、どうするつもりなんだ?」
「いやまだ考えてないです。なんとなく野球界から離れる
可能性が高いかな?」
「そうかあ。とりあえず、デブになるなよ。
メタボはヒーローの敵だ」
「唐揚げは3日に1回で我慢しなきゃですね(笑)」
「実際寂しいか?」
「複雑ですねえ。首脳陣にとって便利な選手から、
扱い憎い選手になりそうでしたしね。潮時として
丁度良かったかもしれません」
「スーパースターを長年続けても、謙虚なところいいねえ。
やっぱ先輩が良かったってことかな(笑)」
その後遠征から戻って来たドジャースのベンチには、
橘周がいた。今日からコーチ業開始だ。




