第288話:神走塁で、均衡を破れるか?
2連敗で老いまれたドジャースは、大ベテランの橘周が全身全霊のピッチングで0点に抑えている。今度はバットと足で先制点奪取だ!
劇場の唯一絶対の主役になってしまった橘周。
野球というチームスポーツでも稀にそれが起こる。
8回の橘周。
1人目のバッターに対し、ナックルカーブとインコース
スライダーで追い込むと、
インコースにスプリットを投じて、空振り三振。
次のバッターに対しては、速いナックルを連投した後、高め
ストレートを見せて、シンカーでファーストゴロ。
3人目は、ナックル、シンカー、ストレートで攻めるも、
ファールで粘られ、7球を費やした。
「粘るなあ。それじゃあこれしかないな」
深呼吸をして8球目は、全力ストレート。
今年最速の155キロが出た!!バットがボールのかなり
下をくぐった。空振り三振!
42歳のポストシーズンで、年間の最速が出ることは、身体
の衰えが進む中で凄まじいことだ。まさに魂のストレートだ。
敵味方関係無く、球場全体でスタンディングオベーション
が巻き起こった。
9回表のドジャースの攻撃は、
5番ラファエル・カスティーヨから。
ツーベースで2塁に決勝のランナーとして立った。
そして、6番橘周。
「俺が均衡を破る」と気合を入れる。
相手クローザーの決め球高速カッターに照準を合わせ、
コンパクトに振り抜く。
ややボールの上を叩いたが、ライト前に抜ける。
ラファエル・カスティーヨが本塁に突入する。
しかし、ライトから完璧な送球が届いて、タッチアウト!
大歓声と大量のため息が交錯する。
「くそー、でもあれだけいい送球だと仕方ないか」
悔しがったけど、すぐに切り替えた。
橘周は、もちろん送球の間に2塁ベースにいた。
42歳にして、スピードスターの橘周が2塁にいる
ことは、相手からすると脅威が増したとも言える。
7番バッターは、高速カッターで三振。
そして8番ダリオ・ヴァレンティ。
橘周は、2塁ベースで揺さぶる。
この場面では盗塁は厳しい。でもピッチャーは気に
せざる負えない。
ファーストに強烈なゴロ。橘周は、ロケットスタート。
ファーストがファールゾーンに弾く。
ファーストは巨漢で、素早い動きが厳しい。
それを見て、橘周は本塁突入。
しかし、本塁へまたもいい返球が届く。
橘周は、低く頭から突っ込む。
キャッチャーは捕球後、左手を回してタッチへ。
高速ダイビングヘッドで突っ込んだまま、身体を捻って
キャッチャーミットから距離を取って、左手の指先で
ホームベースを触る。
判定アウト!
先程の3倍の歓声とため息で球場が割れそうだ。
当然、チャレンジ。
球場内はずっと騒然となっている。
ビデオ鑑定の結果・・・・セーフ!!!!
苦しみながらもドジャースは1点をもぎ取り、均衡が破れた。
「そりゃーそうさ完全にセーフだから(笑)」
今度は、走塁の超スピードとホームベース際での、
華麗な身のこなしで、先制点を取った。
橘周と打点を挙げたダリオ・ヴァレンティに
惜しみない拍手が送られた。
ベンチで大騒ぎの面々に迎えられた橘周は、ピッチャー用の
グラブを持ってイスに座り、しばし呼吸を整える。
そう、9回裏のマウンドにも上がるつもりなのだ。
「こんな雰囲気ではタナーも集中しずらいだろ。
俺が終わらせる」
と、覚悟を決めていた。
監督もコーチも一瞬驚いたが、もう何も言わない。
でも「ランナーが出たら、タナー・ロックに交代だ」
と小声でやり取りした。
9回裏のピッチングは???




