第98話 届く声
「……もう、見上げるだけでは、足りない」
その言葉が、胸の中で残っている。
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広場は、静かだった。
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昨日の怒号はない。
争いもない。
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だが、
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何かが決まったあとの空気がある。
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アルノーは立っていた。
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人が動いている。
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外へ出る者。
残る者。
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完全に分かれた。
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混ざらない。
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それだけで、
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秩序が生まれている。
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「……続いてる」
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小さく呟く。
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「ええ」
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リリアーナは答える。
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「崩れていません」
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完全ではない。
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だが、
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壊れてもいない。
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その時、
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声が上がる。
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「これ、他でもやってるらしいぞ」
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アルノーが振り向く。
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若い男が話している。
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「リュミアでも」
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「同じように分けてるって」
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ざわめき。
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「本当か?」
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「さっき来たやつが言ってた」
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少しずつ、
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広がっている。
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アルノーの胸が強く鳴る。
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言葉ではない。
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命令でもない。
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ただ、
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“形”が伝わっている。
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その時、
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別の声がする。
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「確認した」
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レオンハルトだった。
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「三つの都市で同様の分離が発生」
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短く言う。
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「意図的ではない」
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「自然発生だ」
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アルノーの息が止まる。
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自然。
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つまり、
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誰かが命じたわけではない。
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だが、
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同じ答えに辿り着いている。
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リリアーナが小さく言う。
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「繋がっていますね」
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アルノーは頷く。
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確かに。
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それは、
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繋がりだ。
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その時、
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ルシアが言う。
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「神託も変わります」
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全員が見る。
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「この形を前提にします」
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短い言葉。
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だが、
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大きい。
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神託が、
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“後追い”する。
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人の選択に。
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アルノーは思わず笑う。
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「逆ですね」
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ルシアもわずかに笑う。
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「ええ」
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「逆です」
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その瞬間、
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空気が少しだけ軽くなる。
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だが、
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長くは続かない。
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遠くから、
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また足音が響く。
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速い。
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焦っている。
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「報告!」
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使者が駆け込んでくる。
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「中央神殿が」
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息が荒い。
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「正式に通達を出しました!」
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空気が一気に張り詰める。
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「異端への対応を強化」
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「各都市に監察官を派遣」
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アルノーの背筋が冷える。
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来る。
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直接。
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ここに。
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「……時間がない」
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思わず漏れる。
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レオンハルトが言う。
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「そうだな」
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短い同意。
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「ここからは」
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一拍。
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「隠れられない」
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その言葉は重かった。
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今までは、
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まだ“外側”にいた。
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だがこれからは、
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完全に中に入る。
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対立の中へ。
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その時、
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リリアーナが言う。
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「それでも」
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静かな声。
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「形は止まりません」
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全員が彼女を見る。
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「なぜなら」
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一瞬だけ間を置く。
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「もう」
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周囲を見る。
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「誰かのものではないからです」
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アルノーの胸が強く打つ。
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そうだ。
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これは、
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自分たちのものだ。
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命令ではない。
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神託でもない。
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だから、
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止められない。
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その時、
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遠くで、
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別の鐘が鳴る。
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違う音。
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低く、
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重い。
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レオンハルトが顔を上げる。
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「……来たか」
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アルノーが問う。
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「何がです」
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レオンハルトは答える。
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「監察官だ」
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短い言葉。
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だが、
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すべてを変える言葉。
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アルノーの心臓が跳ねる。
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ついに来る。
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中央が、
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直接。
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この場に。
ここでついに「直接対立」に入ります。
今までは構造や間接的な衝突でしたが、
次からは“人対人”の明確な衝突になります。
物語としてはここから一段ギアが上がるポイントです。
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次話もぜひお楽しみに。




