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婚約破棄された悪役令嬢ですが、仕事を奪った王宮が先に崩れました  作者: 水城ルナ


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第91話 残ったもの

 煙の匂いが、まだ残っている。


---


 焦げた木材。

 崩れた屋根。

 黒く染まった石壁。


---


 ヴェルクの南側は、静かだった。


---


 昨日までの怒号はない。


 火の音もない。


---


 ただ、


---


 **何かが終わったあとの静けさ**だけがあった。


---


 アルノーはゆっくり歩いていた。


 足元に灰が舞う。


---


 誰かの家だった場所。


 店だった場所。


---


 今は、ただの跡だ。


---


「……こんなに」


---


 言葉が出ない。


---


 自分は選んだ。


---


 止めた。


---


 だが、


---


 守れなかったものがある。


---


 それが、ここにある。


---


「全部は残りません」


---


 後ろから声がする。


---


 リリアーナだった。


---


 彼女は変わらない。


 いつも通りの声。


---


「選ぶということは」


---


「何かを残して」


---


「何かを失うことです」


---


 アルノーは拳を握る。


---


「分かっています」


---


 だが、


---


「納得できません」


---


 はっきりと言う。


---


 初めてだった。


---


 リリアーナの言葉に、


 そのまま従わなかったのは。


---


 少しの沈黙。


---


 だが、


---


 リリアーナは否定しない。


---


「ええ」


---


 ただ、頷く。


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「納得しなくていいんです」


---


 アルノーは顔を上げる。


---


「納得しないから」


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「次に選べます」


---


 その言葉は静かだった。


---


 だが、


---


 重い。


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 その時、遠くで声が上がる。


---


「荷を運べ!」


---


 振り向く。


---


 人が動いている。


---


 焼け残った倉庫。


 そこに荷が運び込まれている。


---


 昨日まで止まっていた流れ。


---


 それが、


---


 少しだけ戻っている。


---


 アルノーは目を見開く。


---


「……動いてる」


---


「ええ」


---


 リリアーナは言う。


---


「止まりません」


---


「人は」


---


「止まれません」


---


 そこにいるのは、


---


 昨日、叫んでいた男たちだ。


---


 怒っていた。


 争っていた。


---


 だが今は、


---


 働いている。


---


 無言で。


---


 その中に、


---


 あの若い男もいた。


---


 アルノーは近づく。


---


「……大丈夫か」


---


 声をかける。


---


 男は顔を上げる。


---


 少しだけ驚く。


---


 だが、


---


 すぐに戻る。


---


「……やるしかない」


---


 短い言葉。


---


 それだけだった。


---


 怒りは消えていない。


---


 だが、


---


 前を向いている。


---


 アルノーはその姿を見る。


---


 胸が痛い。


---


 だが、


---


 少しだけ、


---


 救われる。


---


 その時、


---


 別の声が響く。


---


「神託はどうなった!」


---


 空気が変わる。


---


 振り向く。


---


 群衆の一部が集まっている。


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 その中心に、


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 ルシアがいた。


---


 彼女は静かに立っている。


---


「神託は」


---


 誰かが叫ぶ。


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「もう出ないのか!」


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 ルシアは少しだけ目を閉じる。


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 そして開く。


---


「出します」


---


 はっきりと言う。


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 ざわめき。


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「ただし」


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 続ける。


---


「すべては決めません」


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 沈黙。


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 理解できない。


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「何だそれは」


---


 誰かが言う。


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 ルシアは答える。


---


「方向だけを示します」


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「選ぶのは」


---


「あなたたちです」


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 アルノーの胸が揺れる。


---


 それは、


---


 新しい形だった。


---


 神託でもなく。


 完全な自由でもない。


---


 その中間。


---


 だが、


---


 簡単ではない。


---


「そんなの意味あるのか!」


---


 声が上がる。


---


 当然だ。


---


 答えが欲しい。


---


 それが人だ。


---


 ルシアは一歩前に出る。


---


「あります」


---


 短く言う。


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「昨日」


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 周囲を見る。


---


「すべてを決めた結果」


---


「間に合いませんでした」


---


 静かな事実。


---


 誰も否定できない。


---


「だから」


---


「変えます」


---


 言い切る。


---


 その姿に、


---


 アルノーは気づく。


---


 彼女も、


---


 選んでいる。


---


 神託官としてではなく、


---


 **一人の人として**


---


 その時、


---


 別の足音が近づく。


---


 重く、


 整った音。


---


 レオンハルトだった。


---


 彼はルシアを見る。


---


 そして言う。


---


「それでは足りない」


---


 静かな否定。


---


 空気が張り詰める。


---


「都市は」


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「それでは守れない」


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 ルシアは答えない。


---


 ただ、見ている。


---


 その間に、


---


 リリアーナが一歩前に出る。


---


 そして言う。


---


「守る方法は一つではありません」


---


 レオンハルトの視線が向く。


---


 そして、


---


 わずかに笑う。


---


「なら見せてみろ」


---


 挑戦。


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 アルノーの心臓が強く鳴る。


---


 ここから先は、


---


 もう誰も守ってくれない。


---


 神も。


 王も。


---


 自分たちで、


---


 選ぶしかない。


---


 ヴェルクはまだ燃えている。


---


 目に見えない場所で、


---


 ゆっくりと。

ここから新章スタートです。


「事件」は終わりましたが、「問題」は終わっていません。

むしろここからが本番です。


神・人・力、それぞれのやり方がどうぶつかり、どう残るのか。

ここから一気に“世界の話”へ広がっていきます。


ここまで読んでいただきありがとうございます。

面白いと感じていただけたら、ブックマークや評価で応援いただけるととても励みになります。


次話もぜひお楽しみに。

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