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婚約破棄された悪役令嬢ですが、仕事を奪った王宮が先に崩れました  作者: 水城ルナ


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第88話 神託官の拒否

 「神託はどうした!」


 その声が、空気を裂いた。


---


 列はでき始めている。


 押し合いは減った。

 動きは整理されつつある。


---


 だが、


---


 完全ではない。


---


 人はまだ、求めている。


---


 答えを。


---


 アルノーの声が止まる。


 胸が詰まる。


---


 自分は決めた。


 今、この場を。


---


 だがそれは、


---


 “この場だけ”だ。


---


「……神託は」


---


 言葉が出ない。


---


 代わりに、別の声が降りてきた。


---


「ありません」


---


 静かな声だった。


---


 だが、全員に届いた。


---


 振り向く。


---


 ルシアが立っている。


---


 星図は持っていない。


---


 ただ、まっすぐに立っている。


---


「今、この場に」


---


 彼女は言う。


---


「神託はありません」


---


 ざわめき。


---


「は?」


「どういうことだ」


---


 怒りではない。


 困惑。


---


「神託官だろ!」


---


 ルシアは一歩前に出る。


---


「神託は」


---


 ゆっくり言う。


---


「すべてを決めるものではありません」


---


 空気が揺れる。


---


 それは、


---


 これまでと違う言葉だった。


---


「今のこの状況は」


---


 彼女は続ける。


---


「神託では間に合いません」


---


 誰かが叫ぶ。


---


「じゃあどうする!」


---


 ルシアは答える。


---


「あなたたちが決めます」


---


 沈黙。


---


 アルノーの目が揺れる。


---


 それは、


---


 リリアーナと同じ言葉だった。


---


 だが違う。


---


 神託官の口から出た。


---


 それだけで、


---


 意味が変わる。


---


「無責任だ!」


---


 怒号が上がる。


---


「神託官だろ!」


---


「決めろ!」


---


 当然の反応だった。


---


 ルシアは、動かない。


---


「私は」


---


 静かに言う。


---


「未来を示します」


---


「ですが」


---


「今、目の前で起きていることは」


---


「あなたたちの選択です」


---


 言い切った。


---


 逃げない。


---


 その瞬間、


---


 何かが変わる。


---


 アルノーは息を呑む。


---


 これは、


---


 拒否だ。


---


 神託官が、


---


 **決めることを拒否した**


---


 レオンハルトが静かに言う。


---


「……面白い」


---


 その目は鋭い。


---


「では」


---


「どうなるか見せてもらおう」


---


 兵は動かない。


---


 あえて、止めない。


---


 その場を、


---


 人に委ねる。


---


 アルノーの胸が強く鳴る。


---


 逃げられない。


---


 決めなければならない。


---


 今、この場で。


---


「……続ける」


---


 小さく言う。


---


 誰にでもなく。


---


 自分に。


---


 顔を上げる。


---


「列を守れ!」


---


 再び声を張る。


---


「出る人間は左!」


「残る人間は右!」


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 人が動く。


---


 少しずつ。


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 完全ではない。


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 だが、


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 確実に進む。


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 アルノーの手が震えている。


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 それでも止めない。


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 その時、


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 群衆の中から別の声が上がる。


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「ふざけるな」


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 低い声。


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 振り向くと、


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 男が立っている。


---


 目が濁っている。


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「なんで俺たちが決めるんだ」


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 静かな怒り。


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「神託があるから」


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「任せてきたんだろ」


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 誰も反論できない。


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 事実だった。


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「今さら」


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 男は続ける。


---


「できるわけないだろ」


---


 その言葉に、


---


 アルノーの足が止まる。


---


 心が揺れる。


---


 その通りだ。


---


 人は、


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 決めることを手放してきた。


---


 だから今、


---


 できない。


---


 その時、


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 リリアーナが初めて口を開いた。


---


「できます」


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 静かな声。


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 だが、はっきりと。


---


「人は」


---


 彼女は言う。


---


「何度でも、選べます」


---


 男は睨む。


---


「じゃあやってみろよ」


---


 挑発。


---


 だが、


---


 リリアーナは動かない。


---


「もう、やっています」


---


 アルノーを見る。


---


 列を見る。


---


 人の流れを見る。


---


 男の目が揺れる。


---


 完全ではない。


---


 だが、


---


 確かに、


---


 動いている。


---


 人が、


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 自分で。


---


 その時、


---


 遠くで鐘が鳴る。


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 また別の場所。


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 まだ終わっていない。


---


 アルノーは目を閉じる。


---


 そして、


---


 再び前を向く。


---


「……続ける」


---


 その言葉は、


---


 もう迷っていなかった。


---


 だが、


---


 都市全体は、


---


 まだ揺れている。


---


 そして、


---


 誰も知らない。


---


 この選択が、


---


 何を生むのかを。

ここでルシアがついに「神託を使わない」という選択をしました。


物語的にはかなり大きな転換点です。

神・人・力、この三つが完全にぶつかるフェーズに入っています。


次は「選択の結果」が現れます。

ここからさらに一段、物語が重くなります。


面白いと思っていただけたら、ブックマークや評価で応援していただけると嬉しいです。

次話もぜひお楽しみに。

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