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婚約破棄された悪役令嬢ですが、仕事を奪った王宮が先に崩れました  作者: 水城ルナ


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第87話 選ばされる整理役

 「北門で衝突です!」


 その報告から、間を置かずに人が走り出した。


 兵が動く。

 住民も動く。


 静まりかけた広場とは別の場所で、

 また同じことが起きている。


---


「……行きます」


 アルノーが言う。


 反射だった。


---


「行ってどうしますか」


 リリアーナの声は静かだった。


---


 足が止まる。


---


 アルノーは答えられない。


 止める?

 整理する?

 説得する?


---


 どれも、間に合わない。


---


「……それでも」


 アルノーは絞り出す。


---


「何もしないよりは」


---


「ええ」


 リリアーナは頷く。


---


「では、何をしますか」


---


 問いは変わらない。


---


 アルノーは拳を握る。


---


 考える時間はない。


---


 だが、考えなければならない。


---


 その時、レオンハルトが言う。


---


「来い」


---


 短い言葉。


---


 アルノーが顔を上げる。


---


「状況を見ろ」


---


「それから決めろ」


---


 それは命令ではなかった。


 だが、拒否できない。


---


 アルノーは一瞬だけリリアーナを見る。


---


 彼女は何も言わない。


---


 ただ、


---


 見ている。


---


 それだけだった。


---


「……行きます」


---


 アルノーは頷く。


---


 北門へ向かう。


---


 走る。


 足音が重なる。


---


 通りを抜けると、すぐに分かる。


---


 音。


---


 怒号。


 物が壊れる音。


---


 そして、


---


 人の叫び。


---


 北門の前は、すでに崩れていた。


---


「やめろ!」


「押すな!」


---


 人が密集している。


 出口を巡って、押し合いになっている。


---


「仕事を探しに行く!」


「ここにいても意味がない!」


---


 外へ出ようとする者。


 止めようとする者。


---


 衝突。


---


 アルノーはその光景を見て息を呑む。


---


「……これは」


---


 広場とは違う。


---


 **逃げ場の争い**


---


 誰もが生き残るために動いている。


---


 そこに、理屈はない。


---


「開けろ!」


---


 誰かが門に手をかける。


---


「出るな!」


---


 別の声が止める。


---


 押し合いが激しくなる。


---


 その時、


---


 門の上から声が響く。


---


「止まれ!」


---


 兵だった。


---


 だが、


---


 届かない。


---


 アルノーの視界に、


 一人の子供が映る。


---


 押し潰されそうになっている。


---


 考える前に、体が動いた。


---


「どけ!」


---


 人をかき分ける。


 押し返す。


---


 子供を引き上げる。


---


「……大丈夫か」


---


 子供は泣いている。


---


 だが、無事だ。


---


 その瞬間、


---


 アルノーの中で何かが決まる。


---


「……止める」


---


 小さく呟く。


---


 振り返る。


---


 この場を。


---


 どうやって?


---


 分からない。


---


 だが、


---


 止めなければならない。


---


「聞け!」


---


 声を張る。


---


 初めてだった。


 こんな風に叫ぶのは。


---


 だが、


---


 届かない。


---


 誰も聞かない。


---


 怒りと恐怖が、それを飲み込む。


---


「くそ……!」


---


 その時、


---


 背後から声がした。


---


「退け!」


---


 レオンハルトだ。


---


 兵が前に出る。


 強引に人を押し返す。


---


 空間が作られる。


---


 アルノーの周りに、


 わずかな隙間が生まれる。


---


「今だ」


---


 低い声。


---


 アルノーは息を吸う。


---


 そして叫ぶ。


---


「ここで押し合えば、全員が動けなくなる!」


---


 声が、届く。


---


 一部に。


---


「外に出たいなら、順番を作れ!」


---


「押したら進まない!」


---


 単純な言葉。


---


 だが、


---


 少しだけ動きが変わる。


---


「……順番?」


---


 誰かが呟く。


---


「列を作れ!」


---


 アルノーは続ける。


---


「左側は出る人間!」


「右側は残る人間!」


---


 指差す。


---


 明確にする。


---


 位置を。


---


 その瞬間、


---


 一人が動く。


---


 左へ。


---


 次にもう一人。


---


 少しずつ、


---


 流れが変わる。


---


 完全ではない。


---


 だが、


---


 止まりかけていた混乱に、


---


 **形が生まれる**


---


 アルノーの手が震えている。


---


 だが、止まらない。


---


「順番を守れ!」


---


 声を張る。


---


 そして、


---


 初めて気づく。


---


 自分が、


---


 決めていることに。


---


 その時、


---


 背後から静かな声がした。


---


「それが」


---


 リリアーナだった。


---


「あなたの線です」


---


 アルノーは振り向かない。


---


 ただ、


---


 目の前を見ている。


---


 まだ終わっていない。


---


 だが、


---


 一つだけ変わった。


---


 誰も決めない場所で、


---


 **自分が決めた**


---


 その瞬間だった。


---


 だが、


---


 その先で、


---


 別の声が上がる。


---


「神託はどうした!」


---


 まただ。


---


 誰かが求めている。


---


 答えを。


---


 アルノーの胸が揺れる。


---


 自分の決断か。


 神託か。


 それとも――


---


 その問いは、


---


 まだ終わっていなかった。

このあたりから一気に「選択」の重さが増してきました。


アルノーがついに“決める側”に踏み込んだのが今回の大きな転換です。


次は、神託と人の決断が真正面からぶつかります。

ルシアの選択も含めて、かなり重要な回になります。


ここまで読んでいただきありがとうございます。

続きが気になる方は、ぜひブックマークと評価で応援いただけると嬉しいです。

次話もぜひお楽しみに。

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