第三十七話 不合格の理由
二階には幾つか部屋があるみたいだが、その中でもっとも広い部屋に翔英達はギルドマスターに連れられてやって来た。
会議室らしく、コの時型にテーブルが並べられている上に、ホワイトボードまで用意されている。
どう見てもこの世界の物では無い。
「どうぞ、席次なんて気にせずに、好きなところに座って下さい」
ギルドマスターに言われたものの、翔英はもっとも出入り口に近いところに座り、デデレデはギルドマスターのところに乗り込もうとしていたものの、翔英がかなり早い段階で座ってしまったので、足を止める。
仕方が無いので翔英の隣に座ろうとしたが、そこはすでにエーカが座っていた。
さらにその隣には大女レオネラが座っている。
「小さいの、そこをどきなさい」
「ん? 何か言ってるれすか?」
言葉が通じないエーカは首を傾げているが、言葉が通じたとしても同じ態度をとっていた事は予想出来る。
「エーカちゃんなら私の膝の上でも良いですよ?」
「絶対嫌れすぅ」
「そりゃそうね」
レオネラが呆れて言う。
それはそうだろう。
仕方が無いのでデデレデはテーブルを挟んで翔英の対面に座る。
意外と大人しく済んで良かった。
また不必要に噛み付くのではないかと心配になったのだが、今回は堪えているみたいだ。
少なくとも今のところ。
「どうしてあの役立たずが選ばれて、ショーエーが選ばれなかったの?」
さっそくデデレデがギルドマスターに噛み付き始める。
「何言ってるれすぅ?」
言葉が通じないエーカは、翔英の服を引っ張って説明を求める。
「えっと、何で僕が選抜隊に選ばれなかったのかって聴いてるんだよ」
「あ、それはわたしも思いました。何れれすぅ?」
「まあ、疑問だよな。ティガーどころかレッドブルまで倒したんだろう? 言っちゃなんだが、一人でそんな事が出来るなんて異常だ。選ばれた二人が協力したってレッドブルには敵わないだろう?」
エーカとレオネラも疑問に持っているみたいだ。
「何ですか、結局ショーエイハーレムですか。せっかくボコボコにされてたから空中分解したのかと思ったのに。何だか話したくなくなってきたなぁ。もう帰る? むしろ帰ってくれる?」
「ふざけてるのか?」
デデレデとレオネラがまったく同時に同じ事を言う。
それはそうだろう。
むしろそれでギルドマスターが務まるのかを聞きたい。
「まあまあ、冗談ですから。ちゃんと説明しますって。何ですか、その愛され方。おかしいでしょ?」
「おかしいのはマスターれすぅ」
「エーカの言う通りだ」
「こいつ、何言ってるの?」
女性陣はすこぶる厳しい。
翔英としても口を挟む余地も無い。
とはいえどう考えてもギルドマスターが膨らませている。
「極めて単純な事ですよ」
ギルドマスターは女性陣にどれほど凄まれてもびくともしない。
この辺りはマスターらしい。
ギルドマスターが何か言うのを待っていると、ウェテトーレと笹さんが飲み物を持って入って来る。
「何が好みか分からなかったから、ただの水です。どうぞ」
ギルドマスターがそう言うと、デデレデとレオネラは一気に水を飲み干す。
ウェテトーレは飲み物を配り終えると会議室から出て行き、笹さんは翔英達とは対照的な場所に座っている。
「さて、それじゃ種明かしをしましょう。何故抜群の戦闘能力を誇るショーエイ君が落選して、ぶっちゃけ大した事してないような二人が選抜隊に入ったのか。私は言いましたよ? 今回のは選抜隊を選ぶ、と。わかりますか? 『隊』のメンバーです。けっこうヒントは与えてたんですけどね」
ギルドマスターは笑いながら言う。
「例えば私は注意の時点で言いましたよ? 選抜試験が始まる直前に、現時点ではチームでは無いといいましたが その瞬間の話であって選抜試験中のチームでは無いと言うわけでは無いのですよ? 実際にテレクリットは先行していたアーモンと協力しています。これは素晴らしくポイントが高い行為です。何故ポイントが高いか分かりますか? ショーエイ君?」
「いえ、分かりません」
「いや、そこは即答するところじゃありませんから。考えようともしないんですか?」
ギルドマスターは苦笑いしながら言う。
「では分かる人はいますか?」
ギルドマスターの質問に、全員が黙り込む。
「おや? エーカちゃんも分からない?」
「分かってますぅ。でもらまってるんれすぅ」
敢えて黙っていると言う言い方をしていると言う事は、エーカにも分かっていないと言う事だ。
もし分かっていたら、ここぞとばかりに演説するはずである。
「えー? 誰も分からない? それはちょっと寂しいですね。でも引っ張ってもアレですから答えを教えましょう。今回の選抜試験では、協調性を見ていたんですよ。沼の一族は通常では新米がどれほど頑張っても一人で無力化など出来ませんからね。それに選抜隊に選ばれたら、それぞれをあまり知らない状態で一緒に戦う事にもなります。そんな訳で、最初にチームでは無いと宣言したメンバーと共闘出来るか、と言う一点のみが重要なんですよ」
「それならショーエイは魔物を手懐けてるぞ? それの方が凄くないか?」
デデレデには話の内容が聞こえていないみたいなので大丈夫だろうが、レオネラは素晴らしく失礼な事を言っている。
「それもまた問題ですよ。ショーエイ君は、徹底したスタンドプレイですからね。選抜隊に選ばれたらあの二人とも組む事になるかもしれないのに、ショーエイ君はギルド側ではなく敵側について、敵側と共に街側の妨害を企てました。今回の沼の一族はどうあっても街をどうこう出来る戦力ではありません。ですが、街と同等の勢力で、そこの彼女並みに美少女で、私などより数倍取り入るのが上手かったらどうなってました? ショーエイ君はそんな相手を今回のやり方で無力化出来ましたか?」
「無理ですけど、その場合はどうしようもないんじゃないですか?」
「そう、その通りどうしようもありません。でも、その時の行動の答えはもう隊長が言っていますよ。そうですね、レオネラさん?」
「降りろって事?」
「そう言う事です。で、ショーエイ君、君は自分がどういう風に合格出来る行動を取ったと思いますか?」
ギルドマスターに質問されても、答える事は出来なかった。
確かに翔英は最初からあの二人を味方と見ていなかった。自分には無理だと思っても、レオネラのように降りる決断も出来なかった。
言われてみるとヒントは確かにあった。
「ま、決めるのは隊長で私ではありませんから、どうでもいいと言えばどうでも良いんですけど」
「ちょっと待って。だったら、どれほど優秀であったとしてもその隊長が認めないと、その選抜隊って言うのには選ばれなかったって言う事?」
デデレデが食いついてくるのを、ギルドマスターは肩をすくめて見せる。
それを馬鹿にされたと思ったのか、デデレデは席を立とうとするが、ギルドマスターは軽く手を上げてデデレデと笹さんを制する。
「そこで、と言うわけではないんですけど、選抜隊が隊長直属の部隊ですがショーエイ君とレオネラさんはそちらではなく、私の直属として行動していただきたいと考えています。言ってみれば、夜の選抜隊ではなく私、ギルドマスターの選抜隊と言う事ですね。カッコ良く言えば、正規軍が隊長の選抜戴、貴方達は私直属の特殊部隊と言う事です」
「特殊部隊って、何をさせるつもりなんですか?」
翔英としては嫌な予感しかしない。
むしろそっちの方が悪いのではないかと思えてしまう。
「まだ具体的な事は考えていませんよ。そう言う部隊が欲しいなー、と思っている程度で」
「うそれすぅ。マスターがそれを考えてないわけ無いんれすぅ」
「さすがエーカちゃん、私の事をよく分かってる」
「知らないれすぅ。むしろ知ったこっちゃ無いれすぅ」
エーカはギルドマスターには容赦無い。
「この世界の仕組みなのですが、ショーエイ君に分かりやすく言うとワンタウン制です」
「すみません、まったく分かりません」
ギルドマスターの話を遮って翔英は言う。
「え? マジで? ショーエイ君ってゲームとかけっこうやってそうなイメージだけど。あ、ごめん、これは召喚人の会話だから」
ギルドマスターは翔英の周りの女性陣に言う。




