第三十四話 お出迎え
「あーっ! 帰ってきたー!」
ようやく街に戻ってきた翔英を出迎えたのは、街の門の前で待っていたエーカと大女、さらにギルドマスターだった。
「ほらね、心配いらなかったでしょう。私の言った通り」
「いや、あんたの言葉だから余計に心配してたんでしょ?」
ギルドマスターはニコニコしているが、大女はギルドマスターをエーカに近づけないようにしている。
確か彼女はウェテトーレについた悪い虫を追い払うと言っていたが、その範疇にはエーカも含まれていたみたいだし、悪い虫の中にはギルドマスターも含まれていたみたいだが虫と言うにはタチが悪そうだ。
「でも、新しい女がくっついてきてるけど? しかも見た感じ沼の一族に見える気がするのも気になるね」
「まあまあ、見た感じボロボロですよ。まずは休ませて上げましょう」
異様に殺気立つ大女に対し、ギルドマスターが仲裁に入る。
「見る限りそこの二人はけっこうな怪我をしているみたいですから、宿へ運んで下さい。私はエーカちゃんを」
「待て。エーカに手助けが必要では無いと思うぞ? マスター、あんたが沼の女。私がショーエイを運ぶ。それで良いな?」
「しょーえーはわたしが運びますぅ」
微妙に発音が良くなっている気がするエーカが、胸を張って言う。
気持ちは凄く嬉しいが、エーカに肩を借りる方が大変そうだ。
「いやいや、エーカちゃんに無理させるくらいなら、ショーエイ君には自分で歩いてもらいます。でもせっかくだからお嬢さんには私が肩を貸しましょう」
とんでもない提案をするギルドマスターだったが、デデレデに睨みつけられている。
声に出しては言えないが、良い気味だ。
そもそも肩を借りる必要があるのは翔英であって、デデレデではない。
もちろんエーカでもない。
と言うより、ギルドマスターは何故ここにいるんだろう。
エーカは心配だったからとして、大女はその護衛役を買って出たのは何となく分かる。
しかし、この二人の態度からギルドマスターに相談したようには見えないし、相談するようにも見えない。
この人の事だからエーカを見かけたのでくっついてきた、と言う事も十分考えられる。
「分かった。宿には私達で運ぶから、あんたは仕事に戻りなさい」
大女がギルドマスターに向かって言う。
これではどちらがマスターかわからない。
「いや、でも、エーカちゃんには私の手助けが必要でしょう?」
「いらない」
「私にはエーカちゃんの手助けが必要でしょう?」
「さささんがいますぅ」
まだ慣れてないのか、かなり頑張っているのは分かる。
そんなエーカに見事に撃退されたギルドマスターは、肩を落としてトボトボと歩いていく。
怪我をした状態で、しかも夜通し歩いてきた翔英達よりはるかに辛そうな歩き方だ。
「聞きたい事も言いたい事も山ほどあるが、今言うとイジメになりそうだし、まずはゆっくり休む必要がありそうだな。宿で良いか?」
「良いれすぅ。わたし、ちょっとれすけろ回復魔術を使えますぅ」
「ホントに? だったら今すぐ治して欲しいんですけど」
「はい、ろこれすか?」
「いや、僕じゃなくて、彼女を看て欲しいんです」
翔英はデデレデの方を見て言う。
「はあ? そいつは沼の一族だろう? 心臓を抉って金にしてやれば良いじゃないか」
大女は不思議そうに言う。
なるほど、ここの人達にとっては見た目がどうであっても沼の一族は魔物扱いと言う事みたいだ。
「そう言う訳にはいきませんよ。彼女は僕の命の恩人で、大事なお客様ですから」
「客ぅ? 正気か?」
「とにかく、ひどい怪我をしているんです。僕より痛むはずですから、お願いします」
翔英の言葉にデデレデだけでなく、大女やエーカも目を丸くして驚いている。
翔英としては常識的かつ良心的な事を言っているつもりなのだが、この世界の住人にとっては何か信じられない事だったみたいだ。
「れも、わたし歩きながらは無理れすから、やろにいくれすぅ」
「じゃ、私が担いでやる。沼女、お前は自力で歩けるな?」
「ねえショーエー、何を言っているの?」
デデレデは眉を寄せて翔英に囁く。
大女の言葉がデデレデには分からないみたいだ。
そう言えば、大女が沼の一族は話が通じないと言っていた。
デデレデの性格から話の聞く耳を持たない的な意味かと思っていたが、言葉が通じないと言う事だったらしい。
「僕はあの方に担がれるみたいです。貴女は自力で歩けますか、と言うような質問です」
「心配いらないと伝えて。むしろ、邪魔だって」
デデレデは敵意剥き出しで大女を睨む。
「あ? 気に入らない目だな。ここで殺されたいか?」
「気に入らないわね。デカい武器を見せびらかして脅してくるのが気に入らない」
なんだか女性陣が物騒な事を言い出している。
「ケンカれすか? やろうやろう」
何故かエーカが煽り始める。
「れも、エーカが一番つよいれす。ボッコボコにしてやるれす!」
「はいはい、エーカちゃんが一番強いです。私は大人しくしてますよ」
相変わらず諦めの早い事だ。
見た目や言動はモロに戦士なのだが、その割に諦めが良過ぎるくらいに現状を把握しているところもある。
と言うよりエーカと戦うのが嫌なのか、この会話に付き合う事がバカバカしいと思ったのだろう。
翔英も出来れば早く宿に帰りたい。
でも泥だらけなので馬小屋ではなく、シャワーが浴びたいので部屋に戻りたい。
「ショーエイ、お前がどう考えてるかは知らないが、沼の一族は魔物だぞ? それを信用出来るのか?」
「信用も何も、彼女は僕にとって命の恩人ですから」
翔英の言葉に、大女は大きくため息をつく。
「わかったよ。召喚人はイマイチ何を考えているのか分からないね
「まったくです。何ですか、そのショーエイハーレム。異世界に来た途端にハーレム作りだなんて、どこの主人公ですか」
「うおぁ!」
大女と話していたと思ったら、真後ろからギルドマスターが現れたのだ。
しかも翔英とデデレデの間に割り込むようにである。
「きゃあ!」
「お、可愛い悲鳴。良いなあ、ハーレム。私も一時憧れましたけど、今はエーカちゃん一筋ですよ。ねえ、エーカちゃん?」
「ろっから現れたれすか、この変態は」
「いやー、誰も呼び止めてくれなかったから、寂しくて」
「じゃ、私が一緒に帰ってあげるから。ついでに笹さんか隊長か呼ぶ?」
「いやー、あの人達、私の冗談に付き合ってくれないですからねー」
「分かった、分かった。私が付き合ってあげるから」
大女が翔英ではなくギルドマスターを担いで去っていく。
「それじゃ、ゆっくり休んだらギルドに来て下さいねー。もちろん、エーカちゃんも一緒にですよー」
荷物のように肩に担がれているにも関わらず、ギルドマスターは楽しそうに手を振っていた。
相変わらずのダメ人間っぷりではあるが、翔英達の後ろに現れるにはテレポートを使ったとしか思えない。
それにアドバンス・アイテムを持っているはずのギルドマスターなので、デデレデとの会話も可能なはずだ。
実際肩を貸すとかの話の時には、デデレデから睨みつけられていた。
まあデデレデの場合、言葉が分かる分からない以前に睨みつけてくるだろう。
大女とは言葉も通じないのに一触即発の空気だった。
「それじゃ、やろにもろるれすぅ。歩けます?」
「もう少し頑張ります。デデレデさんも頑張って下さい」
「私の心配はいらないわよ」
デデレデは相当疲れているはずだが、気丈に振舞っている。
正直に言えば、翔英は今すぐこの場で座り込みたいところだが、デデレデの方から弱音を吐いてもらわないとカッコがつかない。
そう言う訳で、文句も言わずに宿まで歩く事になった。




