第三十三話 街へ
「ショーエー!」
空から降りてきたデデレデが、翔英の前に降りて抱きついてくる。
左手は動いていないし力もほぼ入っていない事を考えると、抱きついくと言うよりもたれ掛かって来たと言う方が正しい。
翔英には魔術が使えないのでよくわからないが、あの空気の塊は物凄く疲れるみたいだ。
エア・ブラストと言っていたが、見た感じで言えばエア・メテオだった。
怖かったのか痛いのか、極度の疲労のせいかデデレデは小刻みに震えている。
「役得だな」
翔英もひそかにそう思っていたので、出来れば赤い眼の剣には黙っていて欲しかった。
やっぱりと言うか、デデレデはその言葉に過剰に反応して翔英を突き飛ばそうとする。
「うわ」
と声は出るものの、翔英は牛に突き刺した剣を握っているのに対しデデレデは翔英にもたれ掛かっていた状態だったので、バランスを崩したデデレデはそのまま牛の背から泥の中に落ちる。
「きゃあ!」
せっかくの綺麗な鎧がまた泥まみれになった。
だいたい牛の背の上でそんなに動いたら落ちそうなのは分かりそうなモノだが、デデレデはすぐ感情的になって動くところがある。
見た目には綺麗なのだが、子供っぽい可愛さも悪くない。
翔英は剣を抜いて牛から降りると、デデレデを助け起こそうと手を伸ばす。
「な、何よ。私のお陰で命拾いしたんだからね! 忘れないでよ!」
「助かりました。ありがとうございます」
翔英の手をデデレデは睨みながらだが、しっかりと掴む。
が、デデレデの体重を支えられるほど翔英にも余裕が無く、そのまま二人とも泥の中に倒れこむ。
「何がしたいのだ?」
赤い眼の剣が呆れて言う。
「ちょっと! 支えるなら支えてよ!」
「すいません。本当にすいませんでした。僕も赤い眼の剣が支えてくれると思って」
「何故俺がそんな事をする必要がある。それよりこれからどうするのだ? この耳の連中のところに戻るのか、街に戻るのかを決めた方が良い。もう一体レッドブルが来たら、俺はともかくお前達は終わりじゃないのか?」
冷たいものだ。
せっかくの良い雰囲気が台無しだ。
とはいえ、夜の泥沼でデカい牛の死体の近くと言うのはロマンチックとは掛け離れているので、赤い眼の剣の言う通りでもある。
「せっかくだから角でも持ち帰ればどうだ? 中々見栄えがするモノだからな」
確かにこの牛の角は立派なモノで、首や心臓と比べると気持ち悪くもないし抵抗も無い。
赤い眼の剣を振ると二本の角は簡単に切る事が出来たので、剣をベルトに挟むと角を拾う。
「族長から言われたわ。街に行けって」
「街に? ここからなら集落の方が近くないですか?」
泥の中から立ち上がり、今度こそデデレデを助け起こして尋ねる。
翔英はデデレデに肩を貸すが、右足に力を入れると激痛が走るので、どちらかといえば翔英の方が肩を借りている状態である。
「ほとんど何も無いとはいえ、一応僕の荷物もあるんですけど」
「新しく買え」
デデレデではなく、赤い眼の剣に言われる。
「この耳の集落では、さっきの魔術師も射手も戻ってくるのではないか? それに魔物に狙われては、あの耳どもではもう戦えないだろう」
「狙われているとすれば、私達じゃなくて貴方よ。と言うより、その剣が呼んでいると族長は言っていたわ」
「俺が?」
よほど意外だったのか、赤い眼の剣は驚いている。
「族長が言っていたわ。私達の夜の過ごし方だけど、夜の魔物は動かない者を狙う事はマレなんだって」
街へ戻る途中、デデレデが話してくれた。
「だとすると、今は絶望的にピンチの状態じゃないんですか?」
「だから集落じゃなくて街に行くのよ」
露骨な厄介払いと言う訳だ。
特に何かしたわけでもないのに、ここまで嫌われると翔英も泣きたくなってくる。
「え? デデレデさん、危ないと思わなかったんですか?」
その話で言えば、今の翔英は爆発物並みの危険物と言う事になる。
それで言えば、今翔英と一緒にいると言うのがもっとも危険な立場ではないかと思う。
「だ、だ、だって、ショーエーが戻ってきたら集落が危ないから、わ、わた、私が集落を守らないと! そうでしょ!」
何故かデデレデがキレている。
「凄い正義感ですね。僕には真似できません」
「そ、それはそうでしょうね! 私は優秀だから」
キレたりニヤけたり、デデレデは忙しい限りだ。
見てるとけっこう面白い。
「わ、私は優秀だし、正義感も強いから、貴方を集落から遠ざけるもっとも危険な役割を買って出たのよ。貴方を街まで送りたいわけじゃないんだから」
そこまでは聞いていないのだが、一族を守ろうとする正義感は見上げたモノだ。
「ん? それだと僕を助けたりしなくて、あの牛の時に見殺しにした方が良かったんじゃないんですか?」
「貴方を見捨てろって言うの?」
予想外に強い口調で、デデレデが問い詰めてきた。
「え? あ、いや、僕は助かりました。物凄く助かりました。もう、命の借りは返してもらったと言うか、お釣りを払う必要があるくらいです。でも、見捨ててくれても良かったんじゃなかったのかな、って思って」
「私は見捨てない」
デデレデは真っ直ぐに翔英を見る。
泥にまみれていたとしても、せっかく整えた髪が乱れていたとしても、彼女は美しかった。
思わず見入っていると、デデレデはハッとなってそっぽを向く。
「わ、わ、私は、正義感が強いから、誰も見捨てないのよ!」
と言う事は翔英でなくても、デデレデは命をかけて守りに来たと言う事だ。
特別扱いされてた見たいだったので気分が良かったのだが、そうじゃ無いとわかると残念ではあった。
舌打ちしたくもなったが、しかしデデレデのカッコ良さには憧れる。
「もも、もちろん、今後も手助けしてあげるから、感謝しなさい!」
「はい、ありがとうございます。感謝します」
翔英が素直に言うと、やっぱりデデレデはそっぽを向いている。
結局そのまま二人はお互いの体を引きずり合うように、街まで歩いて行った。




