第二十六話 デデレデとの会話イベント終了
いかにも戦士らしいデデレデの言葉だが、その鋭い視線と共に翔英の胸を貫く。
好戦的で直球勝負のデデレデと空気を目指していた翔英では、物事の考え方があまりにも違い過ぎるのだが、昨夜現れたもう一人の翔英と同じようにデデレデも翔英を否定している。
余計な争い事が起きないようにと苦心していた翔英と違い、デデレデは自分に自信を持っているからこそ、他者との争いを辞さない覚悟がある。
デデレデは様子を見に来た沼エルフの男性を蹴り出したが、それもここは任せておけと言う強い意思表示であり、物理的にではあったが男性を追い出した。
翔英であれば協力者が現れたとしたら、その人物に全てを任せて自分はいなくなっていただろう。
つまりは丸投げである。
そんな人物の言葉に従うかと言えば、翔英であっても従わないだろう。
「それも出来ずにお前は剣を持っているのか?」
これまたいかにも戦士な言葉で、デデレデは翔英を睨みつける。
持ちたくて持っている訳ではない。
この剣が無ければここでは会話も出来ないし、狩りをしなければ生活も出来ない。翔英が強い意志でこの剣を持っているのではなく、持たされているのだ。
と言う考え方がダメなのだ、と昨夜現れたもう一人の翔英もデデレデも言っていると言うのは翔英にも分かる。
分かるのだが、だからと言っていきなり変えられるものでもない。
「俺はそうは思わないが」
赤い眼の剣が翔英に向かって言う。
この剣には翔英の考えている事が分かるみたいだ。
「お前に何が分かるのだ」
翔英に言ったはずなのだが、デデレデが食いついてくる。
「そこのメスに話しかけたつもりはないのだが、まあ良いだろう。こいつに覚悟など皆無だ。むしろ何も背負おうとしない。何もせず、何も出来ないと自分に言い聞かせて何もしない。だからこそ俺にとって理想的な使い手なのだ」
「何だと?」
デデレデは翔英を見る。
「お前はその程度の者なのか?」
「ああ、こいつはその程度のモノだ。どういう訳かお前を助けると言う時だけはやる気を見せていたが、だからと言ってこいつがその責任を持つわけでも、それによって何か得ようとか考える事も出来ない程度のヤツだ。お前がこいつを同等同類の戦士だと思っているのなら、見込み違いも甚だしい」
赤い眼の剣は言いたい放題である。
しかも言い返せない。
デデレデの表情が睨みつけるものから、怒りの表情に変わりつつあったが、突然何かに気付いたかのようにふと素の表情になる。
「今、何と言った?」
「お前の見込み違いだと言ったぞ」
「違う、そこではない。私を助ける為にやる気を見せたと、そう言わなかったか?」
「ああ、そこはその通りだ」
「グール狩りをしていたのではないのか?」
デデレデが翔英に尋ねる。
会話の流れからグールと言うのがあの枯れ木人間だと思われるが、翔英のイメージするグールとは掛け離れている。
「あの時は、その、狩りをしていたと言うわけではありません」
翔英はデデレデを見ながら言う。
あの時はあの枯れ木人間を沼の一族と思っていたので、狩りといえば狩りをしていた。ついでに言えば、見た目に怖くない上に血の出ない枯れ木人間を狩るのはオークやゴブリンと言った魔物を狩るより楽しかったので、その時からやる気になっていたと言えなくもない。
だが、デデレデを助けようとしたのは翔英の意思であり、赤い眼の剣の動きを制御してでも彼女を助けようとした。
あれは間違いなく翔英の意志であり、全てを赤い眼の剣に委ねた訳ではない。
赤い眼の剣は翔英が自分の意思を持っていない人物なので、使い手としては理想的だと言ったし、その点には自覚があるところもあった。
だが、流されるだけではない。
流されるだけではダメなのだと、昨夜現れたもう一人の翔英も言っていたではないか。
「僕はあの時は、貴女を助ける事だけを考えてました」
それは間違い無い事だったので、翔英は断言する。
そこは譲るところでもないし、嘘でもない。
赤い眼の剣とデデレデと言う物理的脅威の前に脅されて、と言う側面は否定出来ないが、それでも翔英は自分の意志で自分の覚悟を言葉にした。
それを聞いたデデレデは、目を見開いて驚いている。
「確かにあの時はそうだったな」
赤い眼の剣は大した興味も無さそうだったが、そこを認める。
デデレデを見ると、キョトンとした表情のまましばらく固まっていたが、見る見るうちに顔が紅潮していき、耳まで紅くなる。
(な、何だ? 今のどこにそんな顔真っ赤にするくらい激怒する要素があったんだ? 失敗か? またしてもフラグを立て損なったのか?)
翔英はそう思ってデデレデを見ると、デデレデの方も翔英の視線に気付いて真っ赤な顔で怒った表情でそっぽを向く。
これは本格的に怒っているみたいだ。何か致命的な事を言ってしまったらしい。
「ま、まあ、族長との面会は、わ、私の方で何とかしてみるわ! あ、有り難く思いなさい! その時にまた、呼びに来るわ!」
言葉使いやキャラまで変わったデデレデはそう言うと、翔英を置いて部屋から出て行ってしまう。
(お、終わった。僕のイベントはここまでだ)
翔英はがっくりとうなだれる。
何が悪かったのかわからないが、露骨に話を切り上げ逃げるように出て行ってしまったと言う事は、何か余程の事を言ってしまったと思われるが、それが何なのかが翔英には分からなかった。
「まあ、気にするな。メスなんて吐いて捨てるほどいるだろう。何もあの耳長だけがメスでもなかろうに。それより、お前の挑もうとしている戦いは俺ではどうする事も出来ない戦い方だから、そちらの方を考えるべきだぞ。今はメス一匹にかまけている場合でも無いだろう」
赤い眼の剣なりのフォローだろうが、けっこう傷口に塩を塗りこむようなフォローの仕方なのでかなりキツい。
しかし戦いに関して言えば、赤い眼の剣の言う通りでもある。
赤い眼の剣は直接戦闘では特筆すべき戦闘能力を誇るが、それはあくまでの剣での戦闘の話しであり、翔英が挑もうとしているのは言葉での戦闘と言える。
そこでは赤い眼の剣は、ほとんど役に立たない。
赤い眼の剣自体の知能は高く、おそらくその点で言えば翔英より上だ。だが、剣は興味のある事以外に対してどうでも良いと言う態度であり、口を挟むと事態が悪化する。
デデレデに関しても同じ事が言える。
彼女も極めて短気で好戦的であるため、取引などには向かないと言えそうだった。
つまり交渉の鍵は、もっとも無責任で流されるがままの意志の弱い翔英しかいないと言う事になる。
(無理だ。僕ではどんなに有利な条件であったとしても、ギルドマスターと取引なんて出来ない。上手い事言いくるめられて終わりだ。何とかしないと)
赤い眼の剣が言う通り、デデレデの攻略より先に考えるべき重要案件がある事は分かった。
頭では分かっているのだが、やはりショックだった。
これまでにあんな美少女と知り合いになった事も無ければ、その美少女の命を救うような、とっておきのイベントなども起きた事も無い。
いい感じ、と言う事は無かったが、妄想と独りよがりであったと言っても怒らせてイベント終了は本気で凹んでしまう。
もう何もかもどうでもいいよな、とか考えてしまう。
困るのはこの沼の一族であって、翔英では無いのだから。
(待て待て、そんな事じゃ無い。もっと、別の事だ。何か考えないと)
しかしその気力も湧いてこないので、最終的には夜に迎えに来るとデデレデが言っていた事を思い出し、そこに望みをかけて夜まで休息をとる事にした。




