第二十五話 翔英なりに話をすすめる
「族長って、どんな人ですか?」
「お前が会うつもりなのか?」
「僕一人じゃないですよ、もちろん」
「それは当たり前だ」
イマイチ会話が噛み合わない。
一応提案者は自分なのでいた方が良いのではないかと思ったのだが、デデレデの中ではそうでもなかったらしい。
それだったらそれで構わない。
ここまで分かりやすく好戦的な一族を束ねる族長なので、エルフであってもけっこう怖い人ではないかと予想出来る。
先ほどやって来た男性もエルフらしいイケメンであったが、それでも暴力慣れした歴戦の雰囲気を持っていたし、目の前の美少女デデレデも十分過ぎるくらい喧嘩慣れしている雰囲気はあるのだ。
もしかするとエルフの族長と言うより、格ゲーのラスボスみたいな暴力の塊みたいな人物かもしれないと思うと、会わないで済むならそれでも構わない。
「お前が族長に会うかどうかはともかく、族長は夜に目を覚まされる。今は就寝中だ」
「昼夜逆転なんですね」
「なんだ、何か気に食わないとでも言うのか?」
何故か喧嘩腰なデデレデなので、翔英は首を振る。
別に翔英が気に食わないからと言って生活習慣を変えるとも思えないし、逆に翔英の一言で生活のリズムを逆転させられても困る。
「だが、仮りに私達が街の庇護を求めたとして、街は私達を庇護してくれるものなのか? 街からすれば、私達を庇護するより、私達を駆逐する方が都合が良いのではないか? その剣も言っていただろう。無力化するというのなら皆殺しの方が良いと」
確かに言っていた。
ただ、その時デデレデはいなかったと思うのだが、建物のすぐ近くに立っていたと言う事はその話も聞こえていたと言う事だろう。
もしかすると魔術で盗聴じみた事をしていたのかもしれない。
そうは考えたくないが、有り得ない話では無い。
しかし、盗聴されていたとしても聞かれてまずい事は話していない。むしろ聞かれていれば、翔英にこの一族への害意は無いと証明される様な内容だったはずだ。
会話の内容での失敗は、心の声が表に出ていたあの一回しか無いはず。
夜に現れたもう一人の翔英がこの沼の一族の魔術だったとしても、翔英が危険人物であるとは思われないだろう。
「どうなのだ? 街の人間はそう思っているのではないか?」
何故か勝ち誇った表情のデデレデ。
それだったら沼の一族にとって死亡宣告のようなモノではないのかと翔英は心配になるが、デデレデの考えは違うみたいだ。
「街の全員がそう、と言う事は無いと思います」
「ほほう、何故そう思うのだ?」
顔の紅さが通常の白さに戻ってきたので怒ってはいないみたいだが、これはこれで面倒臭い感じになっている。
普通に微笑んだりすると桁外れの美少女なのに、こんな悪意丸出しのニヤニヤ顔は勿体無いと翔英は思う。
そんな表情でも目を見張るほどの美少女である事は変わらないと言うのも凄い。
「お前は街の代表か何かなのか?」
「いえ、そんな事は……」
「では何故、街の総意の様な事が言えるのだ? やはり言葉巧みに私を騙し、利用するつもりではあるまいな? その手には乗らんぞ」
自分で全部言って作り上げているのはデデレデの方で、翔英は特に何も言っていないし誘導もしていないのだが、勝手に都合の悪い事を積み上げられても困る。
どこかで彼女の考え方を正しく修正しなければならない。
「街の総意と言うのはさすがにわかりませんけど、少なくともギルドマスターは沼の一族を積極的に皆殺しにしようとは考えていないはずです」
「ギルドマスター? それがお前達の首魁か」
「首魁って……。ま、まあ、僕らのボスと言えなくはないですね」
ボスと言うにはダメさが勝ってしまっているが、少なくとも翔英はギルドの一組員なのでギルドマスターが雇い主である以上、ボスであると言える。
「お前はそのギルドマスターの使いか?」
「厳密に言えば違いますけど、おおよそそんな感じです」
「どっちなんだ」
睨まれた。
それどころか襟首掴まれそうにもなったが、それはデデレデの方が自重してくれた。
ギルドマスターの使いと言う事でここへ来た訳ではないが、ギルドマスターから無力化を言い渡されてここへ来たので、どちらかと言われてもどちらも正解では無いとしか言いようが無い。
無力化の方法などを任されているのだから、使いと言えば使いと言える権限は持っていると言えそうでもある。
言ってしまったら責任が発生しそうなので、迂闊な事は言えない。
ここで発生する責任は、翔英にもろに降りかかってくる。
しかも沼の一族みたいにいざとなったら赤い眼の剣に任せて無かった事にする、と言う力技も出来ないのだから、より一層慎重にしなければ。
(いや、沼の一族に対しても力技に及ぶつもりは無いけど。あくまでも念の為、最悪の場合そう言う事も出来ると言う、精神的な保険と言うヤツで)
誰に言うでもなく、翔英は心の中でひたすら言い訳している。
「どうなんだ? お前はギルドマスターの使いなのか?」
デデレデはニヤつきながら尋ねてくる。
(このヒト、絶対Sだよな)
腕を組んでニヤニヤしているデデレデを見ながら、翔英はため息をつきたくなる。
せっかく可愛いのに孤立するか、どうしようもないイジメっ子になるかといった感じだが、要領が良さそうな感じもしないのでおそらく孤立するタイプだろう。
「一応使いとしての権限は持っているはずです」
「一応に、はず、か。アテにはならないと言う事だな」
厳しい。
そんなに嫌われるような事はしていないと思うのだが、デデレデの攻撃力は言葉や態度でも相当に高い。
むしろ攻撃に特化していると思えてならない。
多分あの重そうな胸にも戦意が詰まっているのだろう。だからあんなに大きくなったんだ、と翔英は思う。
「言っておくが、俺にはお前にあのギルドマスターを説得出来るとは思えないが」
またしても赤い眼の剣が言わなくていい事を言ってくれる。
「そうなのか?」
露骨に怪しんでいると言う視線をデデレデは翔英に向けてきた。
胸をガン見していた事ではなかったのでまだマシではあったが、それにしても答えにくい質問でもある。
「いや、あの、僕が説得すると言う事ではないんです」
「と言うと?」
「あくまでも僕の提案なだけですから強制する事もするつもりも無いんですけど、それだけの価値がある情報のはずですから、ギルドマスターと交渉は出来ると思います」
「断言しろ。思うとかはず、ではなく。私達は命をかけているのだから、お前も同じように命をかけろ。それでなくては、お前の言葉はただの言葉でしかなく、誰かを動かす事など出来ない」




