第二十三話 誤解を解こう
「それが恩人に対する態度と言う事か。俺は別に構わないのだが、その場合だと俺をこの場で敵に回す事になるぞ。最初の獲物はお前だ」
「面白いじゃない」
翔英としては誤解を解きたいと思っているのだが、赤い眼の剣の言葉を売り言葉と受け止めた沼エルフの美少女の足元から風が巻き上がり、文字通り怒髪天を衝いている。
スカートだったらそれごと持ち上がっていそうだが、昨夜と同じくショートパンツなのでそんな悲惨な事にはならなかった。
「待って、ちょっと待って下さい。ここで争っても意味はありませんから。と言うよりむしろ良い事ありませんから」
翔英は慌てて言うと、立ち上がって赤い眼の剣を腰に戻す。
「それに、今の一発だけとは限らないですから、ここは危ないですよ」
「それなら心配ない」
彼女の周囲を渦巻く風が広がっていく。
そのまま風はどこかに飛んでいったので、彼女の髪は重力に従って大人しくなる。
「風の結界を張ったから、これで弓矢は防げる。さあ、それでは決着をつけようじゃないの」
「いやいやいや、僕はそんなつもりありませんから。ちょっとゆっくりお話でもしましょう」
「何だ? 私の命を救ってやったと恩を売るつもり?」
そんなつもりはさらさらないのだが、先ほど赤い眼の剣に言われた事を気にしているのか、彼女は妙にこだわっているようにも見える。
「例えば今この場で私がお前を殺そうとする。それを思いとどまれば、それなら私はお前の命を救った事にならない? それで貸し借り無し。違う?」
違う。大きく違う。全く違う。暴論以外の何物でもない。
そう思いはするものの、それを面と向かって言ってしまったらまた怒髪天を見る事になりそうだったので我慢する。
陽の光の元で見る深緑の髪は美しく神秘的なのだが、アレが逆立つと異様な何かが彼女を包み、別の化物に変化したように見えるのだ。
「面白い理論だな。だとすると、俺がお前を殺そうとするたびに、こいつは俺を止めようとする。その度にお前はこいつから命を救われている事になるぞ? 疑う余地も無く、俺はお前より、いや、お前らより強い。この集落の連中全員の命をこいつが支えていると言う事になるのだが、それでもお前は俺を試すのか?」
(だから辞めて。これ以上怒らせないで)
赤い眼の剣は翔英の腰から言葉を投げかける。
元々好戦的な赤い眼の剣だし、この美少女に限らず沼エルフの面々も中々に好戦的なところがある。
話が噛み合わなくなった場合、腕力で言う事を通すと言う価値観は一致しているみたいなので、余計にそちらに火がつきやすいみたいだ。
「一度決着をつけましょうか。その方がお互いにスッキリするでしょう」
「決着をつけるも何も、お前は昨夜の魔物に手も足も出なかったのに対し、俺はあの程度なら百体でも相手に出来る。先ほども、お前たちは狙われている事にも気付いていなかったが、俺はどこから狙っているのも分かった。勝負にならないと思うがな」
「接近戦で有利だからと言って、私に勝てると思っているの?」
「思っている。お前が何かする前に、俺ならお前の首を刎ねるか胸を貫く。即死だと自慢の魔術も使えないぞ」
「ちょっと落ち着きましょう」
今すぐにでも戦闘を始めようとする赤い眼の剣と沼エルフの間に、翔英が割って入る。
このまま話が進められると、確実に血が流れる。
圧倒的に彼女の血であり、場合によっては翔英の血が流れる事になる。
ごく個人的な意見なのだが、今となってはオークやゴブリンなどの人型が切り刻まれるのにはかなり慣れてきたのだが、こんな美少女を自分の手で斬り殺す事は絶対にしたくない。
それもあって、翔英は必死に赤い眼の剣を抑えていた。
おそらくではあるが、どんなに鼻息を荒くしたところで、彼女では赤い眼の剣に勝てないと翔英は思っている。
宣言した通り、一瞬で彼女の首を切断しそうな勢いもあるし、とてもそんなモノ見たくないし、何よりもったいない。
ギルドの中でも一、二を争う美少女でありナイスバディーのウェテトーレと比べても見た目に劣るところのない美少女である。性格的な難はいつもニコニコしているウェテトーレと比べると三ランクくらいダウンさせられそうだが、それでも特筆すべき美少女をこんなところで死なせるのはあまりに惜しい。
ただ見ているだけでもそう思うのに、翔英は彼女とはウェテトーレ以上に接点が多い。
これは異世界に来て、ようやく手に入れた手応えのあるフラグである。
何とかして育てて、一定の効果なり成果なりを上げたい。
今のところ血を見ようとしている以外の進展は無いが、それはきっと今後の好感度を上げた時の落差として彼女の魅力になるはずだ、と信じている。
「風の結界を張ったと言っても、相手から見えないところの方が良くないですか? 例えば建物の中とか」
「ほう、狭い建物の中の方が私の機動力を制限させ、得意の接近戦に持ち込めると思っているみたいだけど、その手に乗るとでも思うの?」
「そんなつもりは無いですよ、集落の様子もそれなりに見る事は出来たし、また狙われるのも怖いですから」
「弓矢でまた狙われるとでも? お前の剣は狙っている者も分かっているんでしょう?」
「剣には分かっても、僕には分かりませんから」
翔英の言葉に、彼女は少し驚く。
「そうか、それもそうね。結局のところ言いたい事を言っているのは剣であって、お前では無い訳だから」
「そうです。そう言う事です」
翔英は大きく頷く。
これならいい雰囲気に持っていけるんじゃないか、と言う期待が膨らむ。
「でも、強いのも剣であってお前ではないのよね?」
それも正しくその通りなのだが、それを伝えると剣を奪われた時を考えると怖い。
「どうなの?」
「……はい、その通りです」
強がってもいいと思ったのだが、これまでの会話の流れでそんな事を言ったら実力を見せろと言い出しそうだったので、怖くはあっても認める事にした。
万が一の場合、赤い眼の剣は翔英の許可が無くても翔英の体を支配する事は出来るので、とっさの時にはきっと翔英を守ってくれるはず。
時間が経つにつれて不安になっていく屋外デートから、特に何もないとは言え矢を射掛けられる事も無い屋内デートにプランを切り替える。
元々ノープランだったのは、この際気にしない。
食事とかはどうだろう。
翔英はさっき食べたばかりではあるが、彼女とかはまだかもしれない。
いい考えに思えたが、それでは彼女が食べ物を取りに行くか誰かに持ってこさせる。そうなると楽しい時間は終わりになりそうなので、別の方法を考える。
と言っても何も浮かばず、そのまま翔英が入れられた牢として使われている建物に戻ってくると、彼女からそこに入れられるように入る事になった。




