第二十二話 デートのようなモノ
(どうしよう)
形はだいぶアレだが、デートのようなモノ。当たり前だがノープラン。
(マジでどうしよう。この世界には映画とか無さそうだし、そもそもデートなんてした事無い。待て待て、落ち着け翔英。別にデートってワケじゃないし、まずはこの集落を見て回るはずだっただろ? 彼女はくっついてくるとはいえ、僕の事を見つめて……じゃなくて、見張っているだけだし、僕の事を意識もしてないんだ。勝手に盛り上がるな)
翔英は必死に自分に言い聞かせる。
だが、意識してしまってからは、自然と彼女に目が行ってしまう。
驚くほどの美少女で、翔英の同級生の中にはいなかったし、少なくとも翔英の通う学校にも、住んでいた町内にもいなかった。
テレビに出ている四十八人組の中にいてもおかしくないどころか、センター争い間違い無し。ちょっと目付きが悪い事さえどうにかすれば、卒業してソロ活動も夢じゃないくらいだ。
しかも、見た目にはスレンダーなのに脱いだら凄そうなのが服の上からでも分かるときているので、グラビアでもいい感じみたいだ。
(待て待て、こんな事だから僕はむっつりスケベと言う不名誉な疑いをかけられるんだ。僕は至って健全だし、むっつりじゃないから)
口に出す訳でもなく、誰にするでもない言い訳を翔英は心の中で繰り返している。
立ち止まっていても気不味いので、翔英と沼エルフの美少女は集落を見て回る。
集落は予想以上に狭く、沼エルフの数もかなり少ない。
全体で百人前後といったところだろうか。
おそらくではあるが街の住人の百分の一くらいしかいない。
街は広いので、生産者としても戦力としても沼エルフの一族を全員街に迎える事は難しくないはずだ。
管理者も兼ねていると思われるギルドマスターの仕事は増えそうだが、エーカを追い掛け回している時間があるのだから、それくらいの仕事が増えても大丈夫だと翔英は勝手に判断する。
「聞きたい事があるんですが」
「何よ、言ってみなさい。聞くだけは聞いてやるから」
凄く偉そうに美少女が言う。
「夜の魔物に対してはどう対処しているんですか?」
「お前の知った事ではないわ」
冷たい限りの答えだ。
一応翔英は命の恩人のはずだが、彼女の態度は冷たい上に刺々しい。
ついでに言えば、視線も突き刺さるみたいに痛い。
これはもう、見つめられていると言うより視線で穴でも開けてやろうと言う、強い意志さえ感じるくらいに睨まれているとしか思えない。
(おかしいな、どこかに選択肢があって見落としたのかな? 出会い方とか救出とか、フラグ立てる条件は整ってたんじゃないの?)
「おい、ちょっと体を借りて良いか?」
そんな事を考えていると、赤い眼の剣がそんな事を言ってくる。
「沼の一族に危害を加えない?」
「どちらかといえば守ろうとしていると思うのだが、もし許可が出るのなら急いだ方が良い」
赤い眼の剣にそう言われ、翔英はわずかに眉を寄せる。
イマイチ何を狙いにしているのかはわからないが、ここでいきなり彼女に斬りかかる事は無いと信じて、赤い眼の剣に体の自由を渡す。
その瞬間、翔英の体の自由を得た赤い眼の剣は、沼エルフの美少女に飛びかかった。
まったくの不意打ちで沼エルフの美少女は目を丸くして驚いているが、翔英としても同じくらい驚いていた。
そのまま翔英は沼エルフの美少女を押し倒す。
(うおっ、マジか。ナイス! じゃなくて、何してくれてるんだ、人の体で。僕なら絶対出来ないみたいないい感じ、じゃない、危ない事を)
よほどショックだったのか頭でも打ったのか、沼エルフの美少女はキョトンとして地面に押し倒されていたが、我に変えるとさっと顔を紅潮させる。
「お、お前、こんなところで一体何を……」
怒鳴ろうとしたのか気が動転しているのかはわからないが、声が面白いくらいに裏返っていたのだが、そのセリフも最後まで言う事は出来なかった。
先ほどまで彼女が立っていた頭の高さに何かが通過した。
すぐ近くの建物に当たったのを見る事が出来たが、それは矢だった。
赤い眼の剣が翔英の体を使って彼女を押し倒していなければ、彼女の美しい頭部を貫いていたと思われる。
「まあ、そう言う事だ。俺としては別に気にしなくても良かったと思うのだが、お前ら召喚人はこう言う事に極端に過敏だからな」
赤い眼の剣はそう言うと、翔英に体の自由を返す。
しかし、凄い索敵能力だと翔英は感心していた。
赤い眼の剣の口振りから、飛来した矢に気付いたのではなく、狙われている事に気付いたので、その対応もギリギリではあったが間に合った。
放ってきたのは、選抜候補だったあの狩人だろう。
弓矢と言う武器の特性から考えると、鋭くまっすぐ飛んで来ると言う事は有り得ず、多少の放物線を描きながら飛ぶ。
それは弓でもライフルでも、重力の影響を受ける飛び道具であれば避けて通れない問題である。
それでもまっすぐ飛んできたと言う事は、かなり近いところから放ってきたか、常識外れの腕力と驚異的な強さの弓で放ったと言う事か、もしくは翔英の物理常識に囚われない弓矢で射たか。
「いつまで乗ってるのよ!」
押し倒したままだったので、沼エルフの美少女から頭突きで鼻っ柱を一撃されて翔英はひっくり返る。
「ぷぎ」
「ま、まったく、どさくさにまぎれてどこ触ってるのよ、この変態!」
真っ赤な顔で、沼エルフの美少女は自分の胸を隠すようにして翔英に怒鳴りつける。
「え? うそ、僕はどさくさにまぎれてどこを触ったんだ? 胸部か? 乳房か? おっぱいなのか? 思い出せ、感触を思い出せ!」
「あー、そう言う事は口に出さない方がいいのではないか?」
翔英に対し、赤い眼の剣が呟く。
(うわっ、しまった。声に出てたのか?)
翔英は慌てて口に手を当てるが、沼エルフの美少女の表情が美少女と言うより般若か何かみたいになっている。
「お、お前はどこまでもへ、変態なのだな」
ぷるぷる震えながら美少女は立ち上がり、まだひっくり返っていた状態の翔英を睨みつけてくる。
「一応助けてやったのだぞ? まずは礼を言えばどうだ?」
赤い眼の剣は沼エルフの美少女に言うのだが、声の位置から考えるとまるで翔英が沼エルフの美少女に言っているみたいに感じられる。
実際に美少女はそう思ったらしく、怒りのオーラで髪がざわざわと蠢いているようにも見える。
と言うより、実際に動いている。
怒髪天を衝こうとしているのか、髪の毛が大きく広がり始めている。
漫画やアニメではよく見られる光景ではあるが、現実に見ると驚異的過ぎて言葉も出ないくらいに怖い。
しかも、沼から拾ってきたのか支給品なのか、彼女は昨夜も使っていたような細身の剣を腰に下げている。
(こ、これは、殺されるんじゃないか?)
この世界に来てからは、赤い眼の剣のお陰もあり、魔物との戦闘の際にも危険はあっても危機を迎える事は無かった。
ひょっとすると、ここへ来て初めての命の危険かもしれない。




