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第十八話 お前は何も考えていない

(何でこんな事になったんだろう)


 翔英は集落の中でも隔離された、小さな建物に連れて行かれた。

 そこが牢になっているらしく、その中に入れられてから拘束を解かれたが、外から鍵を掛けられているので出ることは出来ない。

 エルフの集落の牢に入れられて、翔英は何度目になるかわからない自問が浮かんでくる。

 何で、と言うのはごく簡単である。

 翔英が何も考えずに赤い眼の剣を渡したからで、赤い眼の剣さえあればエルフを殺して逃げる事も出来た。

 最初に浮かんだ疑惑でもあった。

 あの枯れ木人間ではなく、美少女のエルフの方が沼の一族なのではないか、と言う疑惑。

 街で大女に聞いた沼の一族の特徴は、枯れ木人間よりエルフの方が一致していた。

 大女がもっとも警戒していた、最初の一手であるはずの遠距離攻撃である魔術も枯れ木人間は使用してこなかった事。

 すぐに疑問に思ったし、敵意むき出しの美少女の態度からも簡単に予測出来たはずだった。

 考えるべきだった。


「いや、お前はそう思い、反省しているフリをしているだけで、本当はそう思っていないだろう? そうやって自分に言い聞かせ、次に気を付ければいいと結論付けたいだけで、本当に次に活かす気は無いのは分かっている」

「誰ですか?」


 狭い牢なので、他に誰か入るようなスペースの余裕は無い。


「お前はこれまでもずっとそうだった。ここに来る前から、ここに来てから、そしてこれからもずっとそうなんだろう?」


 牢の中には灯りが無いので、小さな窓から入る月明かりくらいしかないのだが、それでも視界はゼロではない。

 やはり狭い牢の中には誰もいない。

 そのはずだった。

 しかし、翔英が声のした気がする方をじっと見ていると、牢の一部から擦りぬけるように見慣れた人物が現れた。


「僕?」

「結局、お前は何もしない事は分かっている。いつもそうだよな、どこにいってもそうだ。空気みたいに存在を消して争いを避ける? 便利な言い訳だ。ただ何もしていないだけでしかないのにな」


 暗闇から現れた無表情な翔英が、一方的にそんな事を言ってくる。


(何だ? 何かの魔術なのか?)


 翔英は身構えて、翔英の影のような人物を見る。


「で、ここでどうするつもりだ?」

「どうって……」

「何もするつもりは無いんだろう? 奇跡的に誰かが助けてくれる事をぼんやり考えながら、自分からは何かするつもりはないんだよな?」


 何もするつもりもない訳ではなく、何も出来ないのだ。

 武器も無く、魔術も使えない翔英ではエルフの集団を相手に戦う事も出来ない。

 せめて話し合いでも出来ればとも思うが、話し合うにしても何を話せば開放してもらえるかわからない。


「僕は、女の子を助けた。だからあの子が話してくれれば、僕も開放してもらえるはず」

「助けた? 違うだろ?」


 もう一人の翔英は即否定する。

 いや、助けたはずだ。実際にここまで肩を貸していたし、他のエルフに彼女を渡したのも見ていた。

 あれが幻覚だったとでも言うつもりか?


「助けたのではなく、お前は何もしなかっただけ。結果として彼女は助かったのだが、お前は彼女を助けようとして動いた訳ではない」

「いや、僕は彼女を助けようとした。赤い眼の剣は彼女も殺そうとしたけど、僕はそれを止めた」

「それも助ける為ではないだろう? ただ、自分の手を汚したくなかっただけだ」


 一体何なんだ?

 翔英は、暗闇の中から現れた自分の姿を見て眉をよせる。

 牢の中は暇だったので暇つぶしに付き合ってやっているが、いちいち頭に来る事を言ってくる。

 同じ顔なのもムカつく理由の一つかもしれない。


「お前はただ、自分では何もしたくなかっただけだ。あの女が敵である可能性は真っ先に思い浮かんだはずなのに、同じ速さでそれについて考える事を放棄したのも、それを考えさえしなければ何もしない事に対する言い訳になるからな」

「そんな事、考えてない」

「そう、考えていない。お前は考えようともしない。考えてしまっては言い訳出来なくなるから。ずっとそうだっただろう? 考えなければ、それに対して知らないと言える。意識していなければ、嘘をつかなくて済む。覚えていなければ、忘れていましたで済む。そう考えてきたんだろう?」


 赤い眼の剣が無いのが残念だ。

 あの剣があれば、ここで言いたい事を垂れ流しているヤツを真っ二つにしていたところだったのに。


「いや、お前はいざここに剣があったとしても、それをやる事は無い。剣が切るのを止めないだけで、まるで自分の意思のように考えようとするだけだ。お前はそんなヤツだと言う事は分かっているだろう。剣が無くても殴る事くらいは出来るのに、お前はやろうとしないじゃないか」


 だったら殴ってやろうかと翔英は思ったのだが、言われたからやっただけだと言われそうなので、そこは我慢する。

 考えていない訳ではない。

 何もしようとしない訳ではない。

 ただ、何も出来る事が無いのだ。

 それは間違い無い事である。


「そうだな。何も出来る事が無いから、出来る事を探すのではなく、何もしようとしない事の言い訳として、何も出来ないと思い込みたいんだよな」

「僕に何をしろって言うんですか?」

「何もする気が無い人間は、自分が何をするべきかを考えない。お前の事だよ」


 まったく無表情にだが、もう一人の翔英は暴言を吐くのをやめない。

 ムカつきが抑えられなくなるので、翔英はそいつの言葉を無視する事にした。


(何が何も考えていない、だ。考えたからと言って、ここから出られるとでも思っているのか?)


 口に出して言うとまた暴言で返されるので、翔英は心の中だけで思う。

 確かに失敗だった事は認める。

 エルフの美少女が沼の一族だったかもしれない事、エルフ達の口車に乗って赤い眼の剣を手放した事、そもそも選抜候補に選ばれた事で調子に乗って選抜試験など受けてしまった事。

 その全てが失敗だった事は認める。


「違う。お前が認めるべきは、自分が失敗したと言う事ではなく、自分が失敗する事さえしていない事だ」


 考えが読めるのか、もう一人の翔英はそんな事を言ってくる。


「そう言う反省は、失敗したとしても自分で行動した人間にのみ意味がある行動だ。お前のように、行動していない人間が反省しているフリをしても得られるものなどない。まず認めるべきは、自分が何もせず、何も考えていないと言う事。お前がまず考えるべきは、自分が何を考えるべきかと言う事。お前がまず取るべき行動は、流されるのではなく自分の意志を持つ事だ。何もしない奴は何も得られない事を認めろ」

「いい加減に……」


 カッとなって怒鳴りつけようとした時、もう一人の翔英は消えていた。

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