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第十九話 考える翔英

 ムカつきだけが残ったが、それをぶつける相手もいなくなり翔英はモヤモヤして牢の隅を意味もなく睨んでいた。

 考えていない、ともう一人の翔英は言っていたが、何を考えれば良いと言うのだろうか。

 今考えるべき事は牢から出る事だが、これに関してはどんなに考えたところで出来る事が無いと言う結論に行き着く。

 そんな訳で思考時間終了、となってしまってはまたもう一人の翔英が現れて言いたい放題言われそうだったので、少し考え方を変える事にした。

 今この場、この状況からいきなり脱出と言う事を考えると不可能なので、脱出に必要なモノは何かを考える事にした。

 最初に思いつきそうなのは牢のカギだ。

 しかし、監禁されているとはいえ食事などは持ってきてもらえるはずなので、その時には牢のカギも開ける事になるはずだ。

 それにカギは外から掛けられているモノなので、内側にいる翔英が持っていてもあまり意味がない。

 それより絶対必要になるのが、赤い眼の剣だ。

 アレが無ければ、戦闘になった瞬間に負ける事は間違い無い。

 話し合いをするにしても、言葉が通じなければ会話も出来ない。

 これまで普通に会話出来ていたのに、赤い眼の剣をエルフに渡した途端にエルフ達が何を話しているのかわからなくなった。

 あの剣は言語の翻訳機能もあったらしい。

 それこそ考えてみれば分かる事だった。

 毎朝宿でエーカに起こされていた時、エーカはまず最初に重たそうに赤い眼の剣を翔英のところに持ってきていた。

 エーカは知っていたのだろう。

 幼い外見ではあるが、エーカは翔英以外にも『召喚人』に会った事があるし、何よりギルドマスターなどの幹部からも可愛がられていたので、アドバンス・ウェポンに関してもその存在は曖昧だったとしても、効果について知っている事もあったのかもしれない。

 しかし、エルフ達の警戒は尋常じゃない。

 そんな中で武器を取り返す事は、そう簡単ではないくらい翔英も分かる。

 こちらからお願いしたとしても、武器を返してもらえるとは思えない。

 結局翔英に出来る事は無い。

思考時間終了。

と行こうかと思ったのは本当だが、ここで本当に思考時間を終了させてしまうと何も変わらないので、翔英はもう少し考えてみる事にした。

例えば、翔英が助けた美少女などはどうだろうか。

 彼女には、翔英に敵意が無い事は分かっているはずだ。

 実際に彼女は翔英がエルフ達に取り押さえられていた時、何を言っていたかは分からないが抗議してくれているように見えた。

 彼女に剣を持ってきてもらうようにお願いしてみる、と言うのはどうだろう。

 自分ではいい考えだと思ったのだが、少し考えると無茶だと言う事もわかった。

 他のエルフに敬語を使われるような彼女だったが、何の理由も無く自分の立場を無視して翔英の為に剣を持ってきてくれると言う事は、いくらなんでも考えにくい。

 それでも剣を取り返すには。

 行動の自由が約束され、赤い眼の剣がどこにあるか分かっていれば、それを盗んでスーパーダッシュで逃げると言う手段もある。

 が、それはあるだけで実行出来るはずもない。

 それなら助けた美少女に剣を持ってきてもらう事の方が、よほど現実的だと思う。

 では、どうすればそう言う形で剣を持ってきてもらえるか。

 一番良いのは敵襲だろう。

 赤い眼の剣の前には無力だった枯れ木人間だが、ここのエルフには手に余る敵だったはず。

 集落の守りを固めるのではなく、外で戦う事の許された彼女が最終的には意識を失うほどに憔悴させられたくらいだ。

 あの枯れ木人間が大群で襲ってきた場合、翔英が協力を申し出れば剣を返してもらえる可能性はグッと高くなる。

 答えに近付きつつあると言う手応えのせいか、誰もいない牢の中で暇だったせいか、考えていくのがちょっと楽しくなってきた。

 タイミングで考えると、あの枯れ木人間もたまたま襲いかかってきた魔物と言うより、選抜候補のあの魔術師の手のモノではないかとも思う。

 もしそうなら、あの枯れ木人間が大群でこの集落を襲ってくる事も十分過ぎるくらいに有り得る話だ。

 何しろ、選抜候補の目的は沼の一族の無力化である。

 一体倒すとかではなく一族の無力化である以上、枯れ木人間の集団を集落に向けてくるのは考えられる手段だ。

 守備隊の数や質にもよるだろうが、その時には向こうから戦力として協力を要請してくるかもしれない。

 下手に動かなくても、剣は帰ってくるかもしれないし、行動も自由になる事も考えられる。

 そう考えると翔英にとって都合の良い事ばかりなので、襲撃を心待ちにしても良いくらいだが、いくつか非常に大きな問題がある。

 その状況になった時、翔英は本当に協力を要請されるかどうか。

 翔英が街から来たと言う事は、助けた美少女に説明したので知られていると思った方が良い。

 その人物に協力を求めるような事があるかと言われると、かなり厳しいというべきだ。

 もし協力を求められた場合、それに応えると言う事はギルドと敵対する行動だと受け取られるかもしれない。

 選抜候補の魔術師と戦うのは別に構わないが、エーカやウェテトーレとも敵対する事になるのかと思うと気が引ける。

 もちろん彼女達が最前線に出てくる事は考えられないが、あのギルドマスターと敵対するのは、どう考えても沼の一族と敵対するより手強いはずた。

 つまり、もし枯れ木人間の襲撃によって行動が自由になった場合、沼の一族に協力しながらもギルドと敵対せず、さらに沼の一族の無力化も行わなければならないと言う事になる。

 出来るはずがない。

 と思ったのだが、ふと気になるところがあった。

 沼の一族の無力化、である。

 討伐とか退治とかではなく、無力化と言うのが条件だった。

 ギルドのクエストなどを見た時に、そんな言葉は使われていない。

 何か抜け道があるのかも知れない。

 翔英は牢の中で眠りに落ちるまで、色々と考え続けていた。

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