第十七話 沼の一族
まずは沼から離れる事だと思い、意識を失った彼女に肩を貸す形で運ぼうとした時、小さく呻くと彼女が目を覚ます。
「何をしている! 離して!」
強い敵意を込めた目で彼女は叩きつけるように言うが、体は言う事を聞かないみたいで、抵抗は弱々しい。
「離せ、だとよ。離してやったらどうだ? そいつには協力は必要無いと言っている」
「立てますか?」
赤い眼の剣に言われたから、と言う訳ではなく、翔英は女性に尋ねる。
もし自力で移動出来る体力があれば、離せと命令する前に離れていたはずだ。
弱々しい抵抗しか出来ないということは、離すと自立する事すら難しいと言う事でもある。
その結果、悔しそうではあるが美少女は翔英の肩を借りたまま、と言う事で収まった。
「待って、どこに行くつもりなの」
沼から離れようとしている翔英に、エルフの美少女が尋ねる。
「沼から離れて、街に戻ろうとしてますが?」
「街に? ふざけるな、沼に戻って」
口調は相変わらず強いが、もはや弱々しい抵抗も無くなっている。
憔悴しきった状態でもリタイヤしないと言う決意は立派だと思うが、彼女に戦闘行為は出来そうにない。
枯れ木人間くらいなら赤い眼の剣の敵ではないが、沼の一族は魔術による遠距離攻撃を得意とするらしい。それで考えると彼女の状態は致命的なはずだが、彼女の戦意は衰えていない。
赤い眼の剣といい、この美少女といい、好戦的なモノだ。
そう思いながら、翔英は言われた通りに沼へ戻る。
すでに枯れ木人間は撤退したあとらしく一体も見かけないが、だからといって油断は出来ない。
翔英は美少女の誘導のままに沼に来ると、さらに奥へと進む。
沼を進むと、明らかに人為的に作られた上り坂があり、その先には集落のようなモノがあった。
ギルドマスターが用意した前哨基地なのかな、などと翔英が思っていると、集落の入口の門が開き、数人の武装したエルフが出てきて包囲される。
「ほう、敵対するつもりか。面白いじゃないか」
「待って下さい、ここは穏便に行きましょう」
包囲するエルフを皆殺しにしようとする赤い眼の剣だったが、翔英は頑張ってそれを抑える。
赤い眼の剣にとって、エルフの美少女も枯れ木人間も大差無いのだから敵と見なせば、同じように一刀両断にしかねない。
「皆待って、私の恩人よ」
これまで敵意しか向けていなかったエルフの美少女が、辛そうにだが、それでも包囲しているエルフ達に言う。
「無事で何よりです」
包囲しているエルフ達よりこの美少女の方が偉いらしく、エルフ達は敬語で彼女を迎え入れる。
翔英は美少女を仲間のエルフに預ける。
その直後、周囲のエルフ達は翔英に武器を向けてくる。
「え? あ、あの、何で?」
「やっぱり皆殺しにするか?」
両手を上げて戦意がない事を示す翔英だが、赤い眼の剣が物騒な事を言う。
いくら赤い眼の剣であっても、この圧倒的不利な状況では不安の方が大きい。
「仲間を助けてくれた事には礼を言いますが、友好の証として武器を預けていただきます。こちらに渡していただけますか?」
エルフの一人がそう申し出てくる。
周囲の威圧感は血を見ないと収まらないくらいに高まっているので、武器を渡すか皆殺しにするかの二択を迫られている気がする。
だとすると、翔英にとって選ぶ事は簡単だ。
オークやゴブリンと言った人型ならともかく、エルフを切り裂くのはさすがに無理である。
「おい、騙されているぞ」
赤い眼の剣は、翔英に言う。
騙されると言っても、このエルフ達に翔英を騙す理由が無いような気がする。
翔英は深く考えもせずに、赤い眼の剣を近付いているエルフの一人に渡す。
翔英の手から赤い眼の剣が離れたところを狙って、周囲のエルフ達から取り押さえられる。
「痛! ちょっと、何ですか? 武器は渡したじゃないですか」
思わず講義するが、エルフ達は何かわめきたてて翔英を取り押さえて離そうとしない。
それどころか、エルフ達は翔英を捉えて縛り上げる。
他のエルフに保護されている美少女も仲間に何か言っているみたいだが、何を言っているのか聞き取る事は出来ない。
周りの態度が軟化していないところを見ると、翔英を開放してくれるような話では無いみたいだ。
「まったく、召喚人の馬鹿さ加減には言葉もない」
赤い眼の剣が離れたところから言ってくるが、翔英の手に戻ってくる事は無く、そのまま翔英はまるで罪人のようにエルフに捉えられ、そのまま集落の牢のようなところに放り込まれる事になった。




