第十五話 沼の一族はどんな奴?
「沼の一族が相手じゃ、残念ながら私では出る幕が無いね」
そう言って大女も出ていこうとする。
「あの、沼の一族と言うのを教えてもらって良いですか?」
翔英は、慌てて大女を引き止める。
せっかくの協力プレイだと思ったのだが、ここではとことんソロが流行っているみたいである。
まあ、ソロの方がチームプレイより都合がいいと言う事でもあるのは、分かっているのだが。
「お、情報収集ですか? 良いですね。情報の有る無しは大きな違いです。孫子も言っていますよ、敵を知り己を知れ、と」
ギルドマスターがニコニコしている。
エーカはそんなマスターを睨みつけているが、今のところマスターも常識の範囲内であるので、心配いらなさそうだ。
「そうだな、飯を奢ってくれれば私の持っている情報をやろう。それでどうだ?」
これもデートになるのかな、と言う疑問がふと浮かんだが、あの巨乳少女ならともかくこの大女ではそんな雰囲気では無い。
単純なバストのサイズで言うと、おそらく巨乳少女よりこの大女の方が大きいと思うが、この大女の場合は身長も声も態度も何もかも大きいので、多分胸がどうとかいう特徴にはならないのだろう。
「何ならウェテトーレも連れて行くか?」
「私は仕事中です。エーカさんは留守番ですから、二人で行って下さい」
巨乳少女ウェテトーレは笑顔で言う。
出来る事ならこの大女より受付の巨乳少女ウェテトーレと食事に行きたいところだが、今回は情報収集と言う目的があるので大女と共にギルドを出ると、いつも使う食堂へ行く。
いつもの食堂ではあるが、今日は『召喚人』のスペースではなく現地人のスペースへ行く。
夕方近くの食堂は現地人がそれなりに集まっているが、もうすぐピークになる。
相変わらず召喚人のスペースはガラガラだが、ギルドに所属する召喚人は幹部の三人と翔英くらいしかいないので、埋まるはずもない。
「いつもの持ってきてくれ」
大女は豪快な注文の仕方をしている。
こう言う注文の仕方に憧れたりもするが、これで通じなければ素晴らしく恥ずかしい目に合う。
この大女の注文は正しく通じたみたいで、獣耳のウェイトレスは何かの肉の塊が乗った大皿を持ってくると、テーブルの上に重たそうに置く。
さらに飲み物を二つ持ってきて、大女と翔英の前に置く。
「これで一人前ですか?」
「お? 召喚人、興味があるのか?」
「いや、凄い量だなと思って」
「召喚人は少食だからな。私らはこれくらい食わないと、食った気にならないんだ」
大女は何か分からない肉の塊をナイフ、と言うより短剣で切ると、その短剣で切り分けた肉を突き刺し、そのまま食べ始める。
豪快だ。山賊の食事と言うか、蛮族の食事をそのまま体現しているみたいだ。
「で、召喚人は沼の一族の事は何も知らないのか?」
「知りません。危険なんですか?」
「私にはな。相性が悪過ぎる」
大女は謎の肉を謎の飲み物で流し込み、口元を豪快に拭って言う。
本当に獣みたいな人だな、と思ってしまう。
見た感じには美味しそうに食べている。
「沼の一族は魔術を使う。魔術は知っているか?」
「……おそらく、ですけど」
「要約すると飛び道具だな。何だか訳のわからない何かを飛ばしてくるし、動けなくなったり強制的に眠らされたり、とにかく私では近付く事も出来なかった。もし一人だったら、私はそこで殺されていたはずだ」
大女は前にも選抜隊候補に上げられた事があったと言う。
その時には彼女も自信満々で、あの狩人や魔術師の男のように単身でどうにでもなると思って挑んだが、相手を確認しただけで動けなくなったと言う。
それを助けたのが、ギルド幹部の一人である『笹さん』らしい。
大女はそれ以降生産者に回り、長期間ギルドから離れていたが少し前に現役復帰。そして選抜候補に改めて選ばれたのだが、今回も沼の一族と言う事だったと言う訳だ。
「こりゃ私に選抜隊になる資格は無いって事だろうね。まあ、昼間の仕事でも食うには困らないし、ウェテトーレに付きまとう悪い虫を追い払う事は出来るんだがね」
大女はニヤリと笑う。
その虫の中に数えられていない事を祈りたい。
赤い眼の剣の力を使ってもらえばともかく、素の翔英ではまったく勝負にならない。
「エーカの方は良いヤツ捕まえたみたいだし、心配なさそうだからね」
今度は自分の事だ、と翔英は思う。
確かにエーカには捕まえられた、と言う方が正しいかも知れない。
今でも翔英の借りている部屋に住み着き、ベッドの下で生活している。
いくら体が小さくても、あのスペースでいったい何をしているのかは疑問に思うのだが、多分寝ているのだろう。
「沼の一族と言うのはどんな姿なんですか?」
「姿? 姿は私達と変わらないよ。でも、話は通じないし、いきなり危なっかしい魔術をぶっぱなしてくるし、危ない奴らである事は間違いないわ。マスターは本気で交易を考えてるみたいだから、沼の一族は確かに邪魔なのよ」
「交易? 別の街があるんですか?」
「ああ。だが、どんなに近い街でも一日以上かかる。今のところ街の外で安全に夜を過ごす方法が無いから、数人の往来が極稀にあるくらいだよ」
大女は肉を食いながら言う。
この女も赤い眼の剣と同様に頭は良いみたいだが、それを活かす方に興味が無いようだ。
「あの二人は何かしら夜でも身を守る方法があるみたいだけど、あんたはどうなの、召喚人。現時点でかなり出遅れてるわよ」
「慌てて出る必要も無いと思いますから。沼の一族と言うくらいですから、一体だけと言う事も無いでしょう」
「へえ、召喚人にしてはのんびりしてるね。隊長より笹さんに近い、と言うよりあんたはマスターに似てるね」
大女にそう言われ、翔英としては複雑だった。
褒め言葉だと思いたいところだが、あの人に似ていると言われてもダメ人間だと言われているように思えてしまう。
それ以上沼の一族について詳しくは聞けなかったので、大女が肉を食べ終わるのを待って、食堂を出る。
「悪いけど、私は戦力にならないから今回は降りて街に残る。必ず生きて帰って来なさいよ。エーカが泣くからね」
大女はそう言うと翔英を送り出す。




