本気の一撃
その先は、もはや一方的な蹂躙。
月乃が首領以外の全組員を一人残らず殴り壊し、圧倒的な差をその身に叩き込む。
最初こそ組員達は首領と共に歯向かおうとしていたが、あまりに圧倒的すぎる差に、絶望の中で破壊されていった。
「バカな…!!」
わずか、数分。たったそれだけの間に、屈強な組員達が、メイド服姿の小柄な女たった一人を相手に、一人残らず壊されてしまった。
その事実が、首領のわずかな希望をもへし折ってしまっていた。
「…さて…最後はあなたですが」
「クソが…!!こんなチビアマごときに…!!」
月乃が近付こうとすると、首領は変わらずナタを振るう。追い込まれていても、その腕前は全く落ちていない。そこはさすが軍隊経験者、というところだろうか。
だが、もはや動きには慣れた。首領の動きは、もう月乃の適応範囲内だ。
「当たらねぇ…!?」
まるで陽炎のように、ナタの結界を潜り抜けてくる。先程は髪を切り落とせたのに、今回は髪の毛の一本すらもかすることはない。
そのまま、首領の懐に入られる。その右手は軽く握られていた。
殴られる。あれほど圧倒的に組員達を蹂躙した、怪物のような力で。
汗と震えが止まらない。そう直感した首領は、恐怖した。
「最期に一つ、質問です」
「むがぐ!?」
だが、その手は即座に開かれ、首領の顔を鷲掴みにしてきた。想定外の出来事に、首領は混乱してしまう。
小柄な女ゆえ、そのまま持ち上げられる、などということはない。だが、その指に込められた力は、ハッキリ言って異常の一言だった。
首領の顎の骨が耐えられず、砕ける音が嫌でも耳に入ってきた。
「うががっ、ががっ!!」
「この程度で、情けない…。軍隊経験者が、聞いて呆れますね」
悶える首領を見て、月乃は冷徹に呟く。もはや、そこに感情はなかった。
月乃は首領の顔を握り締めたまま、悲鳴を無視して質問を投げかけることにした。
「あなた方が捕らえてる青少年達は、どこにいますか?」
「むがが…!!だ、誰が…!!」
だが、月乃の質問に対し、首領は答えようとはしない。だが、その程度は想定の範囲内だ。
月乃はほんの少し、首領を掴む指に力を込める。すると、月乃の指が食い込み、ついには首領の頬へと刺さった。
「ぎぃあっ!?」
首領の醜い悲鳴が上がる。月乃の小さい手が、首領の顔を握り潰そうとしていることが、嫌でも分かるはずだ。
月乃の指に、生暖かい感触がある。男の、血の感触だ。
「…これ以上手を煩わせるなら、このまま握り潰しますが…どうされますか?」
「こ、このフロアの…ッ!!最奥の部屋、です…ッ!!」
ーーー必要なことは聞けた。そう判断し、月乃は乱雑に、男の頬から指を引き抜いた。
首領は恐怖のあまり立てなくなってしまったらしく、尻もちをついて息を切らしながら、指を突き立てられた頬を擦っていた。どうやら、助かったとでも思っているようだ。
一体、何を勘違いしているのだろうか。月乃は首領に、無言で近付いた。
その右手、首領の血で汚れた右手は強く握り締められていた。
「…え…?」
「裏社会は弱肉強食、なのでしょう?元より、警告されても人の意志を無視し続けるあなた達を、生かして返す気など毛頭ありませんよ」
月乃はそう言うと、唖然とする首領の顔面を、正面から殴り付けた。
避ける暇など与えない。今日一番の重みを持った拳は、首領の顔を、鼻を、頭蓋骨を、命脈を、完膚なきまでに叩き壊していく。
月乃が腕を振り抜くと、首領は回転しながら吹き飛び、壁を一枚破壊してようやく止まった。
確認するまでもない。首領は完全に絶命した。月乃は懐から取り出したハンカチで、血のついた自身の右手を拭いていく。
「…さて…」
想定外に時間がかかってしまったが、制圧は完了した。月乃は先程首領から聞き出した情報をもとに、青少年達がいる場所へと向かうのだった。




