絶望的な差
相手は、こちらの警告も二度とも無視し、さらには警告を受けたことを嘲笑するかのように、強盗致傷事件の数を増やした組織。
その首領が相手ならば、少しは話せるであろう。月乃は歩きながら、そんなことを考えていた。
「…テメェら!!こんな女に逃げるなんざ、情けねぇマネなんてしねぇよな!?」
首領が大声で叫ぶ。しかし、組員達には強い躊躇いが見える。
ーーーそれはそうだろう。先程までの戦闘で、圧倒的な力を見せた。災害とも思える実力差を見せられては、立ち向かう気など起きにくいはずだ。
「…あなたが、この者達のボスですね」
「あ?何だチビガキ。テメェがこの騒ぎを起こしたのか…」
「だったら、何ですか?」
月乃の落ち着いた返答に、首領が顔を歪ませる。その顔は、明らかにプライドに障ったかのような、怒りの表情だ。
首領は懐から、ナタを取り出した。どうやら、戦うつもりらしい。
「SIRENだか何だか知らねぇが…下だらねぇ警告だ。この裏社会で、非力な奴らに意志なんざいらねぇよ。この社会は、弱肉強食なんだよ!!」
その首領の一言で、背後に控える組員達の士気までも上がった気配を感じた。
ーーー単純なものだ。こんなもので、再び希望を取り戻すとは。月乃は呆れてしまった。
「俺ぁ元々軍隊経験者なんだよ…!武器を振るうことにゃ慣れてる!!」
首領はそう言いながら、ナタを振るう。月乃はそれを、紙一重でかわし続けた。
速い。確かに、自身ありげに言うだけのことはある。月乃の銀色の髪の毛が数本、パラパラと落ちた。
しかし、目の前の首領相手にかまけてもいられない。背後にいる組員達が、回避直後の隙を狙い、モーニングスターや斧を振りかぶっている。
どうやら、首領が連携の要にもなっているらしい。急激に、人数の利を活かしたやり方に切り替わっているようだ。
「もらったぁぁぁぁ!!」
月乃の動きが、一瞬鈍る。その瞬間を、組員達は見逃さなかった。
モーニングスターや斧、そしてメリケンサックのついた拳などが、一斉に月乃の頭上へと振り注いできた。
ーーー勝った。組員達は、勝利を確信した。
命中した手応えも、確かに感じ取れる。これだけ叩き込めば、ただでは済まないはずだ。
「見たか!!SIRENの小娘が!!俺等に立ち向かおうなんざ、千年早いんだよ!!」
首領が高らかに笑う。あれだけの攻撃を叩き込まれれば、いかなる人間でもただでは済まない。勝利を確信し、首領が近付く。
だが、次の瞬間。一人の組員の、絶叫が響き渡った。
何だ。確かに、あの女に攻撃は叩き込んだ。あの状況から、逃げられるはずがない。
そう思いながら絶叫の主を見ると、メリケンサックをつけて殴った腕が、完全に折れている。一体、どういうことなのか。
「な、な…!?」
驚きのあまり、動きを止めていると、続けてモーニングスターを持っていた組員が、まるで紙のように打ち上げられてしまう。
何が起きている。目の前で起きていることは、そもそも現実なのか。
「…弱肉強食。その理論を適用するなら、弱者はあなた方のほうですね」
月乃はスカートの裾をはたきながら、平然と立ち上がる。先程と比べると、髪が大分乱れてしまっている。
ーーー全部避けたのか。
いや、あの髪の乱れぶりから、それは考えにくい。それならば、効いていないとでも言うのか。
首領は手を震わせながら、必死に目の前の現実を処理しようとする。
だが、目の前にいる敵は、待ってくれそうにない。
「発言の責任は、取っていただきますよ」
もう少し遊んでも良いのだが、あまり時間をかけ過ぎても、心配をかけるだけだ。そろそろ、終わらせるとしよう。
月乃はそんなことを思いながら、首領との距離を詰めていった。




