渾身のフルスイング
組員達はすっかりパニックだ。元々連携等というものはなかったが、月乃が近づくにつれて、その焦り様も増大している。
「お、おい!!どうするんだ!!」
「お前行けよ!!」
「無理!!あんな化物相手してられるか!!」
「じゃどうすんだよ!!」
何とか対抗策を模索しているようだが、もはや無意味だ。呆れたように、月乃は静かにため息をついた。
「散々機会は与えたというのに、今更そんな議論をするとは…」
そう言いながら、あえて組員達に音が聞こえるように、折れた大剣で地面を軽く小突いた。
鈍い音が、室内にビリビリと響く。その音で、組員達の声と動きが止まった。
「…もう、遅いんですよ。鳴らされたサイレンを聞かなかったから、災害に巻き込まれる。それだけです」
月乃はそう言うと、大剣をまるでバットのように大きくスイングした。その軌道上にいた三人の組員達が巻き込まれ、骨の砕ける独特な音が、悲鳴と共に響き渡った。
ーーー読みの通りだ。この剣は、斬れない。鈍器や鉄棒の類として扱うのがよさげだ。
そんなことを考えながら、月乃は思い切り大剣を振り抜いた。巻き込まれた組員達は、ホームランボールのごとく盛大に吹き飛ばされ、壁や天井に強く叩きつけられてしまった。
「…やはり、強度が足りませんね」
持っていた大剣を見ると、ものの見事に柄ごとへし折れていた。どうやら、月乃のフルスイングには耐えられなかったらしい。
剣を放し、地面に落とす。刃のなくなった剣は、もはやただの棒だ。落ちた時の音も、軽いものだった。
「か、勝てるわけがねぇ…!!」
「ぼ、ボスに報告を…!!」
組員達は何とかして、震える手足を動かしている。
あまりに、圧倒的。
あまりに、絶対的。
あまりに、絶望的。
ーーー目の前の女が、まさに『災害』。そう思わされるだけの実力差だった。
「では、そのボスをここに呼んでください。そうすれば、少しは加減します」
「じゃ、じゃあ…!!」
「…まぁ、もっとも…」
月乃の一言で、組員達が希望を持ったような笑顔を向けてくる。
だが、これは譲歩ではない。この組員達は、末端組員まで含めて、青少年への暴力に加担している。それを知るからこそ、月乃は見逃すつもりなど毛頭なかった。
月乃はそのまま、側にいた一人の男の胸部に、自身の脇の下を潜らせるように拳を叩き込んだ。
「げぼっ…!?」
男は数メートルほど吹き飛ばされ、仰向けに倒れてしまった。
その一発は男の肋骨を完全に粉砕したらしく、男の呼吸が乱れて、非常に浅くなってしまった。
「…殺さない、なんて甘いことを言うつもりはありませんがね」
月乃は冷静な目を、組員達へと向けていた。
組員達は戦慄した。この女は、本気だ。冷静なままで、無感情に、人を素手で殺せてしまう。自分達とは、まるで裏社会の人間としての格が違う。
背格好は、中学生と見間違えるほどに幼い。にも関わらず、大の男をこれほど容易く壊してしまえる。
その事実が、その恐怖が、組員達の動きを完全に鈍らせていた。
「何の騒ぎだ!!」
「ぼ、ボス!!」
そんな空気を切り裂くように、奥の階段から一人の男が現れる。ボスという呼ばれ方からして、この組織の首領だろうか。
ーーーなるほど。いかにも半端なチンピラといった風貌で、ピアスを多数装着した男。恐らく本人は心底格好いいと思ってるかもしれないが、明らかにダサいファッションの男だ。
「む?テメェは何だ!?」
「ボス!SIREN…SIRENです!!」
「なに…?」
その言葉を組員から聞いた首領は、顔色を変えて辺りを見回す。
殴り倒された組員達が複数人。さらに、骨を砕かれた組員達までもが視界に入る。
そして、それを行ったであろう、明らかに組員ではない、一人のメイド服を着た、小柄な女。
「…あのチビが!?」
その状況を理解した首領が、困惑と怒りを込めた声をあげた。
一方、様子を見ていた月乃は、静かに首領を見据え、歩き出していた。




