圧倒的制圧
月乃は冷静に敵の動きを分析する。
刃物を持って襲いかかる者がほとんどで、銃を持っている者は見当たらない。
ゆえに、今回は接近戦がメインとなる。それは、瞬時に理解することができた。
だが、その動きは真っ直ぐで、連携などあったものではなく、各々が好き勝手に動いているようにしか見えない。
「…やれやれ。人数の利点を、全く生かせていませんね」
冷静に分析しながらも、月乃はその場から一瞬で姿を消した。
その直後、月乃がいた場所に向けてフルスイングした組員達の拳が、空気を切る音がした。
「なっ!?消えた!?」
「どこに行った!!」
組員達は慌てて周りを見回す。あの女を見失えば、誰がやられるか分からない。その恐怖は、確かにあった。
だが、それもほんの一瞬。組員達のすぐ横を、何か大きいものがものすごい勢いで飛んでいった。
「いっ!?」
何があったか分からない。だが、その物体が何なのかを認識する前に、その物体は轟音と共に壁をぶち抜いて、ようやく止まった。
壁が壊れ、瓦礫同士がぶつかるガラガラという音がする。組員達は震えながら、その音のする方向を見た。
「が…ふ…」
組員の中でも、大柄で頑強な男。その男の胸元には、一撃で肋骨諸共破壊されたと分かる、深い殴打痕が刻まれていた。
「ば…かな…!?」
どう見ても、小さい物体ではない。大の男、しかも屈強な男だ。それを、野球ボールを投げるよりも早く、勢い良く吹き飛ばしたとでも言うのか。組員達の恐怖は、一気に増大してしまった。
「怖いですか?」
月乃はそんな状況を見ながらも、あえて声を張り上げない。だが、今の組員達には、それでも十分効果的だった。
組員達が、弱者を虐げ、意志を奪い続けていた者達が、圧倒的強者を前にして、恐怖で動けなくなる。今までも何度も見てきた、愚か者の光景だ。
「テメェ…どんなイカサマを…!?」
「イカサマではありませんよ。そんなに気になるなら、あなたも味わいますか?」
月乃はそう言いながら、ゆっくりと一歩前へ踏み出す。月乃の足音が響く度に、組員達は後退りしていく。
一部を除いては、だが。
「アマの風情で…!!」
一人の組員が、自身の身体ほどもある大きな剣を持って、斬りかかってくる。だが、やはり相応に重いらしく、動きは鈍重だった。
「…武器の選定を、間違えていますよ」
振り下ろされてくる剣。だが、月乃は避ける素振りを見せない。否、そんな必要すらない。
自身の拳を握り締め、剣に向けて振り上げた。
ーーー空間に、金属音が鳴り響き、その音と共に、剣の刀身が宙へと舞っていた。
「え…!?」
「私が相手ですから、もう少し軽めの武器を持ってくるべきでしたね」
絶望する暇も、与えるつもりはない。月乃はそれだけ言うと、反対の手を使い、相手の顎をめがけて掌底を放った。
「ごぐっ…!?」
顎を打ち上げられ、体が思い切り反れる。打ち上げた力が強すぎて、相手の体も宙へと舞っていく。
相手の手から、折れた大剣が離れる。
ーーーせっかくなら、有効活用させてもらおう。落ちてきた大剣のみを、月乃はキャッチした。
刀身や殴り飛ばした男が地面に落ちた音もしたが、そんなものはどうでもよかった。
「…なるほど」
折ってしまったとはいえ、やはり重い剣だ。だが、手入れはされておらず、刃こぼれしているもいいところだった。包丁だったら、即研がなければならないレベルである。
剣ではあるが、どちらかというとハンマーのような鈍器として使った方が、まだ活用できそうだ。
「…さて、まだかかってくる勇敢な者はいないのですか?」
待てど暮らせど、組員達は距離を取って後ずさるだけで、先程までの威勢がない。月乃はゆっくり距離を詰めながら、相手に質問した。
しかし、組員達は逃げることこそしないが、月乃という外敵を倒すこともしようとしていない。もはや、木偶の坊と化してしまっていた。
「…仕方ありませんね。では、こちらから参りましょうか」
だが、逃がすつもりも毛頭ない。月乃は歩くペースを加速させ、組員達との距離を急速に縮めていった。




