月乃の本陣突入
「な、何だ!?」
「何の音だ!?」
「サツか!?」
音に気付いた組員達が、音の発生源へと向かう。明らかに、ただ事ではない。
音の発生源は、明らかに玄関だ。組員達はゾロゾロと玄関へと向かう。
ーーーそこに広がっていたのは、想像し難い光景だった。
完全に破壊された玄関の扉、その近くに倒れている守衛。しかも、守衛の顔面の損傷は酷く、死んでこそいないが完全に原型が崩壊している。
一体、何が起きたというのか。本来ならば話を聞くところだが、こんな状態の相手が、何かを喋れるとは思えない。一同は、恐怖に包まれた。
「な、なんだよ、これ…!!」
「おいおい、いったい誰が…!?」
組員達は、議論を交わす。しかし、答えなど出るはずもない。手掛かりが、あまりにもなさすぎる。
ーーーその時だった。
「失礼します」
落ち着いた、しかし冷徹な女の事務的な声が、玄関のホール内に響く。
皆が視線を向ける。
そこに立っていたのは、メイド服の小柄な女だった。
組員達は、動けない。場にそぐわない女が一人、目の前に立っていることを認識するのにも、時間がかかってしまった。
「…さて…」
そんな組員達の様子を見た月乃は、先程守衛に見せた黒い封筒を、再度取り出す。先程は笑われてしまったが、この状況で同じ反応ができるのか。
ーーー見物である。
「この手紙に、見覚えはありますね?」
月乃は敢えて、その手紙を組員達の前へと落とした。手紙は空気抵抗を受け、ヒラヒラと花びらのようにゆっくりと落ちていく。
だが、その手紙を見た瞬間、一人の組員が気付いた。
「黒い封筒に、赤色灯と一つ目の…。まさか…」
組員はそう言うと、カタカタ震え始める。
ようやく、状況を理解したのだろうか。困惑の中に強い恐怖を宿した目を、こちらへ向けてきた。
「…SIREN…なのか…!?ハッタリでは、なく…!?」
ーーーやはり、組織の頭から爪先まで、送った警告文はハッタリだとか、その類のものだと認識されていたようだ。二度も厳しい文面で送ったのにも関わらず、見る目のない輩だ。
「えぇ。手紙に記しました通り、『力をもって止める』ために、お伺いしました」
月乃はそう言いながら、軽くスカートの裾を持ち上げ、膝を曲げて優雅に一礼した。いわゆる、カーテシーと呼ばれるお辞儀だ。
まるで、お嬢様が礼を尽くして挨拶をするかのごとく丁寧に行われた、その行為。それが余計に、恐怖を煽ってしまう。
「…ふざけ、やがって…!!」
だが、それが同時に、組員のプライドも刺激する。すでに、玄関ホールには少なくない人数の組員が集まっていた。
「この人数を相手に一人でやろうってのか!?無謀にも程があるぜ、SIRENさんよぉ!!」
単独でやってきた、小柄な女に負ける。裏社会の男としては、極めて屈辱的な負け方をするなど、断じて認められなかった。ゆえに、組員達に撤退する選択肢は、なかった。
「…そうですか」
組員がその気ならば、こちらも気遣いはいらない。月乃はゆっくりと髪をかきあげ、相手を見つめる。
そして、月乃はその場で戦闘の構えをとった。
「参りましょうか。警鐘を聞かなかった者への、折檻のお時間です」
月乃がそう言い終わる前に、組員達は襲いかかるのだった。




