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SIREN-裏社会の警告者-  作者: ルゥナ
第三案件 薬に支配された町

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浅平の恐怖

 弾幕が展開されていく。銃声とともに、次々に弾がこちらへ向けて発射されている。


 浅平はその一つ一つを、視認していた。手元に握っている杖を、クルリと回した。そして、その杖を、まるで小太刀のように握る。


 あの時、伊東には転ばぬ先の杖だと言った。それそのものは、嘘ではない。だが、これは自分専用の特注の杖だ。このような鉄火場にまで持ち込めるように、当然それ相応のアレンジがしてある。


「…やれやれ。少しばかり、オイタが過ぎますな」


 浅平がそう呟く頃には、すでに弾幕が眼前に迫っていた。当然、大人しく撃たれる気など毛頭ない。


 浅平は迫りくる銃弾を、一つ一つを認識し、自分と伊東に向けられたものだけを、正確に杖で弾き落としていった。


「…は!?」


 あまりの光景に、桂達は唖然としている。アサルトライフルでの弾幕を、何の変哲もない杖一本で、しかも最小限の動きで対処されている。


 杖に弾かれた弾丸は、あらぬ方向へと飛んでいく。ものによっては勢いが完全に死に、地面に落とされるものもあった。


 一発たりとも命中しない。弾切れするまで弾幕を展開しても、その場から移動すらされることなく攻略されてしまった。

 しかも、その隙に伊東が物陰に隠れてしまった。


「な、な…!!」

「おや、おしまいですかな?自身ありげにアサルトライフルを持ち出した割に、銃弾の補充は考慮していなかったように見えますが」


 狼狽する桂一派に、浅平は拍子抜けしたかのような表情を向ける。その足元には、無数の銃弾の残骸が落ちていた。


 ーーー現実なのか。桂も伊東も、目の前に広がる光景を、受け入れることができていなかった。


「ば、かな…!?あんな、ジジイに…!?」


 桂は他の組員達同様に、狼狽していた。伊東よりも年上に見える、しかも杖をついている老人が、複数のアサルトライフルの弾幕を捌き切ったからだ。


 だが、伊東の反応は違う。浅平の対応力を見て、一筋の汗をかいていた。


「浅平、陽一郎…噂は本物、なのか…」


 伊東には分かっていた。還暦を超して、ましてやさらにその上の年代まで裏社会を生き延びた者が、ただ者であるはずがない、と。


 だが、浅平に限っては明らかに格が違う。若衆は知らないかもしれないが、浅平陽一郎という名前は、自分やもっと上の年代ならば、それだけで震え上がるものだ。


 そんなものを目の当たりにして、伊東は畏敬と畏怖を抱いた視線を向けるのだった。


「…もう、警鐘は鳴らされません。あなたがたには、鳴らしても無意味なようですから」


 浅平は杖をつきながら、桂達へとゆっくり近付く。まるで、抵抗は無意味であると言わんばかりに。


 杖をつくコンコンという音が、室内に響く。先程、この部屋に向かう途中にもたてた音だ。だが、桂達にとっては処刑宣告にも等しい音であろう。


「…くっそ…!!ジジイ一人に、やられてたまるかってんだ!!複数人でかかれば対応しきれねぇはずだ!!」


 歯ぎしりをしながら、桂を含めた複数の組員が、ドスや日本刀をもって、浅平に襲いかかる。


 戦略としては間違ってはいないが、浅い考えだ。思わずため息が出てしまう。浅平はあえて、命中するギリギリまで、動かずにいた。


「もらったぁ!!」


 各々の武器が、浅平に向けて突き出される。だが、その瞬間、浅平の姿は陽炎のように消え去っていた。


 ーーーどこに行った。確かに直前まで、目の前にいたと言うのに。桂達は、周囲を見渡す。だが、どこにも見当たらない。


 恐怖。先程まで自分達を圧倒していたあの老人が、どこに潜んでいるのか分からない。どこから狙ってくるのかも分からない。その事実が、桂達の精神を、確実に削っていた。


 銃を持った組員達が、ちょっとした物音に過敏に反応し、あちこちに発砲している。だが、そこに敵の姿はなかった。


「ジジイッ!!出てきやがれ!!この、臆病者がぁぁぁッ!!」


 桂は虚勢を張り、必死に叫んだ。

 すると、杖をつくあの音が、聞こえてきた。


 己の、背後から。桂は震えながら、ゆっくりと振り向いた。


「無様ですね」


 ーーーそこには、冷徹な表情を浮かべた、老執事の皮を被った死神にしか見えない男が、立っていた。

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