舐め腐った選択
桂の言葉に、伊東の顔が真っ赤に染まる。だが、そんな伊東の様子すらも意に介していないのか、桂は首を傾げていた。
「そもそも、ヤクの流通許可を出したのは伊東さんですよね?合理的に流通させて売り捌くための手法をとっただけなのに、何でそんなに止めに来るんですか?マジで意味分かんないっス」
桂は心底不思議そうにしている。どうやら本気で、何が問題なのかを分かっていないらしい。
舐めた態度をとる桂に、伊東はキレた。
「確かに流通の許可は出した!だが、堅気の生活を露骨に侵せなどとは一言も言っておらんし、ましてや飲水として飲ませて依存させろなど…!!しかも、その行為を本部の許可なしにやったことも言語道断だ!!」
ひとしきり叫ぶと、伊東は肩を上下させながら桂を見つめる。だが、桂はそんな伊東を見て、鼻で笑った。
「何怒ってんスか?その分の儲けは還元しているから、本部としてもウィンウィンでしょう?」
「ならばなぜ、本部への報告を改竄したのだ…!」
「いちいちうるさいんスよ、あんたら本部は」
「…何だと?」
伊東が驚きで唖然としていると、桂は自身のこめかみを抑えた。まるで、伊東のせいで自分が困ってます、とでも言いたげだ。
本来ならば、口を挟むところだ。だが、今このフェーズは、伊東が担当しているものだ。浅平は口を挟みたくなる気持ちをゆっくり抑え、穏やかな表情のままやり取りを見守っていた。
すると、桂は大きくため息をついた。
「前々から言いたかったんスけど、そういう人に気を遣うだとか、堅気を巻き込まないだとか、今時そんな甘い運営でやっていけると思ってるんスか?」
「…何?」
「目を覚ましてください伊東さん。綺麗事ばっか言ってたら、裏組織の運営なんてできやしませんよ」
「…ッ!!この…ッ!!」
その言葉に、伊東の顔が再び赤く染まった。
なるほど。桂の言うことも一理ある。裏社会に長年い続けている浅平は、綺麗事で済まないような人間の末路や事件を、腐るほど見てきている。さらに、金がなくて腐っていく組織もごまんと見てきた。それゆえ、同意できる部分もわずかながらにある。
ーーーだが。それが他者の「意志」を、「選択する自由」を奪っていい理由にはならない。例えそれが、法に守られない裏社会であったとしても、無関係だ。
「…直ちにあの町のライフラインから手を引け…!でなければ、私はお前を、組織から切り離す!!」
「なぁんで俺の言ってることが分かんないんスか伊東さん…。でも、好都合っス」
「何?」
怒りを抑えながら、伊東は組織としての判断を突きつける。やはり、許容範囲を逸脱していたらしい。
だが、桂は伊東から絶縁を突きつけられてるような状態だと言うのに、むしろ嬉しそうだ。一体、なぜなのか。
伊東と浅平が困惑していると、終始ヘラヘラしていた桂から、急に笑みが消えた。
「…近いうちに、アンタ諸共殺すつもりでしたからね。ずーっと俺のやり方に口出しばっかしてきやがって、いい加減ウザったいと思ってたところだったんスよ…!!」
そのひと言を言うと同時に、桂の背後から武装した組員達がゾロゾロと出てくる。
ーーー野心家で、本部の立場すら狙っているという眉唾物の情報は、強ち間違いではなかったらしい。浅平は、その情報の提供主に、心の中で礼を言った。




