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SIREN-裏社会の警告者-  作者: ルゥナ
第三案件 薬に支配された町

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19/25

親組織の視察同行

 二週間後。とある町にある一棟の廃ビル。そこの近くにあるパーキングエリアに、一台の黒塗りの車が止まった。

 運転席のドアが開き、中から老齢で白髪の、杖をついた執事服の男、浅平陽一郎が出てきた。


「到着いたしましたぞ、伊東様」


 浅平はそう言いながら、車の助手席のドアをゆっくりと開けた。その中には、浅平よりも少し若いくらいの年の、黒いスーツと白い髭が特徴の、頭髪が少し薄くなっている、伊東と呼ばれる男がいた。


「…わざわざ申し訳ありません。このような手間を、あなたにかけさせてしまうなど…」

「いえいえ。私はただの老人に過ぎませんから」

「裏社会でその年まで生き残れてるだけでも十分だと言うのに、あなたは…」

「さて、では行きましょうか」


 ここには、世間話をしに来たわけではない。浅平は話を早々に中断させ、伊東と共に目的地の廃ビルへと歩き出した。


 今回の伊東による二次団体組織本部の視察は、波多野からの提案もあり、完全に抜き打ちで行うことになっている。そのため、組織の組員達は誰一人として、今日伊東が来ることを知らない。

 だが、その方が実態をより掴みやすくなる。その判断に、伊東も同意してくれたと聞いていた。


「隣町のライフラインを汚染し、水の中に麻薬成分を溶かすなど…裏社会である以上、綺麗事を言うつもりは微塵もないですが、さすがに汚いやり方にも程がある…」

「親組織の首領から直接警告されて、それでも止めないとなれば、私も容赦はしません。それでよいですな?」


 歩きながら、改めて伊東の意志を確認する。ここを疎かにしてしまえば、波多野の作戦は全てパアだ。


「…構いません。ウチとしても、庇いきれない」


 だが、その心配は杞憂に終わる。伊東はハッキリと、二次団体を見限ることを明言した。


 ーーー言質は取れた。後は、伊東に現場の様子を見させるのみだ。


 廃ビルの中に入ると、そこは薬物特有の甘い匂いが充満している。これ自体は、麻薬を扱う組織であれば珍しいことでもない。浅平も伊東も、平然としたまま奥へと進む。


 伊東はまるで自宅にでも来たかのような迷いのなさで、二次団体組織本部を歩いていく。どうやら、彼の中にハッキリと確認したい場所があるらしい。

 浅平は、その後を静かについて行った。


 浅平の杖が地面を軽く叩く音が、コンクリートの壁にコンコンと響く。その音は、伊東の足音よりもどこか大きく響いている気がする。


「…それにしても、浅平さん」

「はい?」

「見たところ、足取りがしっかりしているようですが…なぜ、杖を?」


 歩きながら、伊東が静かに尋ねてくる。浅平は自身の杖を一瞥すると、穏やかに微笑んだ。


「なに…私ももう年ですからな。今は問題ありませんが…万が一がありますのでね。転ばぬ先の杖、と言うやつです」

「…そう、ですか…」


 伊東は訝しげにしていたが、特に追及してくることはなかった。


 浅平の年ならば、朴本くらいの年の息子がいてもおかしくないし、何なら介護を受けていても違和感がないくらいだ。それゆえ、不測の事態に備えるのは当然のことであろう。


「さて…浅平さん。ここからは少し、手荒にいきますので」

「どうぞ。私はあくまで、伊東様の視察の付き添いに過ぎませんので」


 目的の部屋の前に到着すると、伊東はこちらを確認してくる。それに対し、浅平は穏やかな笑みを浮かべたまま答えた。


 これはあくまで、親組織の首領、伊東による二次団体の視察。ならば、彼のやり方に口を挟む道理はない。


「…邪魔するぞ!!」


 伊東は、その部屋の扉を殴り壊して開いた。

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