役割分担
数日後。
波多野は追加で届いた調査資料と、本家組織から返ってきた手紙を見ていた。
手紙を開くと、そこには裏社会の猛者らしく、雑ながらもどこか品のある字体での返信が書かれていた。その中身は、「該当組織にはこちらからも何度も警告しているが、目の前の利益に眩んでしまってて止めることができない」というものだった。
ーーーどうやら、少なくとも手紙の上ではまともそうに見える。統治能力や管理能力は弱そうだが、少なくとも止めようとはしているらしい。
追加で届いた資料に書かれてるログを見ても、その事実を肯定する記録しか書かれていなかった。
「…どうやら、思ったより上は腐っていないみたいね」
「そのようですな」
資料を見ながら呟いた波多野の一言に、資料を持ってきた浅平が反応する。波多野の隣で、月乃も資料を覗き見ている。
「…ただ、この組織の制止ではもはや、期待できそうにありませんね」
「そうね。制圧対象にはしないけど、管理者としては甘いと言わざるを得ないわね」
「なら…どうしますか?真凛」
「そうね…」
月乃に聞かれ、波多野は少し考え込む。
単純にこちらで組織を潰すことも可能だ。だが、それで背後に控える親組織と確執ができてしまうのは得策ではない。
理想は、親組織側が止めてくれることか、もしくはーーー
「この組織が親組織との関係性をなくす、となれば話はシンプルに済むんだけどね」
「…なるほど」
波多野がそう呟くと、やりとりを見守っていた浅平がゆっくりとこちらを向く。
浅平は老齢ですでに隠居してる年齢ゆえ、基本的に若い波多野達に運営を任せており、滅多なことでは口を挟んでこない。だが、波多野が必要とする局面で助けを求めれば、必ず期待以上に応えてくれる。
波多野はほんの少しの期待も込めて、そんな浅平を見つめた。
「真凛。親組織との交渉ならば、私が行いますが」
「浅平さん…」
「手紙の内容に関して、話を聞きたがってるでしょうし」
浅平の申し出は、概ね予想通りの内容だった。
だが、波多野は首を振った。今回の二次団体の暴走は、親組織から切り離しただけではおそらく、何も解決しない。町の住人達の意志は、奪われ続けることになるであろう。
ーーーそうなると、もっと踏み込んだ対応が必要だ。
「…いえ、いっそ現場に連れていきましょう」
「現場?」
波多野の言葉は、浅平ですら予想だにしていなかったようで、浅平は目をパチクリさせた。だが、波多野は気にすることなく続けた。
「えぇ。百聞は一見にしかず。二次団体本部に視察の名目で親組織の方をお連れし、現場でどの様な運用がされているのかを把握してもらいます」
「…ほう」
「そして、対面で二次団体組長に最終警告してもらい、それでも止まらないなら…」
「そこで我々が、ということですかな?」
「えぇ、そうです」
波多野のプランに、浅平は唸った。この流れならば、親組織もメンツを保てるし、仮に反抗してきてSIRENが組織を制圧したとしても、親組織立ち会いのもとになるため、少なくとも筋は通せるはずだ。
「なるほど。面白い提案ですな」
「浅平さん。親組織の首領との交渉は私が手紙で行いますので、その仲介と現場での案内役をお願いできますか?」
「かしこまりました。お任せください」
波多野はそれだけ言うと、便箋とペンを取り出す。
いつもなら警告の手紙は月乃に書いてもらっているのだが、今回はSIRENの首領として、自分で対応しなければならない。波多野は、サラサラと手紙を書き始めた。
「浅平さん。仲介については私もお手伝いしますよ」
「おお、それは助かります。ありがとうございます」
月乃と浅平は、そんな波多野に背を向け、執務室を出るのだった。




